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捜査

―――――――1626年8月2日 旧徳川家上屋敷 古川成久――――――――

「ほら、早く証拠を集めろ。なりそうにないのもとりあえず持っていけ」

「「「はい」」」

三番隊組長木曽義春殿の掛け声に皆が返事をする。だけど証拠になりそうなものってなんだよ。

「なあ、何かあったか」

「あ、先輩」

箪笥をひっくり返していると後ろから同じ隊の内田兼弘先輩が声をかけてきた。

「何も。だいたい今回は何の捜査をしているのかすらよくわからないですよね」

「いちおう徳川の小姓、永井某を襲った下手人の身元調査と依頼人の特定のためだろ」

「実際のところは依頼をした側じゃなくて依頼を受けた側のほうを知りたいんでしょうか」

「ついでに徳川閥の弱みでも握れれば儲けものってな」

「むしろそっちが本命じゃないですか」

うちの局長は何を考えているかわからないからなあ。

「三河のほうはどこが行っているんですか?」

「一番隊。そりゃうちの組長も張り切るってものさ」

「あの人もまだあきらめてないんですね、次の局長」

「組長が現役の間に局長が隠居するとは思えないけどなぁ」

先輩の言うとおりだな。あの化け物じみた人がそう簡単にくたばるわけがない。

「ちっ、この箪笥は仕掛け付きじゃなかったですね」

「次は畳ひっくり返すぞ」

「はい」

兼弘先輩と一緒に畳をひっくり返し始める。

「三河のほうは大変だろうな。ついこの間改易にあったばかりだ。幕府に対して不満を持っている奴が襲ってきてもおかしくねえ」

「そうですかね。家臣たちの多くは幕府に召し抱えられたのであれば」

「陪臣たちまでは召し抱えられないだろう。それに領民たちも徳川に味方する者が多い」

「おらが藩主様ってことですか。あっちのほうが手柄を上げやすいでしょうけど大変でしょうね」

「そうだな。俺たちは上様の足元で掃除でもさせていただくとするか」

「そうですね。おいっしょっと。ん?」

最後の畳をひっくり返して出てきた床には鍵のかかった扉がついていた。

「先輩、なんかありました」

「あん?お、ほんとだ。お手柄じゃねえか」

「でも鍵がありませんよ」

「そんなもの、こうすりゃあいいんだよ」

そう言って脇差を鞘ごと抜くと、ガンガンたたきつける。

「雑ですねえ。大切な刀を」

「いいんだよ、うまくいけば。よし、壊れた」

「お、開けちゃってください」

「どれどれ、何が出てくるかな・・・お」

「どうですか」

兼弘先輩が取り出したものをこちらに向ける。

「金だぞ。それもかなりの量だ」

「脱税ですね」

改易直後に新撰組で差し押さえられてよかった。もし時間がかかっていたらこの辺りはすぐに隠蔽されていただろう。

「で、この金がどこから出てきたのかだな。年貢や税金をごまかしたか、違法なことをして稼いだ金か」

「このあたりがとっかかりになりそうだな。とりあえず組長の指示を仰がねえと。組長、組長」

兼弘先輩が部屋の外に向かって怒鳴る。そんな呼び方でいいのかな、いちおう上司なのに。


すぐにどたどた音を立てながら組長が姿を現した。

「どうした」

「床下から金が出てきやした。多分脱税ですぜ」

「おぉ、やはり出てきたか。帳簿は一緒になかったか」

「いや、ありませんでしたぜ」

「探し出せ。出所次第では事件の捜査も一気に進むぞ」

「はい」

「ほかのやつらにも発破をかけてこないとな。引き続き頼むぞ」

そう言うとどたどたと音を立てながら組長はどこかに行った。元気な人だな。

「組長は事件捜査を本筋とみておられるのですね」

「だろうな。あの人はちょっと裏まで考えるのは苦手だからな。まあ、だから事件捜査担当の三番隊組長になったんだろうけど」

「本人は反幕府団体監視の一番隊か防諜担当の二番隊がよかったそうですけど」

「出世しやすいからな。さて、さっさと帳簿を探し出すか」

「はい」


しかし数刻ほど捜索したがこれ以上は何も出てこなかった。ほぼすべてを捜索したと考えた義春組長は徳川家上屋敷の捜索の終了し、続きは明日以降とした。

「で、やっぱりあの金だよな。あの金がどこから出てきたか」

そばをすすりながら兼弘先輩が話し始める。

「普通に考えたら年貢をごまかしていたんじゃないですか」

「馬鹿やろう。だとしたらその金は領地にあると考えるのが妥当だろうが。なんでわざわざこっちで管理する必要がある」

確かにそうだな。領地で管理すればよほどのことがない限りばれることはない。なぜ大坂で管理していたのか。

「俺は組長の肩を持つわけじゃねえが、そもそも小姓を襲ったってのが気になる。家光と小姓を間違えるや、仕留め損ねるやあっさり捕まるわ。ずいぶんとお粗末だと思わないか」

「浪人風情に仕事の丁寧さまで求めるのはどうかと」

「あれが表に出なければ徳川も改易されることはなかっただろうにな」

「甲寅会もずいぶん迅速な行動でしたね。上様も驚かれたと評判ですよ」

「これで甲寅会は安泰ってな。局長が肩入れするのもわかるぜ」

「捜査に口出しするようになったらすぐに潰しにかかるでしょうけどね」

甲寅会はそう言うのはあまりない。なのにほかの派閥ときたら。

「結局この事件はどこに落ち着くんだろうな。局長がどこまで考えているかわからないし」

「じつはものすごい陰謀に巻き込まれていたりして」

「そんなわけあるか」

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