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徳川騒動

――――――――1626年4月15日 大坂城 浅井井頼――――――――――

「何とかうまくまとまりそうだな」

「はい」

調長殿が安心したように溜息をつく。バンテンが想像より早く攻めてきたのには焦ったが、陸軍が何とかこらえてくれた。バンテンにはジャガタラを4か月も包囲されていたが、アンボイナ島を占領した利厳中将がすぐに引き返して背後を襲った。同時に要塞の兵も出てきたため挟撃の形になり、バンテン軍は敗走。その後はにらみ合いを続けていたが、当初の予定通り50年間の租借という形で落ち着いた。

「阿蘭陀との戦もあとは残党狩りのようなものです。外務奉行所のほうではすでに講和の準備を進めております」

「そうか。産業奉行所もすでに準備は整っている。内務奉行所も同様だ」

この調子なら講和がまとまった後はすぐに貿易が再開できそうだな。香料の貿易はもうかると聞く。

「英蘭との交渉はどうなった」

「ほぼ纏まりました」

「それはよかった。あれのおかげで二の足を踏んでいた商人たちも動きやすくなるだろう」

「九十九も腕の見せ所ですな。それと直文殿が率いる鴻池屋も」

直文殿は阿蘭陀との戦の前についに独立された。当面は酒と海運で儲けるつもりらしい。長い期間をかけて準備をしていたおかげで出だしは好調。ジャガタラにも進出してくるだろう。

「外に関しては何とかうまくいっています。問題は中ですな」

「朝廷に徳川。ほかにも問題は山積みだ」

朝廷は一条内貞殿という重しがなくなったことでほかの公家がどう動きだすかわからない。内貞殿はそれに対応するために松殿家や同院家などを再興させるなどの策を講じておられたが、それがうまくいくのかはわからない。

「上様も最近は京の方々と頻繁に連絡を取っておられるらしい。朝廷でも何らかの動きがあるかもしれないな」

「不幸中の幸いはその前に幕府中枢を甲寅会が握れたことですね。何とかまとまって行動できる」

「そうだな」

そう言って茶を飲む。


「失礼します。鹿之助様がお越しです」

外から家臣が声をかける。

「鹿之助殿が?」

「はい。火急の要件であると。調長様がお越しということも承知のようです」

「そうか。お連れしてくれ」

「はっ」

調長殿がいることも知っているということはよほど大事な話なのだろうか。

「調長殿、どう思われますか」

「さて。新撰組の立ち位置がよくわからない以上、読めないとしか」

「ですよね」

親しくはしているし、それこそ甲寅会が作られるきっかけとなった人だ。だが必ずしも甲寅会に味方しているとは思えない。こちらを利用しているとしか。

「お連れしました」

「いやあ、ご歓談のところ申し訳ない」

そう言いながら鹿之助殿が入ってくる。

「いえ、かまいませんよ」

「そうですか。そう言っていただけるとありがたい」

「それで要件は?」

「徳川でちょっとした騒動が起きているようでして。一応お伝えしておこうかと」

「徳川で?ついにか」

以前から次期当主の座を巡って家臣や徳川閥の間で小競り合いに近いことが起きていたと聞いている。次男家光と父秀忠の寵愛を受ける三男忠長のどちらにするかという話だった。それがいよいよということか。

「具体的には」

「先月、家光の小姓を浪人が襲いました。幸いにもその小姓はけがをしただけで済みましたが、その浪人は襲う前に家光の名を口にしたと」

「つまり家光を狙った犯行だったということか」

「調長殿、それはまだ何とも。ただそう考えるものは多くいるようです。事件が起きたのはこの大坂であったことで上様は新撰組に捜査を命じました。その矢先につい先日、今度は忠長派の家臣の一人が病死しました」

「この時期にということはそういうことでは」

「はい。当然毒殺が疑われています」

これはまた厄介な。秀忠殿も苦労するだろう。

「浪人の身元を調べれば誰が依頼したのかわかるのでは」

「それがまた厄介で。お二人は浪人が徒党を組んで賭場を開いたり違法な行為を行って金銭を受け取っているという話はご存じで」

「噂には聞いています」

「まともな輩であれば関わることはないはずだが」

「その浪人はその一つの下っ端でした。おそらく上のほうからの指示でやっただけでしょう。ま、この事件はそこまで二人に関係ないのです。我々が犯人を見つければいいだけのことですから。二人にとって重要なのはこれで家光派と忠長派がお互いに攻撃しあうようになったということです」

「このことは上様は」

「これからご報告に上がるつもりです。二人にはまあ、特別に」

「我らに徳川を改易しろと言いたいのか」

「お好きになされればよろしいかと。一応お伝えしておこうと考えただけと申し上げたでしょう」

鹿之助殿は昔から何を考えているかわからないが、今回は余計にわからないな。

「では私はこの辺りで」

そう言うと鹿之助殿はさっさと部屋から出て行かれた。


「なんだったのだ」

「さあ」

しばらく二人で唖然としていたが、調長殿がようやく口を開かれた。

「それでどうする。明言はしなかったが改易を促しているのは間違いないぞ」

「上様がこの後どう判断されるかわかりません。ですがこれほどの事でなくとも改易された例はいくつかあります。改易が妥当かと」

「あれの手のひらで踊れというのか。何を考えておるかわからんぞ」

「上様にご報告していないと言っていましたが、捜査中の情報を流すとは思えません。この情報をこちらに流したのは上様の意思があってのことではないでしょうか」

「つまり上様は徳川を改易したいと。上様には徳川の血が流れているのだぞ」

「だからこそです。身内に甘いと思われないように強気に出る必要があると考えられたのでしょう」

「ふむ、そうか。確かに徳川閥の力が弱まっているとはいえ、徳川が健在ではいつ勢力を取り戻すかわからん。甲寅会としては」

「改易が望ましいでしょう」

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