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籠城

―――――――――1555年5月11日 内城 島津貴久――――――――――

「断固徹底抗戦あるのみ。降伏など論外じゃ」

「御隠居様のおっしゃる通りだ」

「そうだそうだ」

父上が徹底抗戦を声高々と主張するとほかの者たちもそれに同調して声を上げる。はぁ、予想はしていたが徹底抗戦か。厄介なことだ。


先程、大隅の島津方の城を全て落とした惟宗より降伏を促す使者がやってきた。降伏の条件は給黎郡・揖宿郡・頴娃郡・川辺郡・阿多郡・大隅の割譲。もちろん認められるはずのない条件だ。惟宗もそのことは百も承知のはず。戦に勝った後にこれ以上の条件を出すつもりなのだろうな。不愉快なことだ。だがそれ相応の差が島津と惟宗の間にあると国康は考えたのだろう。筑前に1万の兵を置いていながら3万の兵を動員しているのだ。覚悟していたことではあるが敵対してみると改めて大きく感じるな。いや、実際に大きいのだろう。だが家臣たちの中にはその差を理解できていないものが多くいる。

おそらく父上は差を理解しているのだろうが家臣たちの手前、弱気なことを言うことができず徹底抗戦を訴えているのだろう。そして弱気なことを言えないのは儂も同じだ。


「皆の言う通り降伏などありえん。必ずや惟宗を退けようぞ」

「おぉ、さすが御屋形様です。頼もしい限りですな。ではすぐに籠城の準備をいたしましょう」

忠倉が籠城を提案する。ま、我らの方が数は少ないのだからそれが妥当だな。

「何を言われるか、忠倉殿」

む、あれは鎌田政年かまたまさとしだな。

「籠城とは援軍が見込める時にせねば意味がございませんぞ。実際に大隅の島津方の城は籠城しましたがすぐに落とされたではないですか。我らが勝つには野戦で決着をつけるしかないと思いますが」

政年の言葉に何人かが頷いている。その中には息子の忠平もいた。確かに援軍は来ない。だが惟宗には我ら以外にも敵がいる。


「政年。敵の数は我らの4倍近くあるのだぞ。儂は籠城して時間を稼ぐ方が良いと思う。国康が長期間国元を留守にしていれば大内殿がその隙をついて攻め入ろうとするはずだ。さすれば国康とて国元に戻らねばならん。そこを追撃すれば我らの勝ちよ」

「しかし惟宗は攻城戦を得意としていますぞ。危険ではないでしょうか。ならば地の利があるこの薩摩で野戦を仕掛けた方がよいかと。それに3万とはいってもこちらに攻め入ってくるのは2万です。十分勝機はあるかと」

「そうはいっても相良は野戦で負けたではないか。おおかた相良も同じようなことを考えたのだろう。ただでさえ兵力の差があるというのに負けて籠城もできないほどの被害を受けてはかなわん。それに勝ったとしても被害は大きくなるのは目に見えている。そのあとに大隅に攻め入っている1万が合流してまたこちらに来る。その時には野戦はできんだろう。場合によっては籠城すらできんかもしれん。皆の武勇は知っているが島津家の当主としてそのような危険な真似をするわけにはいかん。追撃の時にその武勇を見せてくれ」


惟宗をこれまでの敵と同じように考えるのは危険だ。慎重に行動せねば。

「今回は籠城して惟宗の攻勢をしのぐ。皆もすぐに籠城の支度をせよ」

「「「はっ」」」

「忠倉は鉄砲の弾と火薬の確認もしておけ」

「はっ」

何もしなくても動くだろうが念のため陶にも惟宗の背後をつくよう書状を書いておくか。


―――――――――――1555年5月30日 内城周辺―――――――――――

「はぁ」

本陣の目の前で内城を眺めて思わず溜息が出た。やっぱり攻城戦は時間がかかるな。島津の事だからさっさと野戦に持ち込むかと思ったんだけどな。

「御屋形様、いかがなさいましたか」

側にいた康興が心配そうに声をかけてきた。最近は兵站衆としても武将としてもしっかり働いてもらっている。ここを囲む前に落とした比志島城では城主を討ち取った。そろそろ加増してあげようかな。


「気にするな。時間がかかるのが不愉快なだけだ」

「はぁ」

康興が困ったように返事をする。

「この城以外にも島津方の城はある。大内や大友が筑前に攻め入らないとも限らない。さっさとこの城を降して次の城に行きたいものなのだがな」

「この城は島津の本拠地にございます。この城が降伏するときは島津が降伏するときです。言い換えればこの城さえ落とせばあとは楽に運ぶでしょう。焦りは禁物かと。それに筑前には弟君と1万の兵がおります。そう簡単には攻めようとしないでしょう」

「だといいのだがな。あと康正の事はそんなに畏まる必要はない。せいぜい殿でもつければ十分だ。あいつにも元服した時にほかの者たちと待遇を変えるつもりはないと伝えている」

「はぁ。かしこまりました」

また康興が困ったように返事をした。


「奇襲にはしっかり警戒しておけ。島津が勝つには大内が筑前に攻め入り1万の兵が破られて慌てて帰る我らを背後から襲うか、奇襲で俺の頸をとるかのどちらかだ。念には念を入れておけ」

「はっ」

桶狭間の戦いでの今川義元みたいにならないよう気を付けなければ。

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