天草郡
――――――――――――1547年3月1日 塚崎城――――――――――――
「屋形号と肥前守護か」
「はい。これまでの忠義に報いたいと大樹が申されまして」
おい、惟宗がどれだけ献金してきたと思っているんだよ。かなりの量だと自負しているのだがな。それが屋形号と肥前守護か。確かに惟宗が肥前を統治する大義名分はなかったからありがたいと言えばありがたいんだけど。別になくてもいいんだよな。適当に肥前守でも僭称していればよかったのだ。
「新しい大樹はどうであった」
「微妙ですな。幕臣たちは将軍になるために生まれたような人だと言っていましたが自分の言動がどれほど影響を与えるのか分かっていないように感じました。将としては優れているかもしれませんが天下人にはなれないでしょうな」
なるほど。確かに史実でも似たようなところはあった。例えば三好と和睦をして京に戻ったのに各地の大名に三好討伐の手紙を書きまくっていた。三好長慶が生きているうちは戯言ぐらいにしか思われていなかったのだろうけど長慶の死後は松永・三好三人衆に警戒されて殺された。自分の影響力をしっかりと理解していればもう少し警戒しながら三好討伐を試みたはずだ。いや、理解していなかったから長慶に殺されたり将軍の座を追われなかったのかな。どちらにせよ細川や三好討伐を叫んでいるうちは室町幕府再興は無理だろうな。おとなしく神輿になっていればいいのに。
「朝廷の方は何か言っていたか」
「取次ぎをお願いしている山科言継様が申されるには帝が皆が惟宗のように官位目的以外で献金をしてくれればと言っておられたそうです。そして御屋形様のようなものに官位を授けるべきではないかと」
「官位だと?いや、今もらうわけにはいかんな」
守護や屋形号まで貰ったのに官位まで貰っては俺が調子に乗っているなんて思われてしまう。俺は余計な敵を増やしたくないよ。それに義鎮はまだ官位をもらっていないのだ。多聞衆の報告では俺のことを敵視しているらしい。また俺と比べるものができてしまうではないか。
「はい。某もそう思いお断りしてきました」
「そうか。まぁいずれ貰うことにしよう」
官位は普通に欲しいしな。適当なタイミングで貰うことにしよう。上洛もしたいしな。
―――――――――――1547年10月1日 塚崎城―――――――――――
「国康様、天草氏から使者が参りました。どうやら天草郡で動きがあったようです」
「やっとか!すぐに皆を評定の間に集めろ」
「はっ。詳細はこちらに」
盛廉が懐から手紙を出して下がる。ようやく動き出したか。今年中に動きがなかったらいちゃもんを付けて戦を仕掛けるところだったよ。そんなことをしたら周りの国人や大名に余計な警戒をされて動きにくくなる。理由はあった方がいいんだ。さて天草郡は今どうなっているのかな。
ふむふむ、どうやら上津浦が先に動き出したようだな。まずは大矢野氏・栖本氏を攻め滅ぼしたらしい。あっという間に滅ぼしたところを見ると相当準備していたのだろう。おそらく周りが前回の戦の報復を企んでいると噂が出ているのに先代と現当主の祖父が相次いで亡くなったことで相良が援軍を出すのは無理そうだ。このままではやられてしまう、それならばやられる前にやるしかないと考えたのだろうな。今は天草氏と戦っているが天草氏がおされているようだ。そしてその天草氏と天草郡のもう一つの有力国人である志岐氏が惟宗の配下となるから救援をと言ってきた。しかし初めの予定では上津浦を助ける予定だったんだけどな。まぁ天草郡の争いに介入できるならどちらでもいいか。
「国康様。皆さまがそろいました」
いろいろ考え事をしていると辰王丸が呼びに来た。
「分かった。すぐに行く」
評定の間に行くとすでに天草氏の使者と思しき人物が頭を下げて待っていた。
「お初にお目にかかります。天草尚種が家臣天草久武にございます」
「惟宗国康だ。面をあげよ」
「はっ」
「要件はすでに聞いている。こちらに服属するかわりに救援をしてほしいとのことで間違いないな」
「はっ、間違いございませぬ。どうか援軍をお願いいたします」
久武がもう一度頭を下げる。よっぽど上津浦は攻勢に出ているらしいな。
「わかった。援軍を出そう」
「まことですか。ありがとうございまする」
「しかし、これからは我らに従ってもらう。年貢は四公六民で兵は銭で雇った兵になるがよいな」
「もちろんにございます」
本当かなぁ。天草郡の国人はあまり信用できないんだよな。いや、天草郡というより肥後国の国人は信用できないな。史実では秀吉の九州征伐後に反乱を起こしていたはずだ。理由は知らんが反乱を起こす可能性があるものは出来るだけ味方にしたくない。よし、今回の戦で出来るだけ天草郡の国人の力を削いでおこう。




