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ヌルハチ

――――――――1622年5月30日 遼陽城 ホンタイジ―――――――――

「次は朝鮮を潰すぞ」

父上の部屋に入るとすぐに、父上が不機嫌そうな顔で言った。国王が変わったことでこちらになびくかと思って様子を見ていたが、その真逆の行動をとり始めたのが不愉快なのだろう。

「わかりました。すぐに準備させましょう」

「総大将はお前がやれ。俺はこのまま遼東の攻略を進める」

「はい」

朝鮮はおまけか。まあ、父上のこれまでの言動を考えれば当たり前か。むしろこのまでくれば無視する可能性が高いと思っていたんだがな。

「いちおう理由をお伺いしてもよろしいですか」

「毛文龍がそろそろうっとうしくなってきた。日本との交易をするうえでもあれと朝鮮は邪魔だ。これまで通り中立でいれば見逃してやったのだがな」

「馬鹿が国王になりましたので、仕方ないでしょう」

むしろそこそこ優秀な国王を引きずりおろしてくれたと感謝したいぐらいだな。

「熊廷弼が再任したときは面倒なことになると思ったが、奴の部下が馬鹿ばかりで助かった。が、敵に助けられてばかりでもつまらん。それにここを落とした時にも見ただろう」

「南蛮の物と思われる武器ですね」

「数が少ないせいで戦では大した役に立たなかったようだが、明が数をそろえると面倒くせえ。何せ俺はあの武器をどう使うのかはよく知らん。日本からの情報ではそれが寧遠城に多数あるらしい。いつもながらどこから調べたか知らねえが、これまでの正確さを考えればまず、間違いないだろう」

「それが日本との交易を急ぐ理由ですか」

「モンゴルもどう動くかわからないしな。味方は多いに限る」

そうは言っているが、まだ顔は不機嫌だな。

「なにより女真族を蛮族と下に見ているところが気に食わない。何が違う。明に従えば蛮族ではなく、明に歯向かえば蛮族か。冗談じゃない。あのような強者に従うしか能がない馬鹿どもに下に見られたままなど我慢できるか」

「では朝鮮は降伏させずに攻め滅ぼしますか」

「いや、それだとつまらんな」

そこでようやくにやりと嗜虐的な笑われる。

「どうせならそのまま朝鮮を治めさせよう。せっかく前の国王を追放してまで手に入れた地位なのだ。たった1年で失うのは惜しかろう」

「ではそのまま国王と認めるのですか」

「ああ。歯向かう輩は金が潰してやろう。ただし俺に三跪九叩頭をさせる」

国のためと言って国王を追放した男が蛮族に敗れ、三跪九叩頭をする。民には己の命惜しさにしたのだ思われ、家臣たちも国王を軽蔑するだろう。そんな状況で国を治めなければならない。まさに生き恥と言ったところか。それに三跪九叩頭は天に対して行うもの。朝鮮が金を天と認めるということになる。何ともわかりやすい。

「しかし遼東の攻略と同時進行となりますと、兵は限られます。再度、日本に援軍を要請しますか」

「いや、いい。前はここを落とす前だったから要請したまでだ。交易をする前にこれ以上の借りを作りたくない。落とせるだろうな」

「当たり前です」

多少、兵が少ないぐらいで負けるような間抜けではないつもりだ。

「降伏させた後は、日本との交易をまとめてから戻ってこい。どうせ前の国王をかつごうとする輩が一人ぐらいいるだろうしな」

「はっ。ところで、これから日本とはどういう関係を作るおつもりで」

これだけは確認しておかないと。

「過度な干渉はしないさせない。あくまでただの交易相手だ」

「では朝貢をさせる気はないと」

「朝鮮みたいに陸続きならともかくな、日本とは間に海がある。朝鮮のように攻めるのは難しいだろう。ただ日本側の意思が読めない」

「と言いますと」

「日本は金に何を期待しているのか。明と同じようなものを期待しているのか、中華を混乱させることを望んでいるのか」

「父上はどこを目指されているので」

そういえばあまり聞いたことはなかったな。

「さあな。あまり考えたことなかったが、明に対抗できるだけの力を手にすることじゃないか」

「中華を手に入れる気はないのですか」

「さすがに無理だろう。毛文龍の調略に乗った漢人の相手ですら面倒なんだ。これ以上を抱え込むのは難しいだろう」

「そうですか」

「そのあたりのことも日本に探りを入れておけ。奴らをしっかり利用するには考えを理解しておかないといかん」

「かしこまりました。では私は準備を整えます」

そういって一礼して部屋から出る。


もったいないな。このまま攻め続ければ明を滅ぼして中華を支配することができるだろうに。日本もずっと支援してくるとは限らない。支援を受けている間に明を滅ぼし、金が中華の支配者になる。そうでもしないと明は必ず力をつけてこちらを攻め滅ぼそうとしてくる。俺が王なら滅ぼすと断言するのに。俺なら明を滅ぼせるのに。

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