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蛇梁倭変

――――――――――――1544年5月1日 塚崎城――――――――――――

「国康様、一大事にございます」

自室で必要な手紙や報告書の処理をしていると盛廉が大慌てで入ってきた。

「何事だ。騒々しいぞ」

「も、申し訳、ございませぬ。しかし一大事にございます」

「一大事というのはさっき聞いた。俺はその内容を聞いているのだ」

「朝鮮にて倭人が反乱を起こし、それに怒った朝鮮が歳遣船を止め全ての貿易を禁じるといってきております」

「なにっ!?」

「詳細はこの手紙に」

そう言って盛廉が懐から手紙を出す。すぐに開いて手紙を見る。ふむ

「爺、俺は朝鮮語を嗜まんぞ」

「あ、そうでした。すぐに翻訳させます」


すぐに評定の間に家臣たちが集められ、そこで翻訳された手紙を読んだ。簡単にまとめると今後、日本国王・大内氏・少弐氏以外の使者とは会わない、歳遣船を含む通交貿易を断絶するというような内容だった。

「とりあえず朝鮮で何があったか分かるか?」

「その手紙を持ってきた使者が言うには倭船20余隻が慶尚道蛇梁鎮けいしょうどうだりょうちんに攻め入り朝鮮水軍を殺傷したと言っておりました」

その日本人たちは一体何がしたいんだよ。せっかくの上客が逃げちゃったじゃないか。


「いかがなさいますか?我らとしては既に肥前で土地を得た以上あまり歳遣船は必要ありませんが」

「左様、昔は綿布を輸入しておりましたが今では彼の国から持って来るのは嗜好品や仏像などあまり必要のないものばかり。無くなっても問題ありますまい」

盛廉と智正は貿易中止派か。たしかに今、輸入しているのは虎の毛皮や陶磁器ぐらいだ。無くなっても困るわけではない。むしろ国内の磁器の価値が上がり有田焼が高く売れるかもしれん。


「いや、嗜好品だからこそ高く売れるのです。それを必要ないとは言わせませぬぞ」

「それにいつ報復にくるか分かりません。貿易は後から考えるとしてまずは講和をまとめるべきではないでしょうか」

調親と康広は交渉継続派のようだな。だが康広は朝鮮の報復を警戒しているだけで貿易はどうでもいいと言ったところか。


「あの、よろしいか」

「いかがした、尚久。その方も評定衆なのだから意見を出すのに遠慮するな」

「その歳遣船で我らはどれほどの利益を得ているのでしょうか?」

確かにそれがわからないとなんとも言えないよな。こういうのは御倉奉行の茂通に聞けば分かるだろう。

「茂通、どれほどの利益が出ているか分かるか?」

「へっ?あ、そうですね。詳しく調べなければ分かりませぬが去年は全体の1割ほどだったはずです。ただ、近年は領内で綿花を育てるようになったのと明との密貿易で朝鮮以外からの輸入が可能になったことから減少傾向にあります」

減少傾向ありか。もしかすると貿易を拒む理由が欲しかったから今回の事件を中止の理由に利用したのだろうか。あり得ない話ではないと思う。こちらが黒字である以上向こうは赤字になっているはずだ。


「国康様はどのようにお考えでしょうか」

「・・・朝鮮は先代のこともあり我らを属国か何かと勘違いしている節があるように感じられる。この際、朝鮮から手を引いた方が良いかもしれん」

「では」

「うむ、今日より宗は朝鮮と縁を切る。だがその前にやらねばならんことがある。康範」

「はっ」

「朝鮮に滞在または居住している倭人を出来るだけ救出せよ」

「かしこまりました」

宗が朝鮮と手切れになったから日本人が虐殺されたなんてことがあったら困る。宗の評判が悪くなりかねないからな。

「康広」

「はっ、明ですか?朝鮮ですか?」

「朝廷だ。確か以前から官位をと言っていたはずだ。代わりに先祖の姓を名乗ることをお許し願いたいと伝えてくれ」

「先祖の姓ですが?何故姓を変えるのでしょうか」

「朝鮮では姓が一文字であることが多い。おそらく先祖はそこに目をつけたのだろう。対馬は山ばかりで米の収穫は期待できん。貿易で稼ぐしかなかった先祖は少しでも印象を良くするために姓を一文字に変えたのだろう。だが今の我らは違う。米の問題は肥前で確固たる地位を築いたため解決した。もはや朝鮮のご機嫌取りなんぞ不要である。故に姓を変える。これより俺の名は惟宗これむね朝臣彦七郎国康とする」


惟宗は源平藤橘のどれにも当たらない。秦氏19人に賜与されたものらしい。詳しい話は伝わっていないが先祖に当たるのは間違いない。しかし、先祖の姓とはいえ勝手に臣下の中では一番上の地位にあたる朝臣を名乗るのは良くないと思うので朝廷に許可を取る。朝廷も自分たちのことを配慮してくれたと思ってくれるだろう。


「何か必要なものはあるか。金銀銅や陶磁器・綿布などを送った方が良いならすぐに用意せねばならんが」

「いえ、帝は清廉なお人柄ですのでそのような贈り物をした後に改姓のことを出すとご不快に思われるかもしれませぬ。いつも持って行っているものでよろしいでしょう」

「分かった、大友や少弐には俺から手紙を書く。必ず認めさせよ」

「はっ、承りました」

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