六方
――――――――1626年10月2日新撰組屯所 古川成久――――――――――
「おーい、三番隊集まれ。会議始めるぞ」
「はい」
組長の言葉に三番隊の主だった隊員が集合する。22人もいれば部屋はぎゅうぎゅうだな。
「よし、じゃあ始めるぞ。まずはさっき会った組長会議の内容だが、一番隊は三河のほうでは何も見つからなかったらしい。ざまあ見ろ」
「組長」
「はいはい」
忽那通光伍長に窘められてばつの悪そうに組長が頭をかく。
「正確に言えば何も見つからなかったわけではない。家督争いで起こった小さい事件が出てくる出てくる。だが今回我々が調べている城下での徳川家光暗殺未遂、これに関するものは見つかっていない」
ということは今回の事件を依頼した犯人は大坂にて働いていたものか。
「面倒ですね」
「伍長の言うとおり、三河の者たちが依頼したものであれば徳川家臣であると考えられたが、依頼者は大坂にて生活を行っているものとなれば徳川閥全体を疑う必要が出てくる。いや、徳川閥弱体を狙ったほかの派閥という線も捨てれない」
容疑者だらけだな。
「取り調べのほうはどうなっている?」
「何も吐きません。依頼主はもちろん、自分がどこの組に入っているのかも」
「六方かどうかもわからんのか」
六方は違法な手段を用いて銭儲けをしている浪人や旗本・町人のことだ。俺が新選組に入る前に六つの大きな組があったことから六方と呼ばれているが、情報本部と連携して四つの組を壊滅させた。残っているのは織田頼長を頭とする道八会、大鳥逸平率いる大鳥組の二つだけだ。
「吐くまで取り調べろ。何でもいい、些細なことも聞き逃すな」
「はい」
「あとは・・・この間出てきた金はどうなった」
「それは俺らが」
そう言って兼弘先輩が手を挙げる。
「裏帳簿はまだ発見されていません。また架空経費を計上している痕跡がないことから帳簿上には存在しない収入源が存在したと考えれます。また数年前からふた月に一度、身元不明の人物が訪れていたという証言があります」
「要するに何もわかっていないということか。厄介だな」
そう言って組長が目をつむり、考え込む。
「よし、6人組を3つ作れ。一組目は実行犯の身元を洗い出せ。二組目は金の出どころ、三組目は見逃されていた小さい事件を徹底的に炙り出し、徳川家中の情報を集めろ」
「組長、それでは二人余りますが」
6人組が3つで18人、組長と伍長は各組の情報管理。確かにあと二人余ってしまう。
「兼弘、成久」
「はい」
「は、はい」
いきなり組長に指名されて思わず声が上ずってしまう。
「お前らは徳川藩邸に出入りしていた身元不明の人物を探れ。ほぼ間違いなく事件にかかわっているはずだ」
「「はっ」」
「今回の事件は派閥やらなんやらでややこしくなっているが、あくまで殺人未遂の事件だ。藪から蛇が出てこようがあらゆるものを引きずり出せ。その結果の責任は俺がとる。必ず犯人を逮捕しろ」
「「「はい」」」
「とはいってもどうしたもんだろな」
「名前も歳もわからないですから、そう簡単には見つけられませんよ。似顔絵を描いてもらいましたが、どこにでもいそうとしか言いようがないですね」
証言をしてもらった料理番の長屋から出て、似顔絵を見てため息をつく。
「まともな手掛かりは親指の付け根のやけどか。分かりにくいな」
「ないよりはましですが・・・とりあえず徳川邸にで働いていた者たちに聞いて回りますか」
「うーん、いや。この近くに俺の情報屋がいる。そいつに話を聞きに行くぞ」
「情報屋ですか?」
「あぁ、多分この辺りにいるはずだ」
そう言うと表の通りをさっさと歩き始める。
「おおい、俺だ。でてこい」
しばらくして小さい神社につくと兼弘先輩は大きな声でだれかを呼ぶ。
「あれ、いないのか」
「うるせえな。そんなに叫ばなくてもいるよ」
「うわっ、びっくりした」
急に後ろから声がして思わず声を上げてしまう。振り返ると無精ひげの生えた小汚い爺さんがいた。
「お、いたか」
「いたかじゃねえよ。朝帰りで寝てねえんだよ」
「どうせ賭け事だろ。さっさとやめて貯金しろ」
「えっ、賭け事って。違法ですよ」
「なんだこのガキは」
「俺の後輩だ。古川成久ってんだ。この爺さんは情報屋のマサチカな」
「よろしくお願いしますってそうじゃなくて」
思わずつられて挨拶をしてしまったが、賭博に手を出している奴が情報屋なのか。
「ふん、世間知らずのガキって感じだな。古川っていやあ譜代じゃねえか。道理でだ」
「ガキガキ言わないでください。情報屋ならなんで賭博の情報を」
「銭にならねえじゃねえか」
「銭って」
「それに俺が参加した賭けは個人がその日の気分で開く場所を変える手のものだ。組織的なものじゃねえし、開かれるかどうかも当日までわからない。だいたい2刻ほどで終わるから捕まえにくいし、額も大したことじゃあねえ」
「そんな小さい賭博は俺たちじゃなくて警察局の仕事だ。文句があるなら法務奉行所にでも言え。それより徳川の事件は聞いているな」
「小姓がどっかの浪人に襲われたって話か。それとも隠し財産が出てきた話か」
「後者だ」
な、そんな話まで知っているのか。
「そっちなら俺は知らねえぞ。徳川は伊賀者がいるせいでなかなか情報が入らない」
「その癖に徳川の情報が一番多いじゃねえか。事件の数年前から出入りしていた怪しいやつがいたらしいんだが、知らねえか」
「うわさは聞いたことがあるぞ。夜中だから噂程度にしかならなかったがな」
「で、それがこの男」
そう言っていつの間に取られていたのか、兼弘先輩が似顔絵を広げていた。
「親指にやけどの跡があるらしい。知らねえか」
「やけどねえ・・・こんな顔だったかわからねえが親指にやけどした男は見たことはあるぞ」
「そ、それはどこで」
「ガキはせかすな。そうだな、確か賭場じゃなかったかな」
「どこのだ」
「道八会が開いている賭場だよ。忠長もたまに顔を出していたって話だ」




