騒乱の佳境
――――――――1552年9月10日 塚崎城 北原頼氏―――――――――
「ふん、やっと動き出したか」
御屋形様はそう言うと溜息をつかれた。おそらく遅すぎると思っておられるのだろう。御屋形様であれば加勢の約束を取り付けた時点で攻め入っていたはずだ。
「はっ。まずは岡城の援軍と南山城の攻略に乗り出したようです。おそらく南山城主志賀鑑隆はすぐに降伏するでしょう」
「確か家を割った志賀の分家か。ならば本家が助命嘆願をするだろうな。総大将は義鎮か?」
「はい。副将には鑑連殿が」
「舅殿か、ならば義鎮派が勝つな。明日にも戦の支度をさせよう」
御屋形様はよほど鑑連殿を信用しているのだろうな。もしこれで鑑連殿が副将でなかったらどうしたのだろうか。義鎮派が無謀な突撃をして疲れ果てたところを義鑑もろとも潰したのだろうか?
「大友の内乱もそろそろ佳境を迎えるな」
佳境とは大友にとってだろうか。それとも惟宗にとってだろうか。
「大内はどうだ。晴英が大内の当主になったからそろそろ落ち着きそうか」
「微妙なところですな。晴英が当主になったと言ってもほかの国人たちには所詮は隆房の傀儡とみられているようです。隆房はそう思われないように近々晴英から偏諱をされて晴賢と名乗るようです。また晴英を当主と認めないものもいるようです。いまのところ表立って敵対しているのは大きなところで吉見氏ぐらいです。しかし隆房と杉重矩の中があまりうまくいっていないようです。その隆房ですが宗像の内乱に付け込むべく鍋寿丸を支持しました」
「たしか宗像の当主は義隆とともに討死したのであったな」
「はっ」
さすが御屋形様だ。周辺の争いの事はだいたい把握されている。頼もしいことよ。
「反対派は千代松を担いでいるのだったな」
「はい。千代松には先代の猶子である氏続が支持していますが隆房が調略で少しずつ反対派を切り崩しているようです。鍋寿丸が宗像に入るのも時間の問題かと」
「そうか、出来るだけ大内には宗像でてこずってもらった方がうれしいな。すぐに千代松派と連絡が取れるようにしてくれ。兵は送れないが銭は大量に送る準備ができているとな」
恐らくその銭は博多の商人たちに払わせた矢銭だろう。かなりの量の銭を支払わせていたな。
「筑前だと大きなところは秋月・麻生か」
「はい。麻生は陶との距離からか陶と敵対するような動きはありません。しかし秋月は独立しようとしているようです。まずは宗像・麻生領以外の大内方の領地を攻めるべく準備をしています」
「陶は気付いていないのか」
「気付いていないかと。気付いていたとしても宗像が終わった後と考えている可能性があります。秋月にも密使を送りますか?」
「いや、必要ない」
意外だな。御屋形様にとっては大きな国人を助ける必要がないと思っておられるのだろうか。
「それより薩摩・大隅・日向はどうなっている。筑後攻めの時に邪魔されてはかなわん」
「薩摩は島津貴久を中心に島津一門・庶家が一味同心することを盟約した起請文が作られたようです。また嫡男が将軍から偏諱を授けられ義辰と名乗るようです。これで一門や幕府に名実ともに認められたと言えます。これからは貴久に反抗的な大隅の国人たちのとの争いになるでしょう。島津及び大隅の国人たちはこちらに来る可能性は低いです。伊東ですがこちらに手を出すより飫肥を狙っているようです。また伊東と婚姻関係にある北原では一部で強制的に一向宗に入信させているようです。そのせいで領民の中で不満が出ており一部ではこちらに逃げだそうとしているものまでいます。そのせいで北原の中でも惟宗に対してよくない感情を持っている者が出てきています」
「面倒な。俺に不満を持ったって意味がないだろうに。厄介なことになった。・・・いや、どうせなら農民をこちらに引き込むか」
農民を引き込む?それはどういうことだろうか。
「薩摩・大隅・日向に惟宗領内の様子を流してほしい。領主に不満を持つ農民たちがこちらに流れてくるやかもしれん。そうでなくても今まで以上に不満を持つはずだ」
惟宗はほかに比べて年貢の割合が低い。農民たちの不満は増えるだろうな。それにほかの大名の兵の多くは農民だ。ほかの大名の力を削ぐには効果的だろう。
「引き続き監視をしてくれ。それから義鑑派の調略を頼む。ただし豊後に領地を持つ者だけでよい」
「はっ」
今日はこれで終わりだろう。
「ところで多聞衆の人は足りているか」
「人ですか?まぁ、多い方がよいですが」
「そうか、実は領内の孤児を集めて兵や忍びとして育てようと思ってな。いや兵や忍びだけではない。刀鍛冶や医者や職人に育てようと思う。どうだろうか?」




