相良滅亡
―――――――――――1550年3月1日 筒ヶ嶽城――――――――――――
「ではこのまま軍議を行うとするか」
「「「「はっ」」」」
「経治、説明を」
「はっ」
康胤が俺に一礼して皆の方を向いた。しかし本当に人手不足だな。相良攻めに勝利と尚久を向かわせたとはいえ兵法衆は経治・康胤・康範の三人しかいない。康胤はいずれ名将になるとはいえ今はまだ若いし、康範は水軍を率いる立場でもあるからあまり陸戦には使えない。実質的には経治一人だ。これで大友とやりあえるのかねぇ。
「まず、菊池氏に同調している国人ですが菊池三家老の一人である赤星親家・鹿子木親員・内空閑重載・合志親為・大野親祐・板楠景貞・石原吉利・大津山資冬・和仁親続・三池親員・溝口鑑資・西牟田鎮豊です」
多いな。特に意外なのは赤星親家が味方しているところだな。赤星ら菊池三家老は義武とあまりうまくいっていなかったはずだ。何で味方しているんだろう。
「よろしいかな。確か赤星と義武の仲はあまりよくなかったと記憶しているが」
さすが盛廉。ナイスタイミングだ。
「それは某の方から説明します」
経治からではなく頼氏から説明があるみたいだな。
「赤星は義武とはうまくいっていませんでしたがそれ以上に隈部氏と領地争いなどでうまくいっていません。その隈部が反菊池派になったのを見て義武に味方したようです」
つまりライバルが義武と敵対したから味方したということか。史実では大友が健在だったから味方しなかったが今回はいまだに内紛中だ。義武が菊池家を再興するのも可能だと考えたのだろう。隈部も迷惑だろうな。
「今話に上がりましたが反菊池派も当然います。先程話に出た隈部親永を筆頭に、主だった国人は亀井光総・城為冬・辺春親貞・吉田高房、そして小代実忠殿です」
思ったよりいないな。北肥後では菊池が今のところ優勢らしい。
「現在、光総殿が菊池勢に攻められています。援軍をという使者が来ていますがこの玉名郡にも義武に味方するものが多くいます。なので軍を二つに分けます。別働隊は2500を率いて玉名郡を制圧し大津山城攻めを終えた兵と合流後、親永殿の救援に向かってもらいます。この隊は盛廉殿を大将に成幸殿・元盛殿・康胤殿にお任せします。
残りの方は本隊とともに玉名郡を南下、親祐を蹴散らし光総殿が籠城する亀井城へ援軍に向かいます。救援後は隈本城を包囲、別動隊と同流した後総攻撃に移ります。ここまでで質問のある方は?」
経治が周りを見渡すが誰も発言をしようとしない。
「御屋形様」
「うむ、では出陣は2刻後だ。それまでに準備を怠るでないぞ」
「「「はっ」」」
さて、相良攻めの隊はどうなっているかな。
―――――――――1550年3月2日 仰烏帽子山 東尚久―――――――――
うむ、見た様子ではなかなかの堅城だな。これは落とすのに苦労するかもしれん。
「父上、勝利殿が軍議を始めようと」
む、そのような時間か。ここに南蛮から来た時計というものがあれば便利なのだが。以前、御屋形様が新しいものを作る職人を束ねている盛廉殿に量産を命じていたが早くできないものかの。
「分かった。時忠は先に行っておいてくれ」
「はい」
倅が一礼して下がる。さて、今一度この城の様子を目に焼き付けておかねばな。
「遅れて申し訳ない」
四半刻後、勝利殿の本陣に付くとすでに倅と勝利殿が到着していた。
「いえ、かまいませんよ。城の様子を見ていたと聞いています」
「えぇ。では軍議を始めましょうか」
「そうですな。先程御屋形様から使者が参りましたが無事到着したようです。それと隈本城を包囲する前には終わらせよと」
それは我らを隈本城攻めに使うということだろうか?相良が球磨郡に攻め入って上村・稲止めの所領を攻め落としたせいでそちらの処理もしなければいけないのだが。幸いにも我らが古麓城を攻める前に相良勢は撤退し、今は岡本頼春殿が制圧をしている。とはいえそれほど数がいるわけではないから援軍を出さねばならんのだが。
「しかし・・・」
「分かっています、時忠殿。御屋形様は菊池に相良の援軍が来ないということをわからせるために早く落とせとのことです。包囲した後では隈本城に情報が入りにくくなりますので」
「なるほど」
御屋形様は敵の心を折るつもりなのだろう。援軍のない状況で10000もの兵に囲まれるのだ。雑兵の中には城から抜け出して降伏するものも出てくるかもしれん。
「では早めにこの城を落とさねばなりませんな。勝利殿、何か策はおありでしょうか」
「とりあえず周りにある鷹峰城・丸山城を落としましょう。そのあとは5日ほど昼夜問わず2.3刻おきに大筒で城を攻撃します。初めは敵も総攻撃かと思うでしょうが5日も続けば油断するでしょう。そこを一気に攻め落とします」
「昼夜問わずであれば敵兵も寝ることができずに体力を消耗しているでしょう。某は賛成いたす」
うむ。せがれも少しはましな将になってきたようだな。わしもそろそろ隠居をするような歳だ。この戦が終わったら家督を譲るかの。
「尚久殿?」
「あぁ、申し訳ない。某も賛成です」
「左様ですか」
勝利殿がほっとしたような表情をされた。もしかしたらわしのほうが歳が上だから反対されると思ったのだろうか。
「では尚久殿と時忠殿が鷹峰城をお頼みします。某は丸山城を攻めまする」
「お任せを」




