スラバヤと一世一元
――――――――1628年2月10日 大坂城 浅井井頼――――――――――
「続いて外務奉行所からですが、スラバヤより援軍を求めてきた件についてです」
「はい」
智清首席補佐官に促されて軽く前にでる。奉行になってからしばらくたつが、なかなか評定には慣れないな。
「まずスラバヤの現状ですが、長らく西のマタラム王国に圧迫されています。4年前に侵攻の構えを見せましたが、阿蘭陀と日本との関係、および両者の間で行われた戦争がどう動くかがわからないということで制圧する前に賠償金を支払わせて撤退しました」
「阿蘭陀との戦争が思っていたより影響を与えているのだな」
「その通りでございます」
上様のお言葉に皆がうなずく。日本は海南諸島制圧・阿蘭陀との戦争を経て太平洋においてどの勢力も無視できないほどの勢力になった。それがいいことなのかどうかはわからないが。
「しかし日本と阿蘭陀との戦争が終わり、日本がマタラム王国に対して何らかの干渉をする気配はないと判断するとスラバヤへの再侵攻の準備を整え始めました」
「そこで文萊の例にならって我が国に援軍を求めてきたというわけだな」
「左様にございます」
上様のご理解は早いから楽でいいな。後はこれで怒りっぽいところがなければいいんだけど。
「マタラムとスラバヤは長年の敵同士で現国王アグンは父、祖父が達成できなかったスラバヤを攻め落とすことを悲願としています。前回は中途半端なところで兵を引かざるを得なくなってしまったため、今回こそはと考えているようです」
「そうか。頼政、スラバヤとマタラムには人を入れているか」
「もちろんにございます」
もちろんか。相変わらず情報収集能力はすさまじいな。
「どちらかが日本に対して敵対的な行動をとる可能性はあるか」
「マタラム王国は周辺の国々の中で最も力を持った国にございます。またアグンは優秀で野心家であるため、東の敵がいなくなったのちに、ジャワ島統一に向けた行動をとる恐れがあります。そうなりますと」
「ジャガタラに兵を進める可能性があるか。それにバンテン王国と結託される可能性もある」
バンテンはジャガタラの件で日本に対して不満を持っているだろう。それにジャガタラのほうが印象に残っているが、巨港に関してもバンテンは領有を主張していた。一気に面倒なことになるな。
「日本としてはマタラムの背後にスラバヤがいたほうが都合がいいな。しかしただで助けてやるのは気が進まんな」
「これまで通りの支配を認めるのであれば文萊同様、朝貢をすると使者は申しておりました」
「それも文萊の例を見てということか」
日本の影響力が増すという点ではいいことだ。太平洋での支配権をイギリスに認めさせたとは言え、所詮は南蛮。当事者ではない。実際に支配とまではいわないまでも主導的な地位を確立することは必要だろう。だがこれによって幕府の負担が増えるのではないだろうか。
「文萊だけを助けてスラバヤを助けないというのは筋が通らないだろう。村重」
「はっ」
「勝てるか」
「マタラムは水軍力を軽視しています。海上での戦闘では負けることはまずありません」
「貞家」
「マタラムは強力な陸軍を保有していますが、防御に徹し、兵站を維持できれば十分に勝機はあるかと」
「頼政、唐土の動きは」
「金では当主交代、明では反乱の鎮圧と大きく動くことはないかと」
「よし、ではスラバヤには援軍を送ることとしよう。水陸軍奉行所は次の評定までに計画を立てよ。外務奉行所はこちらに有利になるような形で話をまとめよ」
「「「はっ」」」
「次は京の一条達からだ。禁中並公家諸法度違反の罰が必要であると言ってきた」
一条様達も大変だな。紫衣事件は上様の逆鱗に触れてしまっている。今回の件で抗弁書を出してきた沢庵宗彭らを新撰組に逮捕させるなど強硬な姿勢を見せていた。それでも罰が必要とは、公家たちは幕府を甘く見ているのだろうか。
「帝に対して何らかの制裁を加えるというのはさすがにまずい。今後の朝廷との関係に致命的な亀裂が生じる。何か良い案は何か」
そう言って上様が皆を見る。しかし奉行、次官と何か言おうとしない。それもそうだろう。朝廷のことに関しては亡くなられた内貞様に丸投げしていた。いまさら我々に意見を求められても困るなぁ。
「以前献上した禁裏御料の一部を返還していただくというのはどうでしょう」
政次法務奉行が真っ先に口を開かれる。
「それは露骨すぎないか。表向きは紫衣事件の件とは別という形をとりたい」
「でしたら一世一元というのはどうでしょう」
次に発言をしたのは調長殿だった。
「頻繁に改元をしていては混乱のもとになると先々代様のころに検討がされていたと聞いています。しかし改元は朝廷の収入の一つとなっていることから見送られています」
へえ、そんなことがあったのか。
「それを採用すれば朝廷の収入が減る。しかし表向きは混乱を避けるためか。悪くない。一世一元の制の導入を禁中並公家諸法度に明記する。法務奉行所はすぐに取り掛かれ」




