新当主誕生
――――――――――1534年5月―――――――――
さて、このたび宗家の当主となった俺だが俺は宗家について全く知らない。そもそもここが史実通りに動いているのかさえもわからない。
「熊太郎様、いかがなさいましたか。やはり御当主になったことで混乱なさっているのですか」
オッといけない、今は家臣が集まって会議を行っているんだった。兵部が心配そうにこちらを見ている。
「いや、何でもない。それよりこれからのことだな」
「はい、なにか熊太郎様には名案がございますか」
おいおい、当主とはいえ俺は3歳の幼児だぞ。子供の意見を聞くほど余裕がないのか。いや、幼いとはいえ当主だから一応形だけでも聞いておこうという訳か。しかし俺としてはこのまま傀儡になるつもりはない。ここでしっかり俺が当主であると見せつけておかないといけないな。
「俺は明や他の国との交易を増やしながら朝鮮との国交回復に努めるべきだと思う。対馬国は山ばかりで米があまりとれん。交易に力を入れないといずれ自滅してしまう」
「しかしそれだけでは衰退もしませんが発展もしませんぞ。いずれ本土(九州のこと)から攻められるかもしれません」
あれは確か・・・小田盛長だな。確か親父の代の時に謀反が起きて謀反人が攻めた城にこもって抵抗したんだったんだっけ。
「そうなる前にに力をつける。交易で稼ぎ、その金で軍事力をつけ逆にこちらから攻める。やられる前にやる」
家臣にとって力のない主なんて自分が強くなるための糧ぐらいにしかならない。そんな目にあいたくないからしっかり治めるだけの器量があると示さなければ。
家臣達には俺の言ったことが意外だったらしくざわざわとしている。
「俺はこの対馬だけに閉じこもっているつもりはない。まずは壱岐、そして肥前・筑後・筑前・豊前・豊後・肥後・日向・薩摩・大隅九州全土を我が手中に収める」
「き、九州ですか」
先ほどより大きなざわめきが起きた。家臣達の中には、俺の話を聞いて興奮しているもの、半信半疑なものいろいろな表情をしている。しかしその中には俺を蔑むようなものはない。しっかりと俺を当主として見ている。
「しかし、今の宗家に九州全土を取るほどの力はない。皆には迷惑もかけよう。それが嫌だというものはここを去っても良い。そのことで俺は何か言うつもりはない。しかし残るのであれば俺の指示は聞け、俺にお前らの命を預けよ」
家臣達はお互いの顔を見ている。去るか、残るか迷っているのだろう。おや、兵部の爺が前に出ていたぞ。
「熊太郎様、某はついていきますぞ」
「おぉ、そうか。頼りにしておるぞ」
「某もついていきますぞ」
「わしもじゃ」
「わしも」「某も」「手前も」「私も」・・・・etc
兵部の爺を皮切りに皆が声を上げる。
「熊太郎様、いや御屋形様。われら宗家家臣一同御屋形様に忠誠を誓いまする」
「「「誓いまする」」」
兵部の爺の声に合わせて家臣全員が頭を下げる。壮観だな。
「4年間。4年後に壱岐を攻める。それまでに銭を稼ぎ兵をそろえる。皆も協力してくれ」
「「「ははっ」」」
ーーーー尾張国ーーーー
「オンギャァァァ」
「生まれたかっ⁉︎」
「はい、元気な男の子でございます」
「そうかそうか。ようやった花屋」
普段のきびしい目元を和らげ、子を抱きながら夫人をいたわっているのは尾張の虎と言われ織田家発展の基盤を築いた織田禅正忠三郎信秀である。側には平手政秀が控えている。
「うむ、この子の名は吉法師じゃ」
のちの乱世の風雲児、織田信長の誕生である。
信長の母親である土田御前ですがここでは別称の花屋夫人の方を使わせてもらいます。




