相良氏
―――――――――1546年12月1日 古麓城 相良晴広―――――――――
「はぁ」
「む、いかがした」
思わず溜息をついていると実父の上村頼興が心配そうに話しかけてきた。
「おや、父上。いらしていたのですか」
「失礼な奴じゃな。それで何故溜息をついていた。何か厄介ごとか?」
「いえ、面倒な時期に当主になってしまったなと思いまして」
大友だけでも面倒であるのに惟宗が大きくなり天草郡の国人たちの間でもきな臭くなっている。いずれは天草で一波乱起きそうだ。
「確かに問題は多くあるな。それに義滋様と儂の父上が亡くなられた。家臣たちも動揺しているものが多い」
困ったものだ。肥後には大名と呼べるほどの大身はいない。そのためか裏切りも多く、常に周りの大きな勢力の動きに敏感だ。おそらく肥後北部の国人たちも大友と惟宗の動きには注目しているだろう。天草郡で何かあればどちらかが介入する前に片付けなければならんな。そして相良は当主が変わったぐらいではびくともしないというところを見せ付けねば
「ところで父上には菊池義武様の饗応を頼んでいたはずですが」
「おぉ、そうだった。その報告に来たのだった。しかし噂では聞いていたが馬鹿じゃな」
「何かございましたか?」
「その場にはいなかったのだが女中に手を出そうとしたとか。儂が戻って来てからはそのようなことはしていなかったが飯が不味いだの屋敷が古臭いだの文句ばっかり言っておったわ。少しは自分の立場を考えれば良いものを」
「そのようなことができないから没落したのでしょう」
まったく、すこしは周りを見てほしいものだな
「・・・殿はいかがなさるおつもりか」
父上が言葉を正した。つまりこれは当主と家臣として聞いているということか。
「惟宗が天草郡に手を出してくる可能性がある以上基本的には名和氏を盾にしつつ島津殿と連携しながら惟宗や大友との戦にあたる」
「しかし大友はともかく惟宗は今勢いのある大名です。苦戦を強いられる可能性が高いですぞ」
「分かっている。最悪の場合は自治を捨ててでも家を存える方を選ぶつもりだ」
養父殿から受け継いだ相良家を私の代でなくすわけにはいかない。
「それがよろしいでしょう。いや、最後まで抵抗し続けると言い出すかと思いましたが」
「そのようなことはせんよ」
「して、具体的にはどのようなことをするおつもりで?」
「まず名和氏に使者を出し同盟を結ぶ。まぁ、これはうまくいけば良いぐらいに考えているが」
「そうですな。以前は手を結んでいましたがすでに手切れとなり殿も奥方と離縁なさいました。また手を結べるとは考えない方が良いでしょう」
「その後は天草郡の国人たちに戦にならないよう釘を刺す。それでも戦になれば惟宗が出てくる前に片付ける」
「つまり兵を出すということですな?これは以前と同じように上津浦への援軍としてでしょうか」
「おそらくはそうなる。いつでも兵を出せるよう備えていてくれ」
「はっ」
惟宗は兵を動かすのが速い。それより先に動かねばならないとなるとかなり無理をせねばならんな。
「いっそのことこちらから攻め込むというのはどうでしょうか。兵は拙速を尊ぶと申します。早めに動くのも一つの手かと」
「いや、それを理由に攻め込まれてはかなわん。惟宗と敵対可能性はかなり高いかまだそうなるとは決まっていない。それでこちらから動くのは良策とは思えん」
「なるほど、かしこまりました。すぐに他の家臣たちにも伝えましょう」
「あぁ。皆を集めてくれ」
――――――――――――1547年1月20日 塚崎城――――――――――――
「新年あけましておめでとうございまする」
「うむ、面をあげよ。盛幸も正月明けから大変だな」
「国康様の御用とあらばいつでも駆けつけまする」
「それはうれしいな。今日は王直の品も持ってきたのであったな」
「はっ」
楽しみだな。盛幸や王直が持ってくるものは珍しいものが多い。領内で新しい特産品になればいいな。
「では、まずはこちらから」
そう言ってそばに置いてあった三つの箱の一つを前に差し出す。彦法師がその箱をとって俺の前に置いた。
「これは何だ」
先に開けてしまうと説明を聞く前になにか分かってしまうから開けずに聞く。
「地球儀というものにございます。これはこの世界がどのようになっているのかを表したものにございます」
「ほう。それは面白そうだな」
そういいながら箱を開ける。地球儀は二つ入っていた。前世のものに比べると正確ではないのだろうが地球儀だ。日本はどこだろうか。
「彦法師、お前も見てみよ」
「はっ。・・・しかしこれはまことに正しいのですか?某はこの世が丸いとは思えませぬ」
「ははは。お前も船に乗って沖に出てみれば分かろう」
「左様ですな。私もはじめは信じられませんでしたが地平線の方を見ていると納得しました」
「ところで日ノ本はどこにあるのでしょうか。先程から探しておりますがなかなか見つかりません」
「そうですな。少し失礼いたします」
盛幸はそう言って地球儀を受け取ると地球儀を回して小さな島の集まりを指さす。
「これが日ノ本です。こちらが明や朝鮮になります」
いや、さすがにここまで小さくはないと思うぞ。もう少し縦長のはずだ。
「なんとこのように小さな島が日ノ本なのですか」
彦法師が驚いたように声を上げる。そうだよな、肥前を統一するのに8年ぐらいかかったのだ。もっと大きいと思っていたのだろう。しかし地球儀だと交易にはあまり使えないな。確かこの間義輝が将軍に就任したはずだからそのお祝いとして献上するとするか。
「続いてはこちらです」
二つ目の箱を前に差し出す。また彦法師が受け取り俺の前に置いた。
「こちらは時計といい時間をはかるための道具です」
「ほう、それは便利だな」
へぇ、もうこの時期に時計は出来ていたのか。どんなものだろう。
「しかし、日ノ本と南蛮の時間の数え方は違います。そのままでは使えません。またかなり複雑なつくりとなっていますので扱いにはご注意を」
箱を開けてみると教科書に載っているようなゼンマイ式の南蛮時計が入っていた。
「複雑なつくりか。なかなか高いのであろう」
「まぁ、それなりには」
「よかろう、これは言い値で買う。三つほど欲しいな」
「それほどお気に召しましたか」
「あぁ、これを作ることができればなかなかの値で売れるであろうな」
日本式の時計にすれば南蛮の時計が入って来ても対抗できる。技術力も上がっていいことづくめだろう。
「国康様はまことに領内の発展のことばかり考えておられますな」
「それが領主の仕事だと思っているからな。戦だけが仕事だと思っていたらいつか痛い目に合うだろう」
領内が豊かだったら一揆もおきないし商人が増えて銭を置いていってくれるしいいことしかない。なんで他のところは領地を広げるだけ広げて年貢を重くして一揆がおきるようなことをするのかな。
「そのような考えを持っている方に天下を治めていただきたいですな」
「探せばいくらでもおろう。それより最後の箱はなんだ」
「これは国康様に頼まれていた品々です。ここに持ってきているのは一部だけですが湊には大量に用意しておりますのでご心配なく」
「頼んでいた品というとあれか」
「はい。明銭と甜菜にございます」




