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決起前夜

――――――――1648年6月10日 張孔堂 由井正雪―――――――――

「いよいよ明日だな」

「そうですね」

皆が寝静まった中、金井殿と酒を飲む。

「水軍基地襲撃はこの計画で最も困難なものとなる」

「わかっております。成功しなければ他が成功したとしてもこの計画が失敗になるということも」

「本当は儂が指揮をとろうと思っていたのだが、熊次郎様の顔を知っているものが儂しかおらん」

「はい。この計画に熊次郎様は必須。確実に人質にしなければなりません」

水軍基地襲撃、大坂城焼き討ち、京、一つでも失敗すればこの計画はつぶれる。

「毛利らの様子はどうだ?偽の計画書は信じたか」

「はい。今は火消しの訓練という体で兵を動かしているようです」

「偽の計画書では近江坂本にいるいるはずのない足利の落胤を担ぐことになっている。この計画が成功すれば、幕府側から見たら瀬戸内経由は我らが、琵琶湖経由は六条会が裏切り物の流れを押さえたと感じるだろう。幕府と六条会が敵対すればより混乱が生まれる」

最初に必要なのは混乱だ。幕府も朝廷も大名も混乱させる。そこに院と熊次郎様という指針を打ち出す。

「正直なところ」

金井殿が酒を飲みながら呟く。

「浪人たちの救済のため、ここまでするとは思いませんでした」

「まあそうだな。本来であればどこかしらに仕官できるよう助け合うために集まった。それが水軍基地襲撃だの大坂城焼き討ちだの、まったく考えもしなかったわ」

「先生だけでしたらいつでも仕官できたでしょうに」

「かもしれんの。だが・・・」

「先生っ!」

「どうした、騒がしいぞ」

門下生が慌てて入ってくる。

「新撰組ですっ。すでに包囲されています!」

「なに?ばれたというのか」


「由井正雪およびその一派!内乱罪にて逮捕状が出ている。おとなしく投降し、お縄につけっ」


外からずいぶんと大きな少年の声が聞こえてくる。どうなっている、京も同じ事が起きているのか。

「せ、先生」

「すぐに皆を起こせ。それから隠し通路をつかって逃げる」

「だめです。隠し通路もすでに・・・」

「そんなわけがないだろ。先生が秘密裏に作らせたのだぞ。見つかるわけが」

「・・・密告したものがいるのか」

儂の言葉にぎょっとした目で二人がこちらを見る。ここにいるのは中心となる100人だけ、怪しまれないよう決起直前に集まるようにしたのは失敗だったか。

「計画書と血判書を燃やせ。せめて京のほうはばれていないと信じるしかない」


「かかれっ」

「なんだ貴様ら」

「新撰組である。おとなしく捕まれ」

「切れ、切れ」

「ま、話が」

「火をつけたぞっ」


表が騒がしくなる。突入してくるか。

「まさかここまでとは」

「先生、我らが道を切り開きます。先生だけでもお逃げください」

「いや、もう無理だ。この場から逃げきれたとしても新撰組の目を気にしながら決起するのは不可能だ」

「そのようなことは」

「皆に伝えよ。逃げたければ逃げていい、投降するのもよしだ。儂は腹を切る」





――――――――1648年6月17日 新撰組屯所 古川成久――――――――

「しかしよくもまあこんな計画で成功すると思ったな」

奥村から受け取った計画書を改めて読む。

「数が足りないだろ。最低でも千は必要なんじゃないか」

「最盛期には3000人はいましたので、何とかなると思ったのでしょう」

「最盛期の話だろう。浪人救済に力を入れ始めると軍学塾もおろそかになって徐々に人が減ったと聞いていたんだが」

「具体的な数字は由井も把握できていなかったと考えられます。丸橋ら中心人物数名が信用できる人物100人を選び役割を与え、その100人が当日までに仲間を集め、決起するという形でしたので。いちおう目標の数は決まっていましたが、本当にそれを達成したのは何人いるか。どれほど集まっているか何人か探りましたが、数を偽って報告している者もいました」

「杜撰もいいところです」

「直守の言うとおりだな。しかし・・・」

由井正雪は名の知れた軍法家、こうも杜撰なものだろうか。紙上に兵を談ず趙括だったということだろうか。

「あるいは第一師団や水軍にも味方する者がいたのか?。基地の内部や火薬庫の位置なんて一浪人が知るはずないし」

「だとしたら憲兵は何をしているのでしょうか」

「こうなると血判書が燃やされたのは痛かったな」

「申し訳ございません。私が逃げ出す前に奪い取っていれば」

「いや、仕方ない。奥村のことは特別隊でも数人しか知らなかったんだ。逃げないと殺されかねなかった。今日の累に期待しよう」


「逃げ出すと言えば、例の密告者は誰だったのでしょうか。奥村の話ですと逃げたものはいなかったようですが」

「密告者?そのようなものがいたのですか?」

直守の言葉に奥村が不思議そうな顔をする。

「ああ、それが妙な話でな。密告者の手紙には計画どころか武器兵糧の出どころまで記されていた」

「まさか。私が調べてもわからなかったのに」

「ちゃんと調べたのですか?」

「当たり前だろっ、何年潜伏していたと思っているんだ」

「直守、今のはいかん」

「はい、すみません」

「それで武器兵糧はどこから」

「毛利秀就殿、および伊勢貞衝殿からだ。しかも秀就殿の密書まで出てきたぞ。それには熊次郎様も支援なさっていると書いてあった」

「そんな馬鹿な。それなら仲間集めの時に名前を出すはず」

「しかし実際に毛利の家紋が入った武器が紛れ込んでいた。密告者には報酬をやると呼びかけているんだがな」

報復を恐れているのか、それとも死んだか。

「問題はそれを見つけたのが新選組ではなく警察局だってことだ」

「それの何が問題で?」

「警察局長は未来の奉行候補、の落第者佐治為成殿。織田高重殿のはとこだ。どうだ、政争の匂いがするだろ」

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