名和氏
――――――――――――1547年11月30日 白山――――――――――――
「あれが宇土城か」
確か前世では宇土古城と呼ばれていたはずだ。小西行長がこの近くに新しく宇土城を建てたからだ。なんか不思議な感じだな。
「国康様、いかがいたしますか。まずは一当てして様子を見るという手もありますが」
そばに控えていた盛廉が聞いてくる。一当てか、多少被害が出てしまうが相手方の様子を見ることができるな。だが、そんなことをしていたら別働隊が豊福城を落としてしまうかもしれんしなぁ。さすがに相良と名和と同時に戦うのは嫌だな。
「いや、夜襲を仕掛けるぞ。皆を本陣に集めてくれ」
「はっ」
1刻後、将が集まり軍議が始まった。まずは素心が城の内部について説明する。
「この宇土城は西の三城と東の千畳敷からなる城です。東の千畳敷は主郭で東に虎口を開き主郭の周辺は横堀が巡っています。また北から東側一帯は帯曲輪が巡り南は土塁があります。三城は周囲に石積があります。西側には大きな空堀が、東側には虎口が開いています」
「それなりに堅い城みたいだな。とりあえず今日の夜襲で最低でも三城は落とすぞ。まずは3500の兵が大手を攻める。おそらく敵はそこに集中するだろうから1刻半後に別働隊1500が西側から攻める」
いつもの城攻めだな。いつか島津の釣り野伏せみたいに何か名前がついたらいいな。
「別働隊は佐須盛廉・神代勝利・平井経治」
「「「はっ」」」
「残りの将は大手攻めに参加せよ。先鋒は天草尚種・西郷純堯に命ずる」
「康広は夜襲に参加せずに本陣で待機せよ。夜襲が終わり次第降伏交渉に入れ。条件は当主名和行興の切腹と旧大矢野領への国替え。降伏を受け入れるのであれば城兵の命は保証するが受け入れない場合は根切りにすると伝えろ」
「はっ」
あまり根切りにはしたくないな。そんなことをしたら百姓たちに恨まれて今後の統治に影響が出る。名和氏の国替えはとりあえず名和氏の力を削ぐためと反乱の恐れがある天草郡の国人たちの近くに置くためだ。近くにいた方が何かと監視がしやすい。それに裏切り者の素心が近くにいるとお互いにやりにくいだろう。どうせ本格的な肥後攻めは相良攻めを除いてすべて二階崩れの後だ。3年かけてしっかりと支配下におさめればいいのだ。
―――――――――1547年12月3日 古麓城 相良晴広――――――――――
「そうか、宇土城は落城したか」
「はい、当主の行興の自決と旧大矢野領への国替えで降伏しました。名和の跡目は行興の弟の行直が継ぐようです」
「たしか行直はまだ若かったはず。それに国替えもあるのか。協力して惟宗にあたるということは無理か」
「おそらくは無理でしょう」
くそっ。思ったより惟宗の動きが速い。天草郡への介入に時間がかかったから今回は何もしないのかと思ったのだが。まさか上津浦が名和に援軍を依頼するとは思わなかったな。だが今回はそれでよかったな。もし我らが援軍を出していたら攻め込まれていたのは我らだっただろう。
「問題はこれからですな。惟宗が我らを攻めてくるやもしれない。特に豊福城は商いを重視する惟宗にとっては喉から手が出るほど欲しい城のはずです」
「頼興のいうことも尤もだな。皆はどう思う」
「たしかに惟宗は豊福城が欲しいはずです。しかしそれだけで戦になりましょうか?惟宗は今まで大義なき戦はしておりませぬ。惟宗が我らと戦をする大義がない以上戦にはならないのではないでしょうか」
重臣の深水頼金が意外と楽観的な意見を言った。しかし頼金の言い分にもうなずけるところがある。惟宗がすぐに天草郡に攻めなかったのも大儀がなかったからだろう。それを考えるとすぐには戦にはならない可能性がある。しかし父上は納得していないようだな。
「いや、犬童頼安の事を忘れていませぬか。あれが惟宗を頼って旧領回復に乗り出せば戦を仕掛ける理由になりましょう。惟宗は後藤攻めの時、渋江氏の旧領回復を大義として戦を始めました。同じことをしてもおかしくはないでしょう」
確かに可能性はある。しまったな、あの謀反人の事を忘れていてしまったな。謀反の首謀者である相良治頼が死んだと聞いていたから問題ないと思っていたが失敗だったな。家中には治頼の呪いで養父殿が死んだという噂も流れている。これで頼安が惟宗に着いたら本当に呪いみたいだな。いずれ神社でも立てさせようかな。しかしそれも惟宗との戦が終わってからだ。
「あれが今何をしているか分かるか」
「残念ながら。しかしすぐに調べさせまする」
「頼むぞ頼興。もし惟宗に駆け込もうとしていれば捕らえるか殺せ」
「すでに惟宗に駆け込んでいる場合はいかがしますか」
「監視だけでよい。もし殺してそれを理由に攻め込まれては困る」
出来れば殺さずに我らのもとに戻したいな。あれは優秀だった。謀反なんぞ起こさなければ重臣として活躍してくれていただろうに。
「では今日の評定はこれまでとする」
「も、申し上げまする」
評定を終えて皆が腰を浮かしかけた時、大慌てで小姓が入ってきた。
「いかがした」
「こ、惟宗が豊福城に攻め込みました」
「なにっ」




