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派閥再編

――――――――1647年10月17日 大坂城 島津光久―――――――――

「くそっ、完全にしてやられた」

そう言いながら光友がギヤマンを叩きつけるように置く。せっかく最近、領内で売り物になる出来のギヤマンができたら出したのだが。壊されてはたまらんな。さっさと葡萄酒を注いでおこう。

「ま、葡萄酒でも飲んで落ちついてくだされ。急いては事を仕損じると言います」

「あ、かたじけない。しかしこのままでは高重を中心とする評定となる。長久様がまともに評定をまとめられるとは思えん。こちらに相談もなしに徳川・旗本を味方に引き込んだ。しかも次の日には鷺山会ろざんかいなるものを作りよった。井頼様の真似でもしているつもりか」

引き抜きだけであればここまであれることはなかっただろう。しかし次の日には派閥を作ったのだ。明らかに前々から準備していたとしか考えられない。たしか信長の正室の名前が鷺山殿だったはず。主導権は高重にあるな。

「問題は奉行・次官職だけでも派閥が二つと無派閥3人、毛利就隆がついている。合計では10人か」

「甲寅会が分裂している以上、鷺山会が数では圧勝ですな。おまけに織田旧臣の中には六方になったものも多い。そことつながっていれば」

「我らを殺そうとする輩はいくらでもいると。せいぜい外で見張っている新撰組には頑張ってもらいたいもので」

憎々しげに言いながら葡萄酒を飲み干す。次期将軍を決めた評定の後の護衛についたのが元服したばかりの少年だったことがよほど気に入らないのだろう。高重には古川成久副長が付いたのも気に食わないか。

「今後の動きですが、どうしますか」

「まずはつつがなく長久様に鎮守府大将軍と太政大臣を継承していただく」

それはそうだが、そういうことを言いたいのではない。どうやって鷺山会や頼長派をどう潰すかという話だ。

「頼長派の動きも見る必要がある。すぐには行動できまい」

「後手に回りますが、よいので」

「仕方ない。後の先というやつだ」

何とも慎重な光友らしい。だが、それでは気づいたら蚊帳の外になりかねない。

「こちらから積極的に行動すべきと考えますが」

「一歩間違えれば我らは力を失う。そもそも数の力でしか甲寅会は評定を動かせなかった。それが無くなった以上、これまでの戦いはできない」

さっさと井頼殿が亡くなる前に甲寅会の主導権を握れていないからそうなるのだ。

「とにかくだ」

そう言いながら自分で葡萄酒を注ぐと一気に飲み干す。

「将軍継承まではどこも動けまい。それまでに足元を固めておくしかな」

「・・・そうかもしれませんな」

「では私はここで。馳走になった」

そう言って光友が立ち上がる。

「お見送りいたそう」

「いや、結構。上様のご容態がどうなるかわからないのだ。休めるときに休まれよ」

そう言うとさっさと光友は部屋から出て行った。


「のんびりなのか、せっかちなのか。妙な男だ」

「そうだな。優秀なのは間違いないのだが」

隣の部屋から茂富が苦笑いをしながらギヤマンを持って出てきた。本当であれば適当なころ合いで入ってくる予定だったのだが。

「で、どうだった」

「頼長はどうやら譜代や甲寅会の一部、それから毛利秀就・伊勢貞衝を中心に新たに派閥を作るようだ。数は奉行・次官だけで9人」

「残りは11人か」

「全員をこちらに引き込めるとは限らん。特に池田重政・赤井忠泰・堀内氏久は甲寅会に残るだろう」

「となるとこちらが引き込めそうなのは8人か。一番少ないな」

ただ九州閥が中心となる派閥になるだろう。頼長は譜代に遠慮しながらになる以上、難敵はやはり鷺山会の織田高重。

「すでに局長級のやつらに説得をさせている。それにしてもあの新撰組はどうにかならんのか」

「どうにかと言ってもな。六方や浪人の動きが活発化しているのは法務奉行所警察局の報告から見ても間違いない」

「だからと言っていちいち出かける先についてくるのは迷惑だ。こちらの動きを新撰組が完全に把握していることになる」

「それは他の派閥も同じだ。そして扇鹿之助という男は絶対に中立から動かない」

「しかし今回の実質的な指揮をしているのは副長の古川成久だろう。譜代出身としてあちらに近いのではないか」

たしかに、こちらに回してきた護衛は異装の女であったが。

「おかげで六方とも連絡をつけることができん」

「いっそ、今回は接触しないほうがいいでしょう。六方には六方の争いがあります。高重や頼長が六方を使おうとすればそれに敵対する六方が何かしらの動きを見せるはず。それを逃す新撰組とは思えません」

「情報収集をする身にもなれ。しかし・・・」

しかし?

「高重は一体いつの間に派閥を形成する準備をしていたのか。裏切られないよう用心してみていたはずなのだが」

「誰か黒幕のような存在がいるとでも?長久様が読まれるような物語ではあるまいし」

「少なくとも知らぬ手足がいるはずだ」

「たとえいたとしても問題はない。長久様が将軍を継ぎ、頼長たちを排除できればそれでいい」

逆に言えば、それまでが勝負となる。だから後の先などと言わずに、こちらから積極的に攻めていかねばならないというのに。

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― 新着の感想 ―
[一言] 古川成久が新撰組モブからだいぶ出世したな
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