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毛利元就

―――――――――――1550年8月10日 塚崎城――――――――――――

「御屋形様、皆の武功をまとめました」

「おぉ、すまんな。人払いを頼む」

「はっ」

一礼して盛廉と小姓・近習たちが下がる。正直戦より論功行賞の方が疲れるんだよな。信長とか家康は大変だっただろうな。


まずは調親だな。あいつは鉄砲隊を率いているから今までもかなり活躍してくれている。今は藤津郡で8000石の所領を与えていたはずだ。今回もなかなかの武功をたてているみたいだな。人吉あたりに国替えするかな。石高は12000石ぐらいで。

よし次は勝利だな。あいつは別動隊を率いてもらったし神崎郡で5000石加増にするか。勝利はあくまで山内の頭領というだけで元は流れ者だ。それほど所領はなかったはず。加増しても脅威にはならないだろう。

あとは厄介なのは犬童頼安と万満丸だな。頼安は俺の直臣にするとして万満丸はまだ幼いから助命しよう。処遇は・・・面倒だし頼安に押し付けるか。頼安に5年ぐらい預けて俺の小姓にすればいい。あとは本人の努力次第だ。

あぁそうだ。尚久が隠居したいなんて言い始めたんだった。確かに歳ではあるけどまだ隠居するような歳ではないだろう。それに人手が足りないんだ。楽隠居なんて認められるか。かといって拒否するというのもよくないよな。俺が時忠の器量を危ぶんだように思われるかもしれない。よし、家督相続は認めよう。だけど隠居は認めない。相談役として出仕させよう。それなら問題ないな。東家は5000石ぐらいだったから5000石加増にしよう。


あとの将は銭で問題ないかな。所領を与えるほどの功績はなかったと思うし銭の方が喜ぶものもいる。これで終わりかな。あ、盛廉の事を忘れていたな。義武を討ち取ったのはあいつだったはずだ。

どうするかな。あいつの所領は対馬にある先祖伝来の土地だけだ。ほかのものは手放したのにあいつだけは離れようとはしない。何でも先代から対馬守護代を命じられたから離れるわけにはいかないらしい。今までも恩賞は銭だけもらって終わりだ。いい加減所領を増やした方がいいと思うんだけどな。いっそのこと対馬をあいつに任せるかな。確か対馬は6000石ぐらいだ。朝鮮と交易が再開する見通しはないし問題ないだろう。あと盛円の謹慎も解くか。うん、これで十分だろう。明日皆に発表しよう。


――――――――1550年8月25日 吉田郡山城 毛利隆元――――――――

「父上、お呼びでしょうか」

「遅い。もう少し早く来れなかったのか」

いかんな。父上が苛立っておられる。こちらにも仕事があって遅れたのだがそれを言い訳にするわけにもいかん。ここはさっさと謝っておくのが良いかな。

「申し訳ございませぬ。それで話というのは」

「分かっておろう。隆房殿から書状が来ておるのは分かっておる」

「義隆様を廃し御嫡男の義尊様に跡を継いでいただくという話ですか?」

なるほど、だから元春を呼ばなかったのか。元春は以前大内館を訪れたときに隆房殿と義兄弟の契りを結んだと聞く。父上は御家の大事な判断に私情が入ることを恐れたのだろう。隆景も今は自分の領地に戻っている。

「そうじゃ。去年義隆様のもとへ訪れた時から妙な雰囲気だとは思っていたがまさか義隆様を廃そうとするまで不仲になっていたとはな」

「えぇ、なんでも武任殿が娘を隆房殿の嫡男である長房殿に輿入れさせようとして拒否されたぐらいだそうです」

「どうせならば貰っておけばよかったものを。そちらのほうが武任は油断するであろうに。それでお主はどう思う」

「どうとは?」

「隆房に味方するべきか、武任に味方するべきかそれとも第3の道を選ぶか。毛利の当主はお主であろう」

そのようなことを言われても・・・。実権は父上が持っているのだから私の意見なんて聞いても父上の御考えは何も変わらないだろうに。

「私は義隆様にこのことをお知らせするのが良いと考えます。手紙が来たとはいえこれは大内家のことです。我らが深入りするようなことではないかと」

「それだけか。つまらんの」

「つまらないですか」

そんなことを言われても困るのだが。

「では父上はいかがするべきだとお考えですか」

「どちらが生き残るかまだ分からん以上返事はしない。向こうはどう受け取るかの。黙認と受け取るか否か。まぁ、どちらにしろ杉と内藤が同調している以上義隆様を廃するのをやめるということはするまい。大内は大いに混乱しような」

「よろしいのですか。尼子という強敵を抱えている以上大内が混乱するのかあまり歓迎できませんが」

「尼子か。確か家臣たちの中には好き勝手している者もいると聞いている。当分は内を固めるために戦を仕掛けてくることはあるまい。その間に我らが大内を喰らうということも・・・」

「父上?!」

それは大内に代わって長門・周防・筑前・豊前・安芸・石見を支配するということだろうか。そのようなことが果たしてできるのだろうか。いや、それ以前に大内を喰らうということは大内と敵対するということだ。毛利は東と西に巨大な敵を抱えることになる。

「なんだ、隆元は反対か」

「当然です。大内と尼子を同時に相手取るなどできるはずがありません」

「だから尼子は内を固めるといっておろう。大内とて隆房殿の企みが成功すれば隆房派と反隆房派に分かれよう。その反隆房派の筆頭に毛利がなればすべてとは言わんが大内のほとんどの領地を毛利のものとすることができる。そうなれば大内についていた国人たちも毛利の配下となろう。長門・周防・筑前・豊前・安芸・石見が我らの配下となればだいたい150万石ぐらいか。十分尼子を討ち果たすことができるな」

「しかし・・・」

父上は何かに乗じて大きくなろうとされる。それは尼子についていた時にずいぶんと嫌な目に合われたからだろう。例えば幸松丸君のこと。

「まぁ、筑前・豊前はあきらめたほうがよいであろうな。大友が割れているとはいえさすがにその頃には落ち着いておろうし、あの惟宗が筑前に出てこないとは思えん。だがいずれは筑前・豊前も・・・」

「そちらは尼子を討伐してからにしてください」

どうせ私が何を言っても父上の考えが変わるわけではない。それならばできるだけ父上が長生きしてもらえるよう父上の補佐をして負担を軽減させねばな。まずは大友や惟宗の動きを探るか。大友は最近義鑑派と義鎮派の間で戦があったようだが結果は義鑑派が勝ったらしい。だが義鑑派もかなりの犠牲が出たとか。それに惟宗がどう絡んでくるか。世鬼に探らせよう。

「まずは吉川のほうをどうにかせねばの。幸いにも興経を幽閉するには十分な理由がある」

・・・負担軽減できるだろうか。はぁ、早く部屋に戻って酒でも飲んで今日は寝よう。

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