大寧寺の変
――――――――――――1551年9月10日 王丸山―――――――――――
「御屋形様、降伏交渉に赴いていた康繁殿が戻られました」
「分かった。すぐに通してくれ」
「はっ」
勝良が一礼して下がる。ま、たぶん無理だっただろう。原田氏が大寧寺の変の詳細を確認する前に惟宗に攻められたからな。
史実通り陶隆房が大寧寺の変を起こした。惟宗は8月30日に隆房挙兵の情報を聞き9月1日に筑前侵攻を開始した。今は怡土郡の原田氏の居城である高祖城を攻めている。この原田氏は隆房に筑前守護代に命じられていて二階崩れ後には立花ら筑前の大友配下の国人を大内に寝返らせたらしい。史実ではそのような動きはしなかったはずだが二階崩れが長引いたことが原因だろう。史実の原田氏はこの後陶に滅ぼされている。義隆に恩義を感じてからか陶には従おうとしなかったからだ。一度滅んだがその後厳島の戦いで毛利に味方して再興している。この歴史ではどうなるのだろうか。
「御屋形様、康繁ただいま戻りました」
「うむ、御苦労だった。してどうだった」
「残念ながら原田隆種は降伏を認めることはできないとのことです」
やっぱりか。隆房の下に付こうとしない奴が俺の下に付こうとするはずがないんだ。
「そうか。城の中の様子はいかがであった」
「兵糧はあまりないようです。まだ収穫が終わっていなかったのでしょう。すでに城に籠っている者にはかなりの疲労が顔に出ていました。あまり士気も高くないようです。総攻撃をすれば多少の犠牲で落とすことができると思われます」
「そうか。では軍議を行うとするか。皆を集めてくれ」
「はっ」
さて、筑前侵攻を始めたわけだがその前に舅殿が義鎮の使者として塚崎城を訪れてきた。以前言っていた条件の交渉に来たらしい。一つ目の筑前の事は認めることができるが二つ目の筑後の事は認めることは難しいとのことだった。大友としては攻めて筑後半国にしてほしいらしい。そのあたりが妥協点だろうと思いそれを認めることにした。ただし場所はこちらが指定する場所にすることが条件だ。こちらが先に妥協したのだからこれは受け入れるだろう。
受け入れられないならば義鑑に味方して豊前まで制圧後、内乱が終わっていなければ豊後に攻め入る。豊後に攻め入るのは無理だろうけど大友より惟宗の方が大きくなるのは目に見えている。あとは大友に気を付けながら薩摩・大隅・日向を制圧すればいい。そうすればいずれは大友も毛利あたりと協力して敵対行為に及ぶだろう。
指定する場所は既に決めている。肥後と肥前が陸路でつながっておきたいから薩摩街道が通っている御井郡・御原郡・三潴郡・山門郡・三池郡だ。さすがに天草郡を通してしか肥後と肥前が通じていないのは不安だからな。
半刻後、将たちが集まったので軍議を行うことにした。
「さて、隆種は降伏を拒否したがここでできるだけ時間をかけたくない。皆はいかがすべきと思う」
俺が周りを見渡すと時忠が初めに発言をした。
「御屋形様、我らの目的は原田討伐だけではございません。敵の兵糧も少ないようですし敵の兵の数も約1500。5000ほどの別動隊を置いて残りの10000は早良郡・志摩郡を制圧しましょう」
「いや待たれよ。某はこの城を一気に落としてからの方がよいと思いまする」
次は勝利か。
「志摩郡は原田氏の領地です。そこを守る者たちは主君が降伏した後の方がこちらに降りやすいでしょう。そちらの方が早く原田氏領を制圧できまする」
「しかし犠牲が多くなるのではないか」
「確かに兵糧攻めより多くなると思いますが時間を稼がれてほかの国人たちが戦の準備をされるよりはましかと」
ほかの国人たちか。例えば立花や秋月。報告では秋月は大内から独立しようとしているらしい。秋月といえば史実では原田同様一度没落したがその後種実が再興し、全盛期には35万石以上の大名にまで大きくなっていたはずだ。今は種実の父親、文種が当主だったはずだ。ま、今回の戦は少弐氏の大宰府奪還を引き継ぐという名目だ。もしかするとまだ秋月とは争わないかもしれないな。どうせならば史実通り大友氏に始末させて種実を保護するというのもありだな。大友配下の蒲池氏は龍造寺をかくまっていたのだ。文句は言わせない。
「御屋形様、いかがなさいますか」
盛廉がこちらを見て聞いてくる。いかんな、軍議の途中だった。
「まずは高祖城を落とす。原田氏は筑前守護代なのだ。その影響力を考えるとはやめに落としておくに限る。しかし全軍で攻めるのは無駄が多い気がする。なので10000の兵でここを落とす。残りの5000は別働隊として那珂郡を制圧する。この別働隊は勝利を総大将に筑紫広門・松浦康興・佐須盛円に任せる」
「「「「はっ」」」」
「残りのものは高祖城を落とし、志摩郡を制圧する。その後、別動隊は三笠郡とその周辺の大内の城を攻略せよ。本隊は糟屋郡の大内方の城と立花の城を攻略する」
残りはまた今度でいいだろう。秋月は大友に潰させたいし宗像郡の宗像氏はこれから山田事件で御家騒動が起こるはず。あとから攻めた方が犠牲が少なく済む。それに石高も25万石ぐらいになる。戦果としては十分だろう。




