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氷川の戦い

――――――――1548年9月3日 笹尾城周辺 松浦康興――――――――

「ちっ」

あ、また御屋形様が手紙を見ながら舌打ちをした。今度は何だろう。聞きたいけど聞きにくい。たぶんほかの将たちも同じような思いをしているだろうな。

「御屋形様。いかがなさいましたか」

さすが盛廉殿。このように機嫌の悪そうな御屋形様にあっさりと聞けるのはあなたぐらいです。

「多聞衆からの報告だ。どうやら晴広の奴は大友に和睦の斡旋を依頼するつもりのようだ。余計なことを」

大友様か。大友様の仲介ならばこちらとしても交渉をする姿勢は見せないといかんな。


「それと思ったより相良の動きが速い。すでに上土城を通過している。どうやらあと2日ほどで到着するようだ」

あと2日ではとてもではないがこの城を落とせないな。落とせたとしてもまだ近くには大野城がある。当分はこの辺りから動けないだろう。

「上土城・岡城の兵と挟撃しますか?」

勝利殿がすぐに新たな策を考える。さすが兵法衆だな。

「いや、それはやめておいた方がよいかと。上土城・岡城の兵の数などたかが知れています。それより宮原城の近くに流れている氷川で迎え撃てばよろしいかと」

あれは評定衆の尚久殿だな。平戸松浦が相神松浦に手間取ったのも尚久殿のせいだと父上が言うほどの将だ。


「ふむ、今回は尚久の案を使おう。笹尾城・大野城の備えに1500ずつ置いて残りの5000で援軍を叩き潰す」

「相良の援軍の数は?」

「多く見積もって2500ほどだそうだ。5000もいれば十分だろう。そうと決まればすぐに移動するぞ。笹尾城の備えは東時忠・千葉康胤に大野城の備えは佐須盛円・武田康繁・松浦康興に命じる」

「「「「「はっ」」」」」

城への備えか。あまり危険ではないがそれなりに重要な役目だな。

「ほかのものはすぐに出立するぞ」

「「「はっ」」」


――――――――――1548年9月4日 宮原城 相良晴広――――――――――

「申し上げます、惟宗は笹尾城・大野城に約1500の備えを置いて残りの約5000は氷川の対岸に布陣したようです」

「分かった。引き続き監視を続けよ」

「はっ」

城兵が一礼して下がる。さてどうしたものか。


「城の備えを置いても5000か。だが勝てない差ではないな」

「左様ですな。これからいかがいたしますか?」

父上だけでなく皆がこちらを見ている。

「救援に来た以上笹尾城・大野城の救援に行く。そのためにも対岸に陣を構えている惟宗勢を攻撃するぞ」

「はっ」

「そのためにもなにか策がないといかんな。誰か策のある者はいるか」

周りを見渡すが誰も発言をしようとしない。やはり兵力の差はどうしようもないということか。かといってこのまま睨み合いをしていると笹尾城・大野城が落城し敵の兵も増える。そうなれば負けるのは目に見えている。戦うのであれば今しかない。


「某にひとつ策がございます」

「おぉ。頼興、その策はなんだ」

「夜のうちに一隊を上流の方から渡河します。その後、残りの本隊が敵の本陣めがけて夜襲を仕掛けます。敵は正面の本隊の動きに対応するので精一杯になるはずですのでそこに背後から惟宗国康の頸を目掛けて別動隊が襲い掛かります。これで惟宗の軍を崩すことができます」

さすが父上だな。確かにこれであれば勝てる可能性は高い。国康の頸さえ取れれば当分は惟宗は動けないはず。その間に肥後から惟宗勢を追い出せば我らは肥後で1・2を争う勢力になることができる。取れなくても再び攻めてくるまでには時間がかかる。我らが持ち直すには十分な時間を得ることができる。


「他に策があるものはいるか」

誰も発言をしないな。

「では頼興の策を使う。別働隊は頼金・長蔵に命ずる。数は・・・そうだな、1000もいれば良いかな。残りの1300は敵の本陣めがけて突き進め。さっそく今日の夜に仕掛ける。勝つのは我らだっ」

「「「おおおっ」」」


すっかり夜も更けてきた。そろそろ別働隊が渡河した頃だろう。

「殿、そろそろ」

「うむ、皆の者。かかれぇっ」

「「「おおおおおっ」」」

1300もの兵が一斉に川に駆け込む。皆、収穫の時期だからあまり士気は高いとは言えないがなんとかなるだろう。

「妙ですな」

「いかがした、頼興。今の所はうまくいっているではないか」

「敵陣に混乱が見当たりませぬ。あれだけの声がしたのですから既に気づいていてもおかしくはないと思うのですが・・・」


ダダダダダダッ


急に地面が割れたかのような大きな音がして周りの馬たちが暴れ始める。こら、さっさと落ち着かんか。

「何事だっ。すぐに調べよ」

「も、申し上げます」

前線の方にいたと思われる兵が大慌てで近寄ってきた。

「敵陣より謎の攻撃がありました。おそらくは惟宗が所有しているという新兵器と思われます」

あれが新兵器か。

「被害はどれほどだ」

「おおよそ500ほどです」

「5・500だと」

父上が驚いたような声を上げる。しかし500か。いや、それよりも撤退か前進か早く決めねば。

「前線の様子はどうだ」

「かなり混乱しております」


ダダダダダダッ


2回目か。このままでは全滅してしまうな。敵も柵の奥からでてきたようだな。ここからでもよく見える。

それより撤退するか否かだな。夜襲が失敗したということは敵に今回の作が露見している可能性があるということ。であれば別働隊もやられている可能性がある。ならば答えは決まっているな。

「頼興、撤退するぞ」

「はっ。申し訳ございませぬ。某の策が未熟であったが故に味方を危険な目に合わせてしまいました。殿しんがりは某が」

「頼む。・・・死ぬなよ」

「はっ。殿も必ず生きて戻ってくだされ。もしかすると寝返ったものが待ち構えている可能性がありますので古麓城が無理だと判断された場合は我が城の方へ」

「分かった。皆の者、退却だ」

おのれ、惟宗国康。必ず生きて再びお前の前に立ちふさがってみせるぞ。

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