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阿蘭陀戦争

――――――――1623年4月15日 大坂城 浅井井頼――――――――――

「皆、面を上げよ」

「「「はっ」」」

上様に促されて皆が顔を上げる。顔がこわばっているように見えるな。最近評定に参加するようになった木俣水軍次官や吉岡総務次官が上様をチラチラ見ては顔をそらしている。どうやらよほど恐ろしい顔をしているようだな。私はもう見る勇気もない。

「さて、わかるな」

「阿蘭陀が起こした事件のことですな」

上様の問いかけに康理首席補佐官がすぐに答える。いい歳なのに相変わらずだな。ぼちぼち隠居なんて言っていたけど、あの人の後任は大変だろうな。

「そうだ。その事件で日本人が10人も殺された。大半は九十九の傭兵だったが、情報本部のものが二人いた」

情報本部はそこにも手を広げていたのか。情報はありがたいが、いったいどこまで手を広げているのか気になる。この間も暹羅の情報を確認した楢崎南海局長がしきりに首をかしげていた。明らかに高官でないと手に入らないような情報があると。

「問題なのはこれが情報本部の者がいると判断して殺したのか、そうとは知らずに殺したか。これがわからないことだ。前者であればこちらの情報網がばれている可能性がある。後者であれば英蘭を排除することが目的で、日本人が殺されたのはついでや物の弾みだったということになる」

「情報本部としましては、前者の可能性は低いと思われます。すでにその事件が起きてから警戒するよう現地管理官が指示を出しましたが、怪しまれているそぶりはないとのことです」

頼政殿が自信のあるしっかりとした声で答える。

「阿蘭陀の代表は英蘭嫌いで知られた男です。以前からオランダによる香料の貿易独占を主張していました。今回の事件の目的は英蘭の排除、この一点でしょう」

「だとしたら明らかになめられている。日本は文句を言わないとな。どういう関係を築けばこうなるのだ」

「申し訳ございません」

そう言って信之殿が頭を下げる。私たち次官も同時に頭を下げる。

「責任をとって私は奉行を辞任したく」

「そのあたりは後で決める。それよりこれからだ」

「それに関しましては私から」

信之殿は辞職されるから今後の対応に関しては私が責任を持ってやらねばならなくなった。誰か代わってほしい。

「すぐに使者を派遣し、謝罪と賠償を求めます。それが断られた場合は戦を」

「何を言われるか。戦など」

説明をしていると長政陸軍奉行が声を上げた。またか。この間の政変の際は旗本閥に乗り換えて何とか奉行のままでいられたのに、まだ何か言うか。

「現状の陸軍では制圧は可能ですが、維持に不安が残ります。阿蘭陀はもちろん、周辺の諸勢力がどう動くかわかりません。また海南諸島とは比べ物にならないほど、兵站維持に苦労するのは明白。そもそも先に使者を出しては相手に準備をする時間を与えるようなもの」

「井頼、周辺の諸勢力はどう動くとみている」

「おそらく、当初は様子見に徹するでしょう。多くのものが阿蘭陀に対して不満を持っていますが、武力で劣っているため何もできていないのが現状です。日本が阿蘭陀の支配する土地をそのまま己のものにすれば、オランダに向かっていた反感がこちらに向く可能性があります。また、もう一人の当事者であるイングランドですが、按針の話ではこれを機に各地から手を引く可能性が高いとのことです」

「馬鹿な。香料貿易は南蛮に莫大な利益をもたらしている。そう簡単に諦めるわけが」

思わずというように智保産業次官が声を上げる。あれ、調長殿が説明していなかったのかな。まさかここで次期奉行争いに差をつけようと考えているのだろうか

「英蘭は天竺に力を入れ始めているようです。一度手を引けばその間に阿蘭陀の支配が盤石なものになるのは明らかです。そうなる前に阿蘭陀を追い出すのです」

「井頼の話は分かった」

「上様、自分は内務奉行として反対いたします」

三成殿が?まずいな、旗本閥は反対か。もう少し時間があれば説得もできただろうに。

「このようなことをする輩が謝罪と賠償などするわけもございません。さらに現在、高山国や蝦夷地・海南諸島の開発を並行して進めております。これらは基本的に直轄地でございますので内務奉行所が中心となって行っていますが、これ以上の土地を開発すれば資源も人も払底し、かえって日本の発展を阻害するものと考えます」

「財務奉行所も反対にございます」

「良通もか」

「はい。幕府の銭は大量にありますが、無限にあるわけではございません。このまま続けていけば近い将来、財政が危機的状況に陥りますぞ。どうか外交のみで決着をつけていただきたい」

「貿易を管轄する産業奉行所としては今回の事件で二の足を踏む商人たちに」

「黙れ、調長。商人が儲けても幕府に銭がなければ意味がないわっ」

調長殿が産業奉行所としての意見を言おうとするが良通殿に一括される。

「上様。どうか、どうかご賢慮を」

そう言って良通殿と三成殿が頭を下げる。大半の譜代閥や旗本閥も頭を下げた。まずい、このままでは。

「上様」

「…良通、我らはなんだ」

「は?」

「我らは武士だ。圧倒的な武力によってこの国を治める武士だ。ゆえに我らが舐められるということは圧倒的な武力を否定し、我らの統治を否定するも同然。国家安康を次につなぐには我らは、幕府は、惟宗はなめられてはならない」

「しかし」

「銭がないなら儲ける手段を考えろ、人が足りないなら探して召し抱えろ、資源がないなら代わりの資源を探せ。そうやって惟宗は天下をとったのだ。阿蘭陀との戦を臆するなど言語道断」

そう言って上様は立ち上がり皆をにらみつける。

「戦だっ」

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