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計画

――――――――1648年5月15日 張孔堂 由井正雪―――――――――

「先生、すでに武器や兵糧の準備はできました。いつでも挙兵できます」

「陸水軍にやとわれると高重公に期待していた浪人たちも高重公を離れて我らに味方する者たちも出てきています。今こそ好機」

丸橋殿と金井殿が息を荒くしていう。

「学校とかいうものに参加する浪人はどれほどいる」

「少なくとも私の周りにはいないようです。皆、戦場に出て、手柄を立てて領地を得たいのです。百姓商人の子供に文字を教えたいと考えているものなど、すでに寺子屋を開いています」

そうだろう。そう言った穏健なものたちが去っていく中で残ったのが我らだ、浪人たちだ。いまさらと考える者たちばかりだろう。

「先生!計画はあるのでしょう。教えてください」

「・・・わかった。皆を集めてくれ」

そう言って部屋を出て庭に向かう。もはやこれ以上は待てない。確実に勝てる戦ではない、むしろ負ける確率のほうが高い戦になるがこうするしかないのだろう。浪人たちの心がおれぬよう、あり得ぬ光を見せ続けてきた報いだ。せめて陸水軍に雇用される可能性が残っていれば、そちらに賭けたというのに。それを長久がつまらないという理由で潰した。あれに期待するのはもとより無駄だったか。


「さて諸君、よく集まってくれた。そしてこれまでよくやってくれた。ありがとう」

皆がそろったところで、まずは礼を言う。

「儂がほとんど計画を伝えなかったのにもかかわらず、疑うことなくついてきてくれた。これほどありがたいことはない」

「先生、前置きはいいですよ」

「そうだな。奥村殿の言うとおりだ。これより皆に計画を伝える」

儂の言葉に皆が真剣な表情になる。

「計画実行の日時は6月11日、月次祭の日。この計画では大坂と京の二手に分けれて実行に移る。もし片方が阻止されてももう片方はそのまま計画を続行してくれ。大坂組は儂が、京は丸橋殿に率いてもらう」

「はっ」

「大坂組は大坂防衛の要、第1師団の武器庫を襲う。ここで火薬や最新の武器を強奪する。その後、二手に分けれ、一方は奪った火薬や武器で大坂城焼き討ちを実行。その混乱に乗じて長久・奉行・次官を可能な限り殺し、熊次郎様を人質として拉致する。もう一方は大坂水軍基地を強襲、船を奪い取る。水軍基地強襲は金井殿に指揮をお願いしたい」

「かしこまった」


「京は月次祭の最中の朝廷を襲う。そこで一条ら親惟宗の公家たちを討ち果たし、混乱をもたらす。その混乱に乗じて院を誘拐し、大坂組と合流する。その後は兵の少ない直轄地である淡路を攻めとる。ここを落とせば瀬戸内を通って大坂に行く船を止めることができる。大坂の商いは混乱するはずだ。あとは院に帝に返り咲いていただき、熊次郎様に鎮守府大将軍と太政大臣を授けていただき、長久派討伐の綸旨を各地の大名、師団に送る。これによって我らは官軍となり、長久らは逆賊、ことがすべて終わることには我らが幕府の中枢になる」

「おお、行けるぞ」

「我らが幕府を」

「そうだ、長久を倒せ」

「さすが今楠木」

「計画の細かい流れと諸君らの役割はこの紙にまとめてある。各自で読んだ後は処分してほしい」

懐から紙を出して掲げ、それを奥村殿に渡す。

「質問があれば後からいくらでも受け付ける。各々、抜かりなく頼むぞ」

「「「はっ」」」

「金井殿は、あとで少し話がしたい。残ってくれるか」

「はい。かしこまりました」

いよいよ動き出した。ここからはもう引き返せないぞ。


「先生、話というのは」

皆が立ち去った後、金井殿が怪訝そうな顔でこちらを見る。

「金井殿には世話をかけたな。武器、兵糧は金井殿だよりだった」

「いえ、たまたま友人が商人をしていたというだけの事」

「どこかの大名に頼ることができれば楽なのだが、そんなことをすれば政争に利用される。結局は捨て駒にされるだけだ」

「はい。我らは浪人たちの救済のため、立ち上がるのです」

「そうだな。だが本当は誰かに出してもらったのだろう。どこの大名だ?」

「な、何をおっしゃいますか」

「少し考えればわかる。このご時世に武器を取り扱ってまともに儲かっているのは九十九か国友、あとは我らなどに関わろうとしない大商人ぐらいだ。当然幕府が監視しているだろう。となると大名から秘密裏に横流ししてもらうしかない。違うか?」

「・・・戦がなくなったことで武器が売れなくなり、職を失った職人はいくらでもいます」

「そんなものたちが場所や材料を持っているのか?あり得ないな」

この様子だとよほど隠したいらしいな。

「ほかの者たちには言わん。正直に言え」

「・・・毛利と伊勢にございます」

「どっちの毛利だ」

「秀就様です」

「六条会、頼長派か」

となると政争に利用しようとしているな。

「見返りは」

「長久の確実な死と、就隆の頸。それから旧旗本閥の人間を襲うことです」

「長久は熊次郎様に将軍を継いでいただくため、就隆と旧旗本閥は完全に秀就と伊勢貞衝の私怨だな。頼長はこのことを知っているのか」

「秀就はそう言っています。それどころか、熊次郎様も御存じのようです」

「でたらめだな。本当に熊次郎様が知っておられるなら万が一のことを考えてそのようなことは言わないはずだ。完全に利用されているぞ」

「し、しかし」

「うまくいけば恩着せがましく言ってくるのだろうな。誰のおかげで成功したと思っていると」

しかし何が狙いなのかはよく分からんな。直接かかわっている二人は何となく私怨としか言えないが、頼長が何を考えているか分からん。まあ何かしら考えているのだろう。情報の量で言えば頼長のほうが上のはずだ。

「あるいは自分たちで我らを潰す気か。その手柄を持って政争を有利に進ませる気か。だとすれば皆殺しの目にあうだろうな」

「そ、そんなはずはありません。秀就は・・・」

「仕官を約束したか。だとしたら騙されているぞ。反乱に加担したとなれば改易は免れない」

「そ、そんな」

金井殿は元毛利家臣だったな。それが財政改革のあおりで浪人になった。毛利に復帰できると吹き込まれれば騙されても仕方ないか。

「ま、過ぎたことは仕方ない。どうせ大した意味はない。殺すも殺さぬも儂の胸三寸、どんな約束をしていようと実行するのは我らよ」

そう言って懐からさっきの者とは別の紙を取り出す。

「毛利達にはこの偽の計画書を渡しておいてくれ。本当は密告者の振りをして新撰組に届けるつもりだったのだが」

「かしこまりました」

「人質としては熊次郎様がいればいい。他は切り捨てよ。ことが終われば毛利の家臣どころか天下有数の大大名も夢ではないぞ。ともに励もう」

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