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――――――――――1555年6月5日 内城 島津貴久――――――――――

「父上、父上!」

「忠平、もう少し静かにできんのか。寝ずに番をしていた兵が今寝ているのだぞ」

「そうはいってもよ、兄者はあれを許せるのか。あんな舐めた真似をされたことはないぞ。な、歳久」

「あれはどう考えても何かの策だと思いますが。ま、確かに腹立たしいですな」

倅たちが何やら話しながらこちらに近づいてくる。どうやら儂を探していたようだが何かあったのだろうか。そういえば惟宗の様子を見てくると言っていたな。


「皆、いかがした」

「父上、聞いてください。惟宗の様子を見に行ったのですがわざわざこちらが見えるところで酒を飲んでいたんですよ。あれ程舐められたのは初めてです」

「お前はまだ数回しか戦に出ておらんだろうが。父上、いかがしますか。あれが敵の策である可能性もありますがあのままというのも不愉快です」

酒盛りか。この城が囲まれてから大分時間がたっている。油断したのだろうか。


「まったく、こちらは兵糧もできるだけ長持ちするよう調整しながら食べているというのに。戦場に出てきて酒盛りとは。うらやま、じゃなくて不愉快ですね」

「歳久、今うらやましいといいかけなかったか」

「何を言われますか。私は酒好きですがそれほどではありませんよ」

いや、忠平の言う通りだと思うのだが。


「それよりあれは惟宗の策に違いありませんよ。こちらの守りが固いので野戦に引きずり出そうとしているのですよ。以前そのような策を使った戦の事が書かれている書物を読んだことがあります。父上、触らぬ神に祟りなしです。放置しておきましょう」

「歳久、その戦は油断させようと酒盛りを始めたら本当に油断して籠城側が奇襲を仕掛けて勝ったではなかったか」

「兄上、惟宗がそのような失敗をすると思いますか」

「それもそうか」

罠か、それとも油断か。もし油断だったとしたらここで攻めない手はない。だが歳久の言う通り罠であれば攻めるわけにはいかん。どうしたものか。


「義辰はどう思う」

「罠であれ油断であれ酒盛りをしている様子を城兵たちが見たら不満が溜まるのではないでしょうか。ただでさえ昼夜問わず断続的に大筒で攻撃してきますので兵たちはあまり眠れていないのです。すぐに不満が爆発してもおかしくないです。ならば罠であるという前提で攻めるべきかと」

ふむ、どうしたものか。奇襲を仕掛ければ勝てるかもしれんが罠である可能性も考えると二の足を踏んでしまうな。

「義辰、皆を集めてくれ。軍議を開く」



数刻後、皆が集まったので軍議を始めた。まず義辰が先程報告したものを皆に伝える。皆、かなり不愉快そうな顔をしていたが罠である可能性を指摘すると顔が引き締まった。それでこそ島津の将よ。

「さて、先程の報告が罠か、油断か。皆はどう思う」

「御屋形様、ここは何もしないのが最も良いかと」

初めに進言をしたのは忠倉だった。


「これが罠だったとするならば惟宗がこの城を攻めあぐねているということです。わざわざ危険な目に合ってまで国康の頸を取りに行くよりこのまま籠城して惟宗が兵を引くのを待てばよろしいかと」

「しかし、これが罠でなかった場合は絶好の機会を逃すことになりますぞ」

反論したのは政年だ。この二人は性格が似ていないからかあまりそりが合わないな。


「我らは大内が筑前に攻め入るのを待っていれば勝てるのです。惟宗さえいなければ蒲生らを討伐することは可能でしょう。今我らから進んで犠牲を払うような真似をしてもあまり意味はないでしょう」

「意味ならあります。大内が攻め入ったから兵を引いたのと我らが敗走させたというのではまったく意味が違います。後者であれば我らの武勇を天下に響き渡らせることができます。それによって我らに寝返ろうとするものが多く現れるでしょう。我らの三州奪還が楽に進むようになるでしょう」

「しかし我らに寝返ろうとする者がいるだろうか」

「御屋形様、彼らは関所を廃され年貢も減らされているのです。間違いなくこちらに付くでしょう」

政年が自信ありげに頷く。他のものも政年を支持しているのか感心しているように頷く。忠倉は自分の意見にあまり自信がなかったのか反論する様子はない。決まりだな。


「では今夜、夜襲を仕掛けるぞ。だが罠である可能性もある以上こちらも策をたてる。まずは忠平、歳久」

「「はっ」」

「お主らは一隊を率いて惟宗に奇襲を仕掛けろ。罠であったとしたら出来るだけ被害が出ていないうちに城に戻れ」

「「はっ」」

若いがそれぐらいのことをする能力はあるはずだ。

「次に政年。お主は一隊を率いて城の近くに潜伏せよ。罠でないようだったら忠平たちと合流し罠だった場合は忠平たちを追撃する惟宗を一度やり過ごし、背後から奇襲を仕掛けよ。忠平たちはその時に反転して惟宗を正面から攻撃せよ。残りのものは城に残る。そして惟宗が忠平たちを追ってきた場合は城を出て攻撃に加わる」

「「「はっ」」」

これで何とかなるだろう。惟宗といえど自分の策がうまくいけば油断するはず。そこを突けば我らが勝つことはできる。

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