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謀反へ

――――――――1648年3月14日 新撰組屯所 古川成久――――――――

「政は面倒なことばかりしているな」

「我らはそういったものと関わりたくありません」

「そう言うわけにもいかないでしょ」

報告書を見ながらため息がでる。直守は嫌悪感を顔に出し、それを累がとがめる。


「しかしだれが主流になるにしろ、我らの仕事には関係ないでしょう。犯罪者を捕らえる、これさえできればいいんです」

「そんなことはない。この権力争いに六方や過激派浪人がかかわっている可能性が高いんだ。それに腐敗を正してこその新撰組。関係ないとはいかないよ」

出来れば関わりたくないというのが本音だが、そうも言ってられない。そもそもこの特別隊は井頼殿氏以降に起こるであろう混乱に対応するために作られた。関わらないというわけにはいかない。


「それよりいったん整理をしよう。どうも六方や浪人が出てからややこしい」

「かしこまりました」

累がすぐに書類をそろえて説明を始める。


「まずは織田高重率いる鷺山会。道八会が接近していますが、明確に手を組んだ様子はなく、泉屋が金銭面で支援をしているようです。また浪人たちが多く出入りをしており、中には先日の長頼様襲撃未遂に参加した浪人と交友があった者もいます」

「泉屋の目的がよく分からんな。局長は何かしら手足がいると読んでいたが、それもわからん」

あるいは手足ではなく頭かもしれないけど・・・


「杉村頼長が中心となる六条会は、大小神祇組が出入りしています。加島屋も譜代を通じて支援をしているようですが、以前に比べると少なくなっているようです。やはり将軍後継争いで負けたのが大きいのかと。浪人の出入りが最近になって活発になっており、こちらも目が離せません」

加島屋は手を引きたいのか、それとも譲歩を迫るための脅しか。


「島津光久ら九州閥と光友一派ですが、近いうちに正式に派閥合流をするようです。唐犬組とは距離を置いており、淀屋はこれまで通り支援を続けるようです」

「結局のところ、どこからせめるのです?叩けばいくらでもほこりが出てきそうですが」

「新撰組は政に口をはさむために動いているのではない。犯罪者を捕らえるために邪魔されないよう政を注視しているんだ。どこからというのはない」

とはいえ、狙いを絞っていないわけではない。


「まずは・・・」

「失礼します。内偵中の隊士より報告が」

突然、外から声がかかる。まったく気が付かなかった。相変わらず特別隊にいる隊士は妙なのが多いな。

「こちらが報告書です」

「ご苦労様」

なぜかふすまの隙間から紙だけが差し出される。内偵先ならともかく、屯所だったら別にこっちに顔を出してもいいだろうに。


「副長、内容は」

「待て待て、そう急がせるな」

直守がせかすのをなだめながら報告書を開く。

「またか」

「またということは、浪人の反乱ですか」

「ああ。由井正雪らが謀反を企んでいるらしい。すでに準備は進んでいるようだ」

「幕閣の一人二人襲ったところで意味はないだろうに。今度は誰を襲撃するつもりですか」

「詳しいところは由井正雪がまだ誰にも伝えていないようだ。誰かが後ろ盾になっている可能性もあると」

「後ろ盾、とりあえず内乱罪で逮捕して吐かせますか?」

どうする。この時期に謀反を起こさせるということは政争の一環だろう。ここで吐かせたとして、握りつぶされないか。大鳥組の時の公家とは違う。各派閥には握りつぶすだけの力がある。どこかの派閥が関与していたとして、残りの派閥のうち一方が握りつぶさせないよう動けば、他方が貸しを作るために握りつぶそうとする。数の力で握りつぶすほうが勝つだろう。あるいはほかの手を使ってくるかもしれない。


「まだ、逮捕はしない。するときは後ろ盾もろともだ」

「計画も由井正雪だけが知っているとなると、内乱罪が当てはまらない可能性があります」

「累の言うとおりだ。確実に、根こそぎ逮捕するぞ」

「「はっ」」

今回は根回しをしない。一気に叩き潰す。問題はどこが後ろ盾となっているかだな。浪人ということは鷺山会か六条会か。しかしだとしたらいきなり過ぎないか。こういったのは劣勢に立たされてからという気がする。鷺山会は先の浪人政策の転換を上様の気まぐれで潰されている。劣勢といえばそうだが、焦る段階ではない。六条会は良くも悪くも変わっていない。だとしたら由井正雪の暴走に引っ張られているのか?いや、そんなものさっさと切り捨てればいい。由井正雪は切れ者と評判だが、惜しむほどの人物でもないだろう。しょせん、時代の変化についていけない者たちの頭だ。


「しかしこの期に及んで謀反とは、何を考えているのでしょうね」

「累殿の言うとおりです。帰農するなり、商人になるなりすればいいものを」

「いまいる浪人たちの多くは、改易によって主家を失ったものたちだ。参勤交代などで懐が厳しい各藩では財政改革として地方召上が行われている。家臣たちからすれば先祖伝来の地を主家に取り上げられた。それでも藩からの給与がなければ生活できないため従っていたが、改易によって給与を失った。幕府を恨む者たちが現れ、幕府が推奨する帰農や移民をしない者たちが一定数出てくる。あるいは自分たち抜きに治められるはずがないと高をくくったか」


「幕府をなめすぎでしょうそれは」

「大坂にいなければ意外と実感できないものらしい。横浜や博多にいた時に肌で感じたよ。そうやって高をくくっていたけど、再び召し抱えられる気配もない。どこかに仕官しようにもどこの藩も戦のない太平の世では新たに雇う必要はない。じきに蓄えは底をつき、食うものにも困るようになる。そうなると犯罪に手を染める者が出てくる。当然ながら逮捕されるが、浪人からすれば仲間が元凶である幕府につかまったように見える。そのせいで幕府に敵意を募らせ、帰農や移民を余計拒否するようになる」

「結果謀反を企てる、ですか」

「すべての浪人がそうだとは言わないけどね」

こればかりはさっさと幕府でどうにかしてほしいものだな。寺子屋のようなものを作るらしいけど、それに参加する浪人がどれだけいるか。ま、派閥争いが落ち着くまでは何とも言えないか。

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