龍造寺胤信
―――――――――1548年10月5日 塚崎城 鍋島清房―――――――――
「ひさしいな、清房。たしか胤栄が亡くなったから先の戦には出ていないから天草攻め以来か」
「はっ、もうそれほどでしょうか。先の戦では参加できず申し訳ございませぬ」
そう言って頭を下げる。これから願い出ることを考えると出来るだけ機嫌を損ねないようにしないと。
「構わんよ。大友殿のせいで少し禍根が残ったが問題ない。それに康胤がよく働いてくれたからな。あれは大成するであろう。康繁といい康興といい将来が楽しみだな」
「ありがたきお言葉にございます。あれがしっかりと千葉家当主として働けているか心配ではありますがどうぞ存分にお使いくだされ」
その御言葉はお世辞ではないだろう。康胤は兵法衆に命じられた。康繁殿は外交衆に康興殿は兵站衆に命じられていた。期待されているのは事実だろう。
「はははっ。しっかり使わせてもらうよ。それで今日はいかがした」
ついに用件を聞かれたか。仕方がない、腹をくくるか。
「実は4月に胤栄様が亡くなられたことで村中龍造寺家の当主の座が空いてしまいました。通常ならば亡くなられる前に跡取りが決まるのですが胤栄様には子がいませんでした。そのせいで家督を継ぐことができる方がいないのです」
「そうだったのか。胤栄には兄弟はいないのか」
「いるにはいるのですが・・・現在は筑後の蒲池氏に匿われています」
「あぁ。確か家兼についていったのだったな」
「はい」
龍造寺家の方は村中崩れの時にほとんどが家兼について筑後の蒲池氏のところへ行ってしまった。そのせいで村中龍造寺家を継ぐことができるのは胤栄様しかいなくなった。おそらく御屋形様が胤栄様に継がせたのも自分に味方する勢力を作るためでもあっただろうが胤栄様しかいなかったというのもあるだろう。
「それで清房はどうしたらよいと考えているのだ」
「はっ。出来ますれば蒲池氏に匿われている胤栄様の弟君、家就様に継いでいただきたいと考えています」
「しかし家就は俺のことを恨んでおろう。なんといっても龍造寺が落ちぶれたのは俺のせいでもあるわけだし戻ってはならないと言ったのも俺だ。それに少弐氏は没落したとはいえ残っている。それでも戻ってくるのか」
そう、問題はそこなのだ。そればかりは確かめないとわからないがおそらく恨んでいるだろう。それに家就様が乗り気でも周りのものが反対するかもしれない。
「たしか水ケ江龍造寺を継いだのは家兼の曾孫での胤信だったな。あいつの話は少し聞いている。向こうに行ってからはずいぶんと俺と少弐氏の悪口を言っているらしいな。そんなものが家就を手放すだろうか」
「恐らくは無理でしょう。そこでお願いがございまする」
「なんだ。申してみよ」
「蒲池氏に匿われている龍造寺家のものを領内に入れることをお許し願いたい」
「それは家就に龍造寺家の家督を継がせるということか」
「はっ。残りの龍造寺家のものは家就様を御支えするため龍造寺家に帰参させます。もちろん御屋形様に迷惑がかかることはございませぬ。家督を継いだ暁には謝罪と今後敵対しないとの誓紙を出させますし家中の不満は某が責任を持って押さえまする。それ故なにとぞお許し願えませぬでしょうか」
「敵対しないではならんな。俺に従わないと意味がない。俺の指示を一から十まで従わなければはっきり言って邪魔でしかない」
やはりだめなのだろうか。御屋形様は龍造寺家を取り潰すことを望んでいるのだろうか。
「それより家就しか龍造寺家を継ぐことができる者がおらんのか」
「と申されますと」
「べつに龍造寺姓でなくてもよいのではないのかということだ。龍造寺家には一切分家がいないという訳ではあるまい。それか主家筋である少弐氏から養子を迎えるという手もあろう。そうだ、現当主の政興の弟がいまだ寺にいたはず。それを養子に迎えてはどうだ」
「いや、しかしそれでほかの家臣たちがついてきましょうか」
「家を潰すよりはましであろう。俺からも手紙を出すからその方向で進めてくれ」
「・・・はっ」
――――――――1548年10月15日 柳川城 蒲池鑑盛――――――――
はぁ。また怒り狂うだろうなぁ。
「殿、何かございまいたか」
家老の大木鎮堯心配そうにこちらを見ている。
「なんでもない。胤信殿を呼んでくれるか」
「はっ」
鎮堯は一礼して下がった。しかしこの手紙の内容を胤信殿に伝えたらどうなることだろうか。
手紙は肥前に放っておいた密偵からの報告だった。いつもの報告であれば良かったのだが今回は違った。それは龍造寺の当主である胤栄が死んで新たな当主には少弐氏から養子をとることになったらしい。胤信殿の予想では、胤栄が死んだあとの龍造寺は惟宗にとって利用価値はないからそのまま当主不在のまま取り潰しになる。それに不満を持つであろう残った龍造寺家臣と協力すれば村中城に返り咲くことができるとのことであった。しかしこれでは無理であろうな。龍造寺氏を少弐氏に乗っ取られるように感じるかもしれないが惟宗と敵対してまでこちらに味方しようというものはいないだろう。胤信殿たちの滞在はまだまだ長引きそうだな。
時折、胤信殿たちの保護をやめようかと思う時がある。家臣たちの中にも保護し続けることに不満を持つ者がいる。だが一度受け入れた以上途中で放り出すのは不義に値すると思う。義を見てせざるは勇無きなりともいうのだ。これからも胤信殿が村中城に復帰に力を貸していこう。
「殿、龍造寺胤信殿をお連れしました」
「分かった。入ってくれ」




