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薩摩

――――――――――1555年4月1日 内城 島津貴久――――――――――

「御屋形様、伊集院忠倉にございます」

「そうか、入れ」

「はっ」

そう言って忠倉が静かに入ってくる。

「お呼びと伺いましたが御用の趣は?」

「蒲生どもの事だが少し厄介なことになってきた。惟宗が和睦をするよう勧告してきよった」

「とてもではありませんが受け入れられませんな」

「あぁ、それは惟宗も承知のはず。おそらく断ったことを理由に攻めてくるのだろう」


惟宗国康。惟宗家を一代で対馬の一国人から九州最大の大大名にまで大きくした傑物。その国康がいよいよ本格的に介入しようとして来ている。今までは大友・大内という大大名がいたせいでこちらにまで手が回らなかったのだろうが大友は謀反人を片付けるので精一杯。大内は毛利と対立している。とてもではないが惟宗の警戒するべき敵ではないだろう。


「しかし惟宗は筑前に1万の兵を置いていますぞ。それでもこちらに来るでしょうか」

「惟宗は肥前・肥後・筑前・筑後を支配下に置いている。総兵力は4万以上とみてもおかしくはあるまい」

「そうなるとこちらに来る兵は約3万でしょうか。それに比べて我らは1万の兵を動かせるかどうか。それに伊東の備えもしなければならないので実際に動かせるのは薩摩の兵だけ。せいぜい7000ほどでしょう」

つまり兵力の差は約4倍。薩摩の兵は精強だがそれでも厳しいとしか言いようがない。


「それにしても惟宗は敵ながらすごいですな。昨年は筑前・菱刈・筑後と戦が続いたのにもかかわらずまだ戦を仕掛けることができる。我らの常識では測れません」

「博多を手に入れたのが大きいだろうな。それと長崎。あそこは南蛮船が多く集まっていると聞く。最近は琉球の船も坊津ではなく長崎に行こうとしているせいで我らの資金は減り向こうは増える。それに船だけでなく農民まで惟宗に流れ始めている。惟宗は筑後の平野を開墾するために農民を多く集めているから待遇は良かろうな」

それに惟宗の兵は銭で雇われている兵だ。農繁期であろうと関係なく戦を仕掛けることができる。交易と銭の兵、この二つで惟宗は九州最大の大名になりあがった。


「惟宗が仕掛けてくるのが分かっているならば早めに動いておいた方がよいだろう。戦の準備をしてくれ」

「惟宗とやりあうのですか。それは少し危険ではないでしょうか。大友・大内が落ち着くまで何とかやり過ごしておいた方がよいかと思いますが」

「無駄だ。惟宗からの和睦の仲介を受け入れたとしても次々に無理難題を吹っ掛けられて結局は戦をせねばならんだろう。それなら向こうの都合に合わせず此方から戦を仕掛けた方がまだ勝算はあると思う。もともと来月には戦をするつもりだったのだ。それが少し早まっただけだ」

「かしこまりました。ほかの家臣たちには」

「明日、軍議を開く。その時に伝えようと思っている」


―――――――――――1555年4月30日 塚崎城――――――――――――

「御屋形様、皆様がそろいました」

「分かった。すぐに行く」

「はっ」

小姓が下がる。


島津は蒲生らとの和睦の話をあっさりと断ってきた。予想通りだったな。むしろ受けると言われた方が驚く。島津が戦を続ける理由は薩摩・大隅・日向の三州奪還だ。断った後はすぐに蒲生方の帖佐平佐城を攻め落とした。慌てたのは蒲生たちだ。勝算を持って加治木城を攻めたのに逆に岩剣城を奪われて今度は帖佐平佐城だ。このままではジリ貧だと考えたのだろう。急いで自分の領地の守りを固めると俺の元に何度も援軍と島津討伐をと使者を送ってきた。このまま放置すると惟宗傘下の国人たちが頼りないと思って裏切りの準備をしようとするかもしれない。という訳で島津討伐を行うことになった。兵の数では4倍以上の差があるから問題ないだろう。あとは将か。康正・盛長・経治・康胤は筑前にいるからもちろん使えないな。それに比べて島津は猛将・勇将が多くいる。しかも島津を裏切る可能性は低い。困ったな。


前に兵法衆に作戦を立てるよう伝えていたが昨日その作戦について説明を受けた。まず動員する兵の数は3万。そのうち1万は別動隊として日向の島津方の城を攻略し大隅に侵攻する。残りの2万の本隊は薩摩に攻め入って島津を降伏ないし滅ぼす。降伏を認めなければ島津の兵が死兵と化してしまう可能性があるからな。島津の死兵とか厄介だろう。俺としては降伏してもらいたいな。大友や毛利と敵対するときに島津の将を使いたい。初めは薩摩の一部以外を除いて没収しておいて手柄を上げたら少しづつ恩賞として渡していく。そうすれば惟宗に反抗しようとはしないだろう。しないよね。

大隅の国人たちはとりあえず島津が降伏するまで監視ぐらいでいいだろう。島津の分家の豊州家があるのだが本家が降伏すればそれに従うはずだ。本家の助けなしで伊東氏と対決できるとは思えないからな。島津が降伏した後、大隅の国人たちがどう動くか分からないが敵対するとしてもせいぜい数千だろう。問題ないな。

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