失脚
―――――――1619年10月15日 大坂城 惟宗長康――――――――――
「これで徳川・九州閥もおとなしくなるだろう。ご苦労だった」
「「はっ」」
俺の言葉に頼政と鹿之助が頭を下げる。
「しかしこれほど容易に事が進むとは思わなかったな。さすが情報本部と言ったところか」
「ありがとうございます」
甲寅会はすぐに徳川・九州閥を評定から排除するために動き出した。まずは最上の改易とその処理を正純と広門にさせた。もともと最上は徳川閥寄りの大名だった。大名の改易には否定的な徳川・九州閥に徳川閥寄りの大名を処分させる。そうすることで信用を失わせ、不在をいいことに一気に次官や局長の隠居を決定。さらに新撰組が強制捜査を行い、謀反や不正などを理由に逮捕した。本多・筑紫は嫡男、熊太郎の暗殺を計画したとして改易。ほかの者も隠居などで政にかかわることはできなくなった。
「しかしよく証拠の偽造に成功したな。熊太郎暗殺など、よほどの証拠がない限り逮捕はできないだろうに」
「いちおう情報本部でも各大名に手の者を入れています。政への影響を少なくするために迅速に行いたいとのことでしたので」
「あれだけの証拠があれば新撰組としましても楽に検挙できます。徳川・九州閥も力を失うでしょう」
甲寅会を含めたほとんどの者は知らないが、今回の件で検挙された者のほぼ全員は完全にでたらめな罪で検挙された。証拠は情報本部が偽装し、各大名屋敷などに隠した。火ぶたを切った最上騒動だって下準備を終えたところで情報本部が最上家臣に密告をさせて、その情報を新撰組が甲寅会に流した。今回の騒動を操作していたのは俺だ。
「譜代、旗本閥はどうしている。何か不満を持っている様子はなかったか」
「現状では見当たりません。甲寅会だけで主要な地位を独占しなかったからでしょう」
「新撰組も同様の見解です。ただしこれが長く続くとは思えません。いずれはどこかの派閥が何かしらの行動に出るでしょう」
「そうか。新撰組は今回の件で処分された者たちが何らかの行動を起こさないか監視しろ。それから譜代・旗本の監視も強化だ。これからは甲寅会・譜代・旗本の派閥争いが起こる可能性が高いとみなして行動してくれ。頼政はもう少し聞きたいことがあるから残れ」
「かしこまりました」
「はっ」
そういうと鹿之助が一礼して部屋から出る。
「新撰組の事、どう思う」
「どうとおっしゃいますと」
頼政は珍しく怪訝そうな顔をする。
「新撰組は俺のために動いているか。それとも甲寅会のためか」
「それはもちろん、上様のために動いているかと。情報本部の者が入っていますので、不穏な動きがあればすぐに知らせがあります。ご安心を」
「そうか。ならばいい。それで阿蘭陀がジャガタラを占領した件だが、詳しいことはわかってきたか」
「はっ。もともとジャガタラは周辺海域から商人が集まる非常に栄えた湊です。そこに阿蘭陀が要塞を築きました。阿蘭陀側の主張ではこの土地を貿易のために租借、つまり借りたのだということでしたが、バンテン側はこれを否定しています」
「目的はなんだ」
「おそらく阿蘭陀はこの地を足掛かりに周辺の島々を制圧し、南蛮で非常に高い値で取引されている胡椒など独占することを目的としているものと思われます」
「しかし阿蘭陀は株式会社がバンテンやパレンバンがあるだろう。すでに独占できる状態なのではないか」
「英蘭とバンテンが急速に接近しています。もともと阿蘭陀はバンテンに警戒されて思うように交易上の成果を上げていません。そこに英蘭という新たな脅威が出てきたことで焦りが出たのでしょう。イスパニアもブルネイを中心に新たな拠点を築こうとしています」
このままでは他国に手柄をとられかねないと見たか。
「その者たちが胡椒などに飽き足らず、唐土の品まで狙おうとは考えていなさそうか」
「何とも言えません。今は香辛料の取り合いになっていますが、じきに決着がつくでしょう。その時に勝者敗者問わず次の利益を求めるのは必然かと。それが唐土の者になるかはわかりかねます」
「そうか。英蘭がバンテンに近づいていると言っていたが、具体的な行動に出る可能性は」
「近々、バンテンと協力してジャガタラを攻めるという話が出ています。ですが阿蘭陀はかなり強固な要塞を築いています。そう簡単には」
要塞か。阿蘭陀ふくめ南蛮が攻めてこない根拠として拠点がないということだったが、これで攻めることも可能なのではないだろうか。もちろん、戦力差を考えれば余裕をもって勝てるだろう。しかしそれでもこれから先どうなるかわからない。万が一、南方の島々のほとんどを一つの国が支配下に置けばそれは脅威となるだろう。阿蘭陀がそうならないとも限らない。
「唐土の情報収集も大変だろうが、そちらのほうの情報収集も強化してくれ。予算のほうは俺から話をつけておく」
「はっ」
「特に戦が起こる可能性があれば大小関わらずすぐに知らせよ。南蛮同士でも現地の国同士の争いでもだ」
「かしこまりました」




