援軍
―――――――1620年8月30日 大坂城 惟宗長康―――――――――――
「援軍か」
「はい。それも金と文萊からです」
「面倒な話だな」
井頼の報告に顔をしかめる。ほかの奉行・次官も似たような表情だ。
「まずは金のほうから事情を聴こう。そもそも援助は物資の支援ぐらいのはずだっただろう」
「金は蒙古や朝鮮の中立化により、まともに交易ができていません。日本からの支援と言っても湊もろくにない状態では数が限られます。そこで金は朝鮮を攻めることにしたようです」
「明に背後を突かれる可能性はないのか」
「それについては陸軍奉行所から」
三成の疑問に佐須盛智陸軍次官が声を上げる。奉行の長政は不満そうに顔をしかめているが、盛智はそれを気にする様子もなく説明を続ける。
「金は3月に瀋陽を落とし、遼陽から出てきた袁応泰が率いる5万の兵を退けました。また、万暦帝が死んだことで明は当分まともに動けない可能性が高いです。朝鮮攻めぐらいの時間はあるでしょう」
「しかし次の皇帝はそこそこ優秀らしいではないか。大丈夫なのか」
「それは問題ない。すでに対応させている」
俺の言葉に皆が頼政をちらっと見た。まあ、あっているからいいんだが。
次の皇帝には皇太子の常洛が即位する。しかし常洛は万暦帝と比べて優秀で日本嫌いなところがあるらしい。朝鮮との戦や朝貢なしの貿易に対して不満があるようだ。さらに常洛は財政改善のために日本に強気の姿勢を示そうとしていると情報本部から報告があった。常洛の即位は日本にとって悪い影響を与えるとしか考えられない。それで明の反常洛勢力をそそのかして暗殺することにした。その次の皇帝には常洛の子、由校が即位すると考えられる。幼いうえに祖父の万暦帝に似て政に興味がなく、趣味に没頭しているらしい。これならば当分は貿易に力を入れることができるだろう。
「それより金の朝鮮攻めだが、成功するのか。失敗しそうならば参加しないが」
「成功するでしょう。朝鮮は大した軍事力を持っていませんし、その軍事力も日本を警戒して南部に集中しています。もちろんこれは金を刺激したくないという考えもあるかと思いますが済州島をとられたことによる脅威の拡大というのもあります。そんな国が勢いのある金に勝つことは無理でしょう」
「付け加えますと、光海君の外交姿勢は朝鮮国内では不評です。内政でも改革に対して不満を持っている勢力がいます。いざという時に一つになって戦うというのは難しいでしょう」
盛智の言葉に井頼が外務奉行所としての意見を付け加える。勝算は高いか。
「成功する可能性は高いが、あまり唐土に直接かかわりたくはないな。泥沼にはまりそうだ」
唐土は広い。それがどうしてもかかわるのに躊躇させる。
「日本がかかわらなくても勝てるだろう。これまで通り物資の支援にとどめよう。それでいいな」
そういって皆を見渡す。反対する者はいないな。
「では次だな。文萊のほうは」
「はい。文萊は現在、イスパニアの侵略が進んでいます。すでに領地の半分近くを奪われました」
「イスパニアがそこを侵略する理由はなんだ」
「おそらくは海南諸島に代わる拠点の獲得のためと思われます。文萊は昔、唐土と貿易を行っていました。イスパニアはその文萊を支配して唐土との貿易を行いたいと考えているようです」
イスパニアもあきらめが悪い。まあ、唐土の品で日本が儲けているのを見たら自分たちもと考えてもおかしくはないが。
「以前も似たような話は合ったのですが、その時は見送りました。しかし前回に比べてイスパニアが攻勢を強めており、このままでは以前の海南諸島のようになる可能性が高いと思われます。文萊は朝貢もするとまで言っています」
「そこまで追い込まれているのか。陸軍奉行所、文萊がイスパニアに負けた場合、国防上の問題は」
「琉球や高山国、海南諸島の守りを強化する必要はあるでしょう。特に海南諸島は当分の間、内と外の脅威に備えなければならなくなります」
「水軍奉行所」
「すぐには問題とならないでしょうが、長期的にみると海上の脅威は確実に増すでしょう。しかし文萊の朝貢を受けても阿蘭陀や英蘭の拠点が近くなるので、どちらにしても水軍の強化は必要になるかと」
水軍の強化は必要か。これは水軍奉行所が事あるごとに言っていることだからどこまで本当かわからないが。
「産業奉行所、文萊との貿易はどうなっている」
「微々たるものです。おそらく日本に朝貢してきたとしても大した利益にはならないでしょう。しかしイスパニアが文萊を手に入れた場合、唐土との貿易に影響が出る可能性は少なからずあります」
「外務奉行所はどう考えている」
「和睦はまとまったとはいえ、一度敵対した国とは交渉が難しいでしょう。旧領の奪還を考えていたとしてもおかしくありません。交渉をするという点では文萊のほうがよいかと」
甲寅会がほぼほぼ抑えている外務奉行所と譜代閥の貞信総務奉行が賛成ということは根回しはすでに済ませていたか。
「反乱もようやく終結が見えてきた。そろそろ軍を他に動かしても問題ないな」
「はっ。反乱鎮圧に必要な人員は当初の半分以下で問題ないかと」
「わかった。文萊には援軍を送ろう。ただし表向きは九十九の傭兵という形でだ」




