だれに3
――――――――1647年10月15日 大坂城 杉村頼長―――――――――
「では評定を再開します」
「その前に一ついいだろうか」
光久が評定を始めようとすると、堀田正盛外務次官が発言を求める。
「どうぞ」
「これまでの議論を見るに、次期将軍は熊次郎様か長久様になるでしょう。しかし熊次郎様はまだ幼少、長久様もいきなり将軍というのは大変かと思う。そこで後見人を設置するべきと考えるが、いかがだろうか」
「それがいいだろう。安定した継承のために必要なことだ」
賛成の声を上げながら内心ほくそ笑む。堀田殿はこちらについたか。勝ったな。
「その後見人というのはどなたに頼むつもりだ。ここにいるものにというわけにもいかんだろう」
「私は大友長頼様にお頼みするのがいいと考えるが、いかがだろうか」
光友の質問に堀田殿は答えて、周りを見渡す。
「どなたか、ほかに案がある方はいませんか」
光久の言葉に誰も答えない。光友は長頼様に反対すれば九州閥が離れるとみているのか。だとしたら長久様になれば確実に政の主導権は九州閥になるな。
「では後見人を長頼様にお願いすることに賛成の方は挙手を」
全員が挙手をする。しかし光友の顔はあまり面白くなさそうだ。長久様になったときに九州閥の力が強くなると考えているのか。何とものんきな話だ。どうせここで熊次郎様が将軍になれば貴様の座っている地位などすぐに崩れ去るというのに。
「では長頼様に後見人をお願いするということで調整します。では評定を再開いたしますが、先ほどの休憩の際に、高重殿よりこれ以上議論を進めても結論が出るとは思えない、上様のご容態や将軍・太政大臣任命の準備もあるため多数決で決めたほうがいいのではないかとご提案がありました。そこでこの場で多数決をとり、その結果で次の将軍をお願いしようと考えますがいかがでしょうか」
高重が?織田の生き残りが決着を急いだか。井頼様に拾っていただいておきながら、光友に加担するような阿呆だからわからんでもないが、光友が確実に勝てる状況ではないなかで動くか?ここは時間を稼いだほうがいいだろうか。
「それでいいだろう。次期将軍が早急に対処しなければならない問題だが、ここにいる者たちが抱えている仕事はこれだけではない」
「私も賛成だ」
信綱殿と光友が賛成の声を上げる。信綱殿はいけると踏んだか。たしかにな、ここで勝負をかけられなければまよっている者たちに光友につくきっかけを与えかねない。光友もそう考えたから賛成したのだろう。ないな。
「自分も賛成だ。議論は十分に出尽くした」
「反対の方は・・・いないようですね。それでは多数決を行います」
「その前に」
光久の言葉を遮るように秀就殿が声を上げる。
「進行が投票権を持つというのはどうなのだ。後々、進行が意中の人物に有利になるよう勧めたと思われてはお願いされる方も気分がよくなかろう」
お、これは打合せしていなかったがいいのではないか。
「首席補佐官も評定を構成する重要な役職。それをないがしろにするかのようは発言は控えたほうがよろしい」
「しかし進行というのは議論を誘導できる存在だ。それに人数的にも同票となって結論が出ない可能性がある。一人投票しないだけでそれが解決するのであればそれがいいのではないか」
「だがだからと言って」
「わかりました。同票になっても面倒ですので、私は投票いたしません」
光友が秀就の主張を退けようとしたが、以外にも光久がそれを受け入れた。それだけ自信があるのか。それもこちらの手で根拠のないものになっているがな。
「では候補の方の名前を上げますので、賛成の方は挙手をお願いします」
ずいぶんと強気だな。後から干すつもりで呼ぶんだろうな。それと裏切ってもわかるぞと言いたいのだろう。
「ではまずは長成様と考えている方は挙手を」
光久の言葉にだれも手を挙げない。予定通り、旗本閥の取り込みには成功した。信綱殿の報告を受けた時は勝利を確信したな。見ろ、光友が焦ったような表情をしている。どうやら旗本閥は長成様を支持すると考えていたみたいだな。残念だったな。先ほどの休憩の時に盛智殿が旗本閥のまとめ役である貞衝殿と話を付けた。これで俺の勝ちだ。
「では続いて、小田勝正様と考えている方は挙手を」
これにも誰も手を挙げない。議論の際も名前はほとんど上がらなかったのだ。康正様が小田家を復興させてやりたいと考えてできた家なのだから、妥当なところだろう。
「続いて熊次郎様と考える方は挙手を」
光久の言葉を待たずに挙手をする。周りからはざわざわとした気配がする。どういうことだ、なぜ。
「信綱殿、これはどういうことだ」
「盛智殿、不規則な発言は控えてください」
盛智殿が思わず立ち上がって発言をしようとしたが、光久に注意される。だが、盛智殿が先だっただけで、俺もそうしそうになった。
挙手をしたのは自分、譜代閥の5人、秀就殿、池田重政殿・赤井忠泰殿・堀内氏久殿・柳沢安吾殿ら甲寅会5人、伊勢貞衝殿の12人だった。徳川閥はどうした。旗本閥はどうした。無派閥も、真親も。
「おのれ」
よくもやってくれたなと光友をにらみつけるが、光友も驚いた表情をしている。どういうことだ、だれが手引きした。
「光久殿、次に」
誰もが驚いて声を出せないなか、落ちついた声で光久に声をかける。それは織田高重だった。
「わ、わかりました。では長久様と考える方は挙手を」
結果は、数えるまでもなかった。
「では、次の将軍は長久様にお願いすることといたします。本日の評定はこれまでといたします」
「失礼いたします」
光久が評定を終えるとすぐに鹿之助殿とその部下が入ってきた。
「鹿之助殿、今は人払いを」
「評定が終わったと判断して入りました。どうも浪人や六方が騒いでいるようですので、皆様の護衛に参りました」




