殖産興業
――――――1534年5月―――――――
康広と康範に指示を出した2日後小田盛長と爺が戻ったという知らせがきたのですぐに二人を呼び出すことにした。評定の間に行くと柚谷たちの時と同じように二人が頭を下げた。これあんまり好きじゃないんだけどな。
「面をあげよ」
「「ははっ」」
このくだり面倒だな。個別に会うときはしなくてもいいことにしようかな。小田盛長は寡黙な感じのやつだな。
「その方等を呼んだのは壱岐攻めのことだ。これを8月に行おうと思っている」
「しかしその時期は収穫の頃です。百姓に不満が溜まるのではないでしょうか」
さすが爺だ。すぐに問題点を見つけてくる。
「兵を銭で雇えば問題ない。3年で2000は揃えたい。この指揮を盛長にしてもらう。すこしずつでいいが3年後には間に合わせるよう」
「しかし、銭がとてもかかります。今まで通り農民の兵でいいのではないでしょうか」
「農民の兵だと初動が遅れる。それに銭の兵だと農繁期に攻めることができる」
銭で雇った兵をなめたらいけない。農繁期に攻めることができることはかなり大きい。
「では盛長頼んだぞ」
「かしこまりました」
「爺には内政の方を補佐してもらおうと思っている」
俺より長く政治に関わってきた爺の方がいいだろう。
「具体的にしてほしいことはこの紙に書いてある。右上に印がついてあるものから優先的にしてくれ」
そう言って小姓が持ってきた紙を爺に渡す。澄み酒や椎茸栽培、合鴨農法などの未来の知識が分野問わず大量に書かれてある。
「拝見します。・・・熊太郎様、此処に書かれてあることは真にございますか」
「あっているはずだ」
「しかし椎茸の栽培など出来るのでしょうか。清酒もこのような方法で・・・」
爺の疑問に隣にいる盛長が驚いた表情で俺が渡した紙を見つめる。
「出来る。椎茸はそれなりに時間はかかるが清酒は濁り酒さえあればすぐに出来るはずだ。その計画で増えた米や銭で澄み酒を作ればより高く売ることができよう。しっかり頼むぞ」
「はっ」
幸いにも宗家は朝鮮と貿易しているからか武家が商人のまねごとをすることに対して抵抗はない。むしろ儲けるためにいろいろやっている。そのひとつが将軍家を騙っての朝鮮貿易だろう。
しかし見通しが甘いというしかないな。ほかの国ならばれたとしても利益を優先してそのまま貿易を続けただろうが朝鮮は農本主義の国だ。貿易なんてそこまでする意味がない。だから親父が隠居しないといけないところまで問題が発展してしまったんだろう。
もちろん朝鮮からの貿易は続けていきたいがこれからは明や国内の貿易に力を入れていこうと思う。主力商品は椎茸や清酒だ。いずれは朝廷に献上して箔付けも行っていきたいと思うが今のままでは小さい。最低でも松浦党は滅ぼさないとこれらを目当てに戦を吹っ掛けられかねない。戦を仕掛けるより良好な関係を築いておきたいと思わせないと・・・。
爺たちが来た3日後、やっと倉野茂通と仁位盛家の手が空いたらしく俺のところに来た。いつも通り評定の間に待たせると俺もそちらの方に行った。俺がつくと二人は雑談をしていたらしく慌てて頭を下げた。
「面を上げよ」
「「はっ」」
「村々を回ってくれていたそうだな。役目が終わったところで悪いが次の仕事をしてもらう。まずは茂通」
「はっ」
「その方には本土の方に行って忍びのものを20人ほど雇ってきてほしい。その後こちらに戻り次第兵を200人ほど渡すから忍びのものとして訓練させ諜報部隊を作ってほしい」
「かしこまりました」
「その際忍びだからと言って差別することは許さんからな」
「はっ」
何をするにも情報は必要不可欠だ。本当は500人ぐらい忍びのものにしたかったがそんなことをしたら対馬が忍びの里みたいになってしまうな。もう少し大きくなってから増やしていこう。
「盛家は新しい武器を作る指揮をとってもらう。誰か鉄砲を持ってまいれ」
すぐに小姓が鉄砲を持ってきて盛家に渡した。よほど興味を持ったらしくしげしげと眺めている。
「俺はこれを量産したいと思っている。そのために茂通とともに本土の方に行き鍛冶師のものを雇ってきてほしい」
「しかしこのようなものが役に立ちましょうか」
まぁ知らない人から見たらそうだよな。なにせ鉄砲はうち以外はまだ存在さえ知らないような武器だからな。仕方ない、実際に使ってその威力を見せてやろう。
「誰か足軽の鎧とたまの入った鉄砲を庭に持ってまいれ」
と小姓に指示を出して俺は二人を連れて庭の方に行く。
庭に着くとすでに準備ができていた。
「して、ここでは何をなさるのですか」
「鉄砲の威力を作るものが知らんと意味がないからな。実践してみよう」
とりあえず20間ほど離れたところから撃たせる。兵が所定の位置について構えた。
「はなてっ」
ドン
俺の指示と同時に兵が鉄砲を放つ。かなり大きな音がしたので茂通や盛家はかなり驚いている。いや、音だけでなく撃たれた鎧も見て驚いている。玉は鎧を貫通し後方で落ちた。
「どうだ、これがあれば日ノ本の戦も大きく変わることになるだろうな。盛家よ、鉄砲の量産は頼んだぞ」
「はっ」




