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犬童頼安

――――――――1547年12月20日 豊福城 犬童頼安――――――――

「お初にお目にかかります。犬童頼安にございます」

「惟宗国康だ。面をあげよ」

「はっ」

国康様に言われて顔を上げる。なんというか普通の方だな。世間で言われているように鬼のような方でも大男でもないな。しいて特徴を言うのであれば表情に動きがないところだろうか。あと、声に抑揚がないところだろうか。


「某に御用と伺い参りましたがいかなる御用でしょうか」

どうせ儂から相良の情報を聞き出すためだろう。

「用は二つあってな。一つは相良の事についてだ」

「しかし某は相良を離れて数年がたっております。それにそれ以前は僧籍に入っておりました。そのような者の話を聞いても参考にはなりますまい」

「ははは。よう言うわ。お前は相良治頼を担いで謀反をしているだろう。謀反をするのに相手の戦力などの詳細を調べなかったわけがないだろう」

「それはそうですが・・・謀反は失敗しました。そのような者の話なぞ参考になりますまい」

「それは治頼が馬鹿だったからだろう」

よくあっさりと人の元主を馬鹿呼ばわりできるな。


「まずは家中の様子だな。相良の中で発言力を持っている家臣は誰だ」

「当主晴広の実父である上村頼興でしょう。しかし晴広はあくまで家臣として接しているのでほかの家臣に不満はないでしょう。しかし晴広の弟である上村頼孝うえむらよりたか頼堅よりかた稲留長藏いなとめながくらは兄の家督相続に対してあまりよく思っていないところがあるようです。今は父親が生きているので問題ないでしょうが父親が死んだあとはどうなることか」

だが惟宗が調略を仕掛けても頼堅は寝返らないかもしれんがな。もともとこの城は頼堅の城だ。自分の領地を奪った惟宗に寝返ることはないだろう。


「ふむ、ではこの城を奪ったのは早計だったか」

「そうなるかもしれませんな。一門衆以外には深水頼金が最も力を持っています。嫡男の長智ながともも晴広のそばに仕えています」

「今の体制に対して不満を持っている者はいるか」

「岡本頼春が不満を持っている可能性があります。頼興は頼春の従兄弟で妹婿にあたりますが仲はあまりよくないようです。頼春は頼興の謀略に対してあまりよく思っていないのです。頼春自身は猛将と言われるような将なので気が合わないのでしょう」

だが影響力の大きいもの同士の仲違いは気が合わないぐらいでは済まされないほどの悪影響が出てくる可能性がある。特に外から何か手を加えられたときは最悪だな。おそらくそれを狙っているのだろう。


「なるほど。なるほど」

国康様はそう呟いて考え事を始めた。そういえば・・・

「ところでもう一つの御用とは何だったのでしょうか」

「ん、そうだった。そちらが本題だった。うっかり忘れてしまうところであった」

「は、はぁ」

忘れるほどの事ならばたいしたことではないのだろうな。

「どうだ、俺に仕えてみないか」

「えっ!?」

何を言い出すのだ。儂は相良の家臣だったのだぞ。

「話していてもなかなか優秀なことが分かった。そのような者を在野に放置しているのはもったいない」

「しかし某はもとをただせば相良の家臣。そのような者を家臣に引き入れても余計な不和を招くだけではないでしょうか」

「そのようなことを気にするな。兵法衆や評定衆にも外様のものが多くいる。中にはもともと敵対していた家の重臣もいる。例えばそこにいる尚久は相神松浦の重臣だったぞ」

「御屋形様は出自についてはまったく気になさりません。もし出世に関して心配しているのであれば全くの杞憂ですぞ」

「しかし・・・」


「すぐに決めなくていい。だがお前は相良に復讐したいと思わないのか。おおかた治頼に与したのは相良に復讐するためであろう。違うか」

よくそのようなことまで調べたものだな。だが少し違う。

「某は確かに一族の皆が殺されたことは恨みを持っていますし復讐するために治頼様に味方しました。しかしその恨みは義滋に対してです。相良家に対しては恨みは持っておりませぬ」

「そうか。しかし相良を思うのであれば俺に仕えた方がよいぞ」

「と言われますと」

「もし俺が決断すれば相良家は取り潰すことになるやかもしれん。そのようなときにお前が手柄を立てていればそれに免じて家を続けさせることを認めてもいい」

「ま、まことですか」

「あぁ。それでも仕官を断るか」

うーむ。どうしたものだろうか。儂はまだ相良のために働きたいと思っている。だが仕官を断ればそれもかなわないだろう。


「二つほど条件を付けてもよろしいでしょうか」

「なんだ、申してみよ」

「必ず相良家を存続させることと相良家降伏の後は相良家に仕えさせていただきたい」

これならば無理に仕官させようとしないはずだし認めれば再び相良の為に働くことができる。どちらに転んでも儂にとっては良い結果なる。

「よかろう、なんなら降伏交渉もお前がするか?」

「よ、よろしいのですか」

「向こうも見知った者が居れば少しは楽だろう」

「いえ、そのことではなく」

「ん?相良家を存続させることか。あそこは土着の国人だ。無くしてはのちのち百姓と揉めることになるかもしれん。それともお前が相良に仕えたいということか。俺としてはお前の力が使えるならどのような形でも良いから問題ない」

どのような形でも儂を使いたいということか?それほどまでに評価しているということなのだろうか。いずれにしろ、儂の要求を認めてもらった以上断れんな。

「分かりました。非才の身ではございますが粉骨砕身お仕えいたしまする」

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