表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/402

烏帽子親

――――――――――――1543年6月1日 塚崎城――――――――――――

「大友の使者が来た?」

「はい、臼杵鑑続うすきあきつぐが使者として来ています」

「すぐに会おう。評定の間に皆を集め通してくれ」

この間の少弐の事だろうか。戻ってきた康広はどうも知らなかったようだと言ってきた。まぁ、知っていたとしても知らないというだろうけど。


それより臼杵鑑続が来たということはそれなりに大事な話なのだろう。なにせ鑑続は現代でいうところの外交官のような役割を担っていた大友家の中でも重臣中の重臣だ。最近だと現当主大友義鑑おおともよしあきの肥後守護補任にも関わっていたはずだ。それともそれだけ大事にしているというアピールだろうか。何にせよ、大友がうちを気遣ってくれているのは間違いないはずだ。この機会に大友と宗の関係をより良好にして宗が少弐を滅ぼしても攻め込まれないようにしなければ。


今、宗は領地を拡大することは難しい。肥前の西側を支配したことでこれ以上西には進めなくなった。南にある天草郡の国人は相良氏に従っている。相良はそれなりに大きい勢力だから有馬同様、背後の心配をしないでいい状態で向かいたい。だがあと2年ほどで少弐が割れるはずだ。史実とは違う流れになってきているとはいえこちらから仲違いさせようとしているから数年で割れるだろう。それが相良攻めの時に起こったら面倒だ。かといって東は論外。今少弐を攻めれば大友と争うことになる。少弐と大友が組めば100万石は越えるだろう。対して宗は検地をしていないがだいたい15~20万石。絶対に勝てるはずがないな。しっかり大友との関係づくりを頑張らせてもらうとしよう。そうだ、有田焼をプレゼントしよう。帝ご愛用の品と知れば大喜びだろう。


あれは帝にも喜んでいただいたから毎年新年のあいさつとして椎茸などと一緒に贈っている。今度の正月は中国のものも贈らせてもらおう。


――――――――――――同日 評定の間 臼杵鑑続―――――――――――――

「お初にお目にかかります。大友義鑑が家臣、臼杵鑑続にございます」

「宗熊太郎だ。面を上げられよ」

「はっ」

熊太郎殿に言われて顔を上げる。若いな、確か若様の一つ年下だったはずだ。それがわずか5年ほどで肥前最大の勢力となった。同盟者として頼もしいと御屋形様は言っておられたが若様が不機嫌そうな顔をしていたことが気になる。もしかするとまわりから比べられているのかもしれんな。


「まずはこたびの肥後守護の補任、お慶び申し上げる」

「ありがとうございまする。帰りましたら御屋形様にお伝えいたします」

「よろしく良しなにお伝えくだされ。ところで此度は義鑑殿の懐刀言うべき鑑続殿がなにようかな」

御世辞を言うことができる。この年にしてはかなり大人びているというか見た目と年が中身に合わないというか。存在自体が不自然な方であるな。


「御屋形様は宗家と少弐家の仲が悪いという噂を聞き非常にお心を痛めておられます。ここは同盟の強化として三者の間で婚姻を結びたいとのことです」

「婚姻・・・それはどのような形に?」

「少弐殿から大友に嫁あるいは婿を出し、大友から宗殿に嫁あるいは婿を出し、宗殿から少弐殿に嫁あるいは婿を出していただくという形にしたいと考えております」

「なるほど。しかし宗には適当な娘も息子もおりませんぞ。私はまだ元服前であるし弟の熊次郎はまだ6歳だ。父上もなくなったから養子というのは妙な話であるし」

しっかりと考えている。やはり傀儡ではないな。若様もこれくらいしっかりしてくださればよいのだが。


「宗殿は今年で13歳になると聞いております。そろそろ元服してもおかしくはないでしょう。御屋形様もぜひ烏帽子親をしたいと言われていました」

「烏帽子親を。確かにそろそろ元服しないといけないとは思っていましたが諱は決まっていて烏帽子親を誰にしてもらうか悩んでいたところでしてな。その提案は渡りに船です」

「では」

「しかし少弐殿に熊次郎に合う女子は居ましたかな。宗家本家のもので結婚できるのは熊次郎ぐらいしかいないが」

「それは時機を見てと」

「左様で」

これは宗にとってはうれしいことだろう。大友が宗の方を重視してると思っているはずだ。養子とはいえ縁続きになる。それに烏帽子親をするということは実の親子となるも同然。大友と宗は二重に縁を結ぶことになる。これで少弐から侮られることはないはずだ。


「そうだ、塩市丸殿が元服なさる時は私が烏帽子親になりましょう。そして熊次郎が元服するときは少弐殿が烏帽子親となり少弐殿の子息が元服するときは大友殿と共同で烏帽子親をするのはどうだろうか」

「そ、それについては某からは何とも言えませぬ」

「左様か。ではそのことを大友殿に伝えていてくれ」

「はっ」

くそ、うまくいかなかったか。今回の提案には裏があったがそれを見抜いたということか。油断ならないな。


御屋形様が烏帽子親となれば大友と宗の関係は大友のほうが上となるだろう。少弐にも同様の提案をして対等な同盟から被官に変えようとしたのだが先ほどの提案ではあまり立場は変わらない。せいぜい少弐と多少距離を置く形になるだけだ。狙ってそのような提案をしてきたのか偶然か。いずれにせよ失敗したのには変わりない。


「元服はいつ頃にする予定かな」

「9月ごろに高良大社にて執り行いたいと考えております。その1年後に婚姻の方を」

「相分かった。ところで誰がこちらに嫁がれるのかな。たしか大友殿の子には私と同じ年の者はいなかったと記憶しているが」

戸次鑑連へつぎあきつら殿の娘、政千代殿にございます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ