表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/402

立花山城

―――――――1551年10月20日 立花山城 立花鑑光たちばなあきみつ――――――――

「ええい、隆房様に送った使者はまだ戻ってこないのかっ」

「残念ながらいまだ戻ってきておりませぬ」

「もう一度使者を出せ。必ず援軍を出してもらうのだ」

くそ、まさかこれほど早く惟宗が攻めてこようとは。隆房様が武任を討ち取ってからほとんど時間が経っていないではないか。隆房様は周防に帰られてしまった。噂では石見の義隆派の城を攻めているがあまりうまくいっていないらしい。もしかしたら援軍は来ないかもしれん。


「殿、降伏いたしましょう」

そう言ったのは口煩い家老の薦野宗鎮こものむねしげだった。

「もともと隆房は自分の主を殺すようなやつです。そのような者に援軍を期待するべきではありません。惟宗様は降伏する者には優しいと聞きます。大義なきものに義理を通すより降伏しましょう」

「しかし我らは大友を裏切ったのだぞ。その同盟者である惟宗が儂を許すはずがない」

「だから私は大内に付くのは反対だったのです。大友についたままでしたら惟宗の攻撃におびえる必要がなかったのです。いまからでも遅くはありません。降伏しましょう」

ふざけるな。降伏でもしたら立花家は存続するかもしれんが儂はどうなる。よくて蟄居、最悪の場合は切腹ではないか。儂はまだ死にたいとは思わん。


「現在、曲輪を守っている直知なおとも殿も降伏した方がよいと言っておりまする。何卒ご英断を」

「いや、降伏はせん。この城は堅城。籠城をしておればいずれ兵糧がなくなり撤退するわ」

「その前にこちらの兵糧が切れる可能性がありますぞ。博多の商人たちも混乱している大内や大友より勢いのある惟宗に味方するはずです。そのようなことがあれば敵は兵糧の不安はなくなるでしょう。先に兵糧がなくなるのは我らです」

博多が惟宗に味方するだと。そのようなことがあるのだろうか。博多は朝鮮との貿易で儲けている。しかし朝鮮は惟宗との貿易を禁じているし惟宗も朝鮮と貿易をしようとはしていない。それを商人たちがどう思うだろうか。味方しないな。せっかくの上客を商人たちが逃すとは思えん。つまり惟宗は兵糧などの品には苦労しているはず。このまま籠城していればいずれ退却するはずだ。


「儂は降伏せんぞ」

「殿!」

「ええい、うるさい。下がって持ち場に戻らんか」

「・・・はっ」

まだ言い足りなさそうであったが素直に下がる。


しかし儂でも思いつくことをあの宗鎮や直知が思いつかないとは思えない。なぜあのようなことを言い始めたのだろうか。まさか裏切っているのではあるまいな。そしてこの城を攻めあぐねている惟宗が儂を降伏させるよう二人に指示した。あり得ない話ではないはずだ。惟宗の調略によって滅亡したり没落した家があるではないか。立花家にも調略の手が回っていないはずがない。間違いない、あの者たちはすでに惟宗に寝返っているのだ。そうなるとあの者たちが城内に惟宗を招き入れる可能性がある。早くあの者たちを処分しなければ。しかし寝返ったという証拠がない。どうしたものか。仕方ない、証拠はでっち上げるか、多少城のものに動揺があるだろうが惟宗を招き入れられるよりはましだ。

「誰か、誰かおるか」


――――――――1551年10月30日 高崎山城 入田親誠――――――――

「鑑連が2・3度ほど婿殿の元に向かっただと」

御屋形様がかなり驚かれている。それも仕方ないか。

「はっ。名目上は孫を見に行くとのことでしたが実際の目的は分かりませぬ。ただ義鎮の使者として向かったのであれば」

「厄介なことになる」

もし国康殿が義鎮派に回るようなことがあれば我らは東と西に敵を抱えることになる。東の義鎮派は何とかなるが西の惟宗はかなり厳しいだろうな。いっそのこと義鎮派に鞍替えするかな。いや、それは無理か。


「しかしまさかあの惟宗嫌いの義鎮が惟宗に助けを求めようとするとはな。おおかたほかの重臣たちに説得されたのだろう。あの者たちもさすがにそろそろ終わらせないといけないと考えたのだろうな」

「左様でしょうな」

義鎮は名門によくある成り上がりものを毛嫌いする性格であった。そして惟宗は近年稀に見る勢いで勢力を拡大している。そのことで義鎮はかなり国康殿の事を毛嫌いしていたな。恐らく歳が近いことも毛嫌いする理由であっただろう。塩市丸様にはそのような方にはなってほしくないな。


「そもそも鑑連は義鎮に味方するのか?それだけでも十分に厄介だぞ」

「それは間違いないかと。居城に戻った後、義鎮に密使を送っていたのが確認されています」

「そうか、鑑連も義鎮に味方するのか。より一層厳しい戦になるな」

そうだよな。義鎮派には戦上手の武将が多くいる。こちらにも戦上手がもう少しいれば私も前線に出ずにすんだであろうに。

「すぐにこちらからも使者を出すぞ。頼めるか」


また国康殿のもとに行かなければならないのか。おそらく以前の相良との和睦の件で私のことを恨んでいる可能性があるからあまりうまくはいかないだろうな。失敗した場合に備えて阿蘇の舅殿に味方するよう手紙を出すか。はぁ、また面倒な役か。

「かしこまりました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ