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相良攻め

―――――――――1548年8月20日 塚崎城 松浦康興―――――――――

「殿、いい加減に機嫌をなおしてしてくだされ。軍議が始まりますぞ」

「ふん」

「もう子供ではないのですからあのような冗談は笑って受け流すぐらいの度量を持ってくだされ」

もう元服をすませた当主をからかうような家臣なんて俺は知らん。む、誰かが歩いてくる足音がするな。周りを見ると皆が慌てて頭を下げている。俺もそれに倣って頭を下げる。足音が上座のあたりで止まり座る気配がした。


「面をあげよ」

「「「はっ」」」

元服式の時に聞いた声がして顔を上げる。われらの御屋形様、国康様だ。肥前国の主にして九州第二の大名。尊敬する父が長年争っていた相神松浦をあっという間に倒しわれら平戸松浦を屈服させた人。家臣たちの中には御屋形様に不満を持っている者がいるが父上がそれを許さなかった。何人か上意討ちにして強引に抑え込んだ。あの父上がそこまですることに驚いたがそれほど惟宗―――その時は宗だったが―――が強大になると考えたのだろう。そしてその中で我らが大きくなる道を選ぶべきだと考えた。だから先祖から受け継いだ土地も手放した。今の平戸は明からの船が来ているらしい。その話を聞いた父上はやっぱりあの地をほしがったのには裏があったかと言っていたな。


「よく集まってくれた。それでは軍議を始めるぞ。勝利」

「はっ」

御屋形様に命じられて勝利殿が一礼して皆のほうを向く。これがよそと違うところだろうな。勝利殿はつい最近まで惟宗と敵対していた少弐氏に仕えていた。しかし少弐氏が事実上滅亡すると御屋形様に降伏した。その時に御屋形様が勝利殿の才能を買って兵法衆に命じた。兵法衆といえば譜代の方が就く要職だ。実際にほかの兵法衆の方は譜代の盛長殿と康範殿だ。つまりそれだけの能力があるということだろう。譜代以外のほかの家臣たちは自分たちにも出世の可能性が残っていると喜んでいるらしい。そういえば弟君の傅役にも1人、譜代以外のものがいたはずだ。そういったところを考えると仕えやすい主ではあるな。俺も松浦家の当主としてそう言ったところを見習っていこう。


「説明させていただきます。今回は相良を攻めるのですが島津が水軍を使って妨害をしてくる可能性があります。なので康範殿・盛定殿はそれに備えるために水軍3000を率いていただく。ほかの方々は本隊とともに行動してもらいます。また時期的に収穫に影響が出てしまいますので短期決戦で終わらせる予定です。そのためには多少の危険は伴いますが野戦に引きずりだすことにしました」

野戦か。初陣で手柄を立てることができるかもしれないな。それに御屋形様が野戦をしたという話をあまり聞かないから楽しみだな。

「まずは相良の援軍が出てくる前に八代郡を制圧します。上土城主岩崎忠久・岡城主佐々木高光がこちらに寝返ることになっていますのでたやすく制圧できると思われます。その後援軍に駆け付けた相良勢を上土城付近にある川で徹底的にたたきます。出来ればここで晴広を捕獲か討ち取るかしたいと考えています」

晴広を討ち取る。確かに野戦の方がその可能性は高いな。しかし援軍は確実に来るだろうか?


「あとは八代郡・球磨郡を制圧します。八代郡・球磨郡の国人では赤池城主赤池長任あかいけながとう・岡本城主岡本頼春おかもとよりはる・佐敷東城主東藤左衛門とうどうさえもんがこちらに寝返ると言ってきております。また晴広の兄弟3人に相良から独立するのであれば最大限の援助をすると伝えています。そして晴広を討ち取ったのと同時に蜂起してもらい相良の兵の数を分散させます」

これが惟宗の強みだな。戦が始まる前に確実に勝てるよう敵の内側から崩していく。確か多聞衆といったか。これほどの数を寝返らせるとはすごいな。俺も忍びを雇うかな?


「何か質問がある方はいますか」

「では某からよろしいだろうか」

勝利殿が周りを見渡すと盛廉殿が前に出て発言をする。盛廉殿は御屋形様の傅役でこのような場では皆が言いにくいことを真っ先に発言をしているらしい。それだけだと御屋形様に疎まれそうだがそのようなことはなく普段から御屋形様のそばにいる。自分に苦言を呈してくるものを重用するとはさすが御屋形様だな。


「相良の援軍が来なかった場合はいかがするつもりかな。また援軍が来たとしても晴広がいるとは限らないはず。例えば実父の頼興が来る可能性もある。来たとしても捕獲するか討ち取るか出来るとは限らない。そのような場合はいかがするおつもりかな」

「援軍が来なかった場合は古麓城を攻めます。晴広を討ち取れなかった場合もそのようにする予定です」

「しかし一度逃せば和睦をと言ってくる可能性もあるが」

「その和睦に乗るつもりは一切ありません。降伏ならばまだしも和睦を受ける理由はありませんので」

ならば降伏であれば受けるということだろうか?

「ほかに何か質問がある方はいますか」

勝利殿が再度周りを見渡すが誰も発言をしようとはしない。

「ではこれで軍議は終了だな。出陣は1刻後とする」

「「「はっ」」」

さて、手柄を立てれればよいな。

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