豊州の三老
―――――――――1555年3月1日 大友館 臼杵鑑続――――――――――
「はぁ」
御屋形様の部屋を下がりある程度すると鑑連殿が溜息をつかれた。
「いかがしましたか」
一緒に部屋を出た長増殿が心配そうに尋ねる。
「いえ、なかなかうまくいかないと思いましてな。惟宗の婿殿はその間に筑前の大半と筑後全域・薩摩の一部を勢力下に収めて順調に勢力を拡大している中、大友家は内乱に苦しむ。いったい何が違うのかと考えていると思わず溜息が出てしまいます」
確かにそうだ。大友は義鎮様が御当主になられてからなかなかうまくいかない。義長様が大内の当主になられたことで大内を警戒しなくて済むかと思えば今は毛利と吉見に押されている。昨年も兵の数では圧倒的に優位だったというのに折敷畑では大敗を喫していた。何とか吉見との和睦を纏めることはできたみたいだが大内の地位が下がるのは目に見えている。もし大内が毛利に滅ぼされるようなことがあれば大友は勢力拡大どころではなくなる可能性がある。厄介なことだ。
「今後の大友家の存続のためには惟宗との連携が大切になるでしょう。鑑連殿は政千代殿が嫁いでいますし鑑続殿は大友家の外交の要。お二人はこれまで以上に働いていただかないと困りますぞ」
「そういう長増殿は内政の要ではないですか。御屋形様が内政に興味がないままでしたら大友の興亡は長増殿の手腕にかかっていますぞ」
「なに、儂のほかにも鑑理殿がいますので何とかなるでしょう。そろそろ隠居をと考えていましたがそういう訳にはいかないようです」
そう言って長増殿が溜息をつかれる。長増殿は先々代の代から大友家にお仕えしている。まさに大友家の生き字引と言えるだろう。
「しかしこのまま御屋形様が内政を顧みないのは問題ですな」
「左様ですな、鑑連殿。惟宗は国康殿が率先して内政に力を入れているためかなり発展しているという」
「新しい技術を取り入れたり優秀な人材を採用したりして発展していますな。特にあれには驚きました。国内で作った磁器」
あれを見つけたのは偶然だったらしいがそれをすぐに利用して領内を発展させた。今も陶石が領内にないか探してたまに見つかっているらしい。
「あぁ、あれには某も驚きました。結納の品の中に磁器が入っているのを見つけた時は思わず声が出そうでしたよ」
戦場ではどんなことがあっても眉一つ動かさない鑑連殿が驚かれるとは。しかしその話を聞いたほかの家臣たちも驚いていたな。
「ま、まず我らが為すべきことは一刻も早い内乱の鎮圧ですな。御屋形様が内政に力を入れてもらうよう諫言するのはそのあとです」
「頼りにしていますぞ、鑑連殿」
「こちらこそ兵糧の準備などは頼りにしていますぞ、長増殿。今年中には豊前の反乱を片付けねばなりませんな。それと筑後の事も」
「それはこの鑑続にお任せを」
―――――――――1555年4月1日 立花山城 惟宗康正―――――――――
「千葉康胤、御屋形様の命により5000の援軍を引き連れてまいりました。この後は康正様の指揮下に入るよう言われております」
「よく来てくれた。頼りにしているぞ」
「はっ。それと御屋形様より書状を預かっております」
兄上からの書状?いったい何が書いているのだろうか。
「こちらにございます」
懐から書状を取り出しこちらににじりよって渡してきた。しかし何が書かれているのだろう?今後の指示であれば康胤に伝言を頼めばよかったはず。
「書状の内容は聞いているか」
「はい、今後の事と康正様の事が書かれいます」
「そうか、読ませてもらうぞ」
そう言って書状を開く。
‶康正、宗像の件御苦労であった。若いということで舐められて何かと苦労していることだろうが追加の仕事を頼みたい。近くにいるからこちらより情報があるだろうが筑前大友領に豊前の国人どもが攻め込んで秋月領以外を攻め落とした。秋月は大友に人質を置いているせいで離反できずいつ豊前の国人どもに攻められるかと戦々恐々としているだろう。秋月に恩を売るため、筑前を惟宗の支配下におさめるために麻生領以外を攻めよ。詳しいことは康胤から聞いてくれ。そっちの兵を含めれば1万を超えるだろう。康正とほかの将たちの実力で十分攻め取れるはずだ。朗報を期待している。
それから大内が今年中に毛利を一たたきするつもりみたいだ。おそらく毛利が勝つと思うがどちらが勝っても問題ないよう備えておいてくれ。もし大友が何か言ってきたらすべて俺の方で交渉すると伝えるよう。皆の意見をしっかりと聞き、無理をしないよう努めてくれ。それと今のうちに皆の武功を纏めておいてくれ。寝返った国人がいたらまず手持ちの太刀などを与えて俺に伝えるとしっかり言っておけ。それで国人たちは安心するはずだ。それから人質を渡されてもすぐに返しなさい。邪魔にしかならんからな。
説教みたいになってしまったので一つ康正に朗報を知らせておこう。嫁をとることになった。もちろんお前の嫁だ。山科卿の三女、阿弥殿だ。輿入れは来年の予定となっている。そのうち手紙を送るといい。
それと政千代が妊娠したみたいだ。お前も叔父として恥ずかしくないような男になれよ。
それと九州探題に命じてもらうよう大樹に掛け合っている。まだ確定ではないがおそらく認められるのではないかと思う。調略の際はそういったことも使って出来るだけ被害を出さないよう頑張ってくれ”




