岩剣城の戦い
―――――――――1554年10月5日 塚崎城 北原頼氏―――――――――
「そうか、失敗したか」
そう言って御屋形様が溜息をつかれる。しかしそれほど落胆した様子はない。失敗すると思われていたのだろうか?
9月に蒲生が島津方の加治木城を攻めた。それに対して島津は南より蒲生方を牽制するため岩剣城を攻め落とした。あの城はなかなかの固城と聞いていたが時期が悪かったのと島津の将が優秀だったからかひと月もせずに落城した。
「それで岩剣城を守っていた将はどうした。そもそも誰が守っていたかな?」
「はっ。岩剣城を守っていた将は祁答院良重で、現在は帖佐城に逃げ込み抵抗を続けています。また加治木城を囲っていた兵も岩剣城が落ちた際に撤退しました」
「この間会った重朝の主人か。確かあの二人は兄弟であったな。その二人の仲はどうだ」
「悪くもなく良くもなくと言ったところでしょうか。しかし弟の重朝には野心はあまりないようですので島津方に調略されるようなことはないでしょう。ほかの反島津派の国人たちもそう言った心配はないかと」
「そうか。信用できん味方は敵より厄介だからな。そう言ったことがないのは良いことだ」
御屋形様の言う通りだ。信用できなければ策を考えるうえでも支障があるだろう。御屋形様がそのような余計なことを考える必要が無いよう我らが御屋形様の目となり耳とならねば。
「島津の国人や将を調略できるか?能力はあるがそれほど優遇されていないものがいればよいのだが」
「残念ながらそのような者はいません。貴久に反抗的だった薩州家も当主が変わってからは従順です。大隅の国人たちも近くに伊東氏という強大な敵がいるのでそう簡単にはこちらに付かないでしょう」
「迷惑な話よな。確か義政公より賜ったという御教書があると聞いたが真なのか」
「さてどうでしょうか。どうも偽書のような気もしますが実際に支配する力がなければ本物でも意味はございますまい」
支配できる力と根回しさえあれば惟宗のように理由など後からついてくる。御屋形様もそう御考えだろう。
「薩摩・大隅は農作に向かないせいか、惟宗領内の様子が噂で流れるとこちらに逃げてくる農民が一気に増えた。おかげで肥前・筑後にまたがる平野部の開発が予定より進んでいる。島津も年貢が減ったせいで戦がしにくいであろうな」
「左様ですな。一時は大内が兵糧の支援を行っていたようですが毛利と本格的に戦が始まったのでいずれ支援もなくなるでしょう」
「そうだな。ついこの間も毛利から密使が来た。筑前の大内方の国人を攻めてほしいとな」
毛利か。一国人から多くの策を使い安芸を掌握するにまで至った。かなりの傑物と聞いている。
「惟宗領内にも忍びのものを入れています。油断なさらない方がよろしいかと」
「確か世鬼とか言ったか。それ以外にも多くの忍びを雇っていると聞く。はっきり言ってこれまでで一番敵に回したくない大名だな。ま、惟宗の目的は九州統一だ。あちらから来ない限り問題ないだろう」
「しかし毛利は大内の後継者を名乗りいずれは筑前・豊前にも手を出してくるでしょう。その時に備えておいた方がよろしいのでは」
「その時は九州以外にも領地を持つことになるだろうな。もしかすると京の都以外は惟宗の領地ということになるかもしれん」
「それは・・・」
天下を取るということだろうか?確かに九州をとれば天下有数の大大名となることができる。京までの道のりを確保すればあるいは天下を取ることができるかもしれんが。
「はははっ、そんな顔をするでない。冗談というか夢物語だな。いつ九州統一ができるか分からん以上そんな無責任なことは言えんよ。ま、都都熊丸の代ではどうなるか分からんがな。それよりも今の話だ。まずは大友の内乱はどうなっている」
「初めは謀反を起こした国人たちが優勢でしたが当初予想されていた鑑連殿の参戦がなかったためその後はにらみ合いとなりました。ですが筑後を我らが抑えた後は義鎮も焦ったのか鑑連殿を加判衆に復帰させると豊後の謀反人たちの討伐を命じました」
「なんとまぁ虫がいい話だな。ほかの家臣たちも呆れておろう」
確かにそのようなことは聞いている。そのようなことがあればあるほど義鎮への大友家への思いも離れていくだろう。大友家と本格的に敵対することになれば調略しようもあるだろう。
「豊前はどうなっている」
「どうやら筑前の大友領を攻めようとしているようです。しかし総大将を誰にするかもめているようで攻め取れたとしてもかなりの被害を受けることになるでしょう」
「そうか、すぐに筑前の宗像攻めを行っている康正に追加の兵を送っておくか。うまくいけば今年中に筑前も統一できるやかもしれん」
筑後統一は想定していたより早く終わった。御屋形様はその勢いに乗りたいのだろう。
「これからは九州統一のため邪魔をされたくない。そのためにも多聞衆にはしっかり働いてもらうぞ」
「もとよりそのつもりです。どうぞ存分にお使いください」
御屋形様に拾っていただいた御恩はまだ返し切れていない。御屋形様が九州統一で満足されるか天下を狙うかはわからないが我らはそれに従うのみ。
「頼もしいな。いずれは多聞衆の領地をと思っている。これからも頼りにしているぞ」




