親族衆
――――――――1619年5月9日 大坂城 惟宗長康―――――――――――
「そうか。叔父上も隠居か。もっと現役として働いてほしかったのだが」
「もうすぐで60です。父上の年齢も超えましたし、そろそろ長頼に譲ってもいいだろうと。内貞もすでに兼藤に藩主を譲っていますし」
そういいながら貞親叔父上が茶をすする。また一人、乱世を知る人が現場から身を引くのか。
「叔父上方には父上に代わって私の行く末を見ていてほしかったな」
「隠居したところで親族衆なのには変わりございません。息抜きの雑談程度でございましたらいつでもお呼びください」
「隠居したらどうするのだ」
「どうしますかね。内貞はずっと京にいたから日本中をめぐってみたいと言っていましたが、私は陸軍軍人としていろんなところをめぐりましたからな。ゆっくり将棋や囲碁でもしますかな」
「内貞叔父上はもう少し頑張ってもらう必要があるから、もう少し先になるだろう」
「あいつの残念がる表情が目に浮かびますな」
そういって二人して笑う。
「ところで、最近は皆が少し騒がしいですな」
「唐土政策のことか」
「はい。今日もここに来る前に陸軍奉行所の者から上様に明支援をするよう説得してほしいといわれました。たかが一将校に何を期待しているのやら」
「大将にもなってたかが一将校ではないだろう。それに親族衆でもある。陸軍奉行所としては使いたい人脈だ」
「陸軍奉行所というよりは柳生宗矩中将のことが気に食わないという輩です。ああいう者がのさばる間は水軍に吸収されるのではないかと恐れ続けるのでしょうな」
「ははは、手厳しいな」
「それで、どうされるおつもりですか」
貞親叔父上はそういいながら持っていた茶碗を置く。
「まさかとは思いますが当分の間は金・明を争わせて、双方が弱体化したところを唐土を攻めるおつもりなのでは」
「それはないよ。唐土は治めるべき人も土地も多すぎる。まともに治めることはできないだろう」
「ではどちらを支援されるおつもりで」
「叔父上はどちらが良いと考えている」
「金でしょうな」
意外だな。叔父上は九州閥に近いし、陸軍の大半も明支援で働きかけている。
「戦で明が負けたのが大きいでしょうな。一度だけとはいえ、明の弱体化を唐土中に示しました。これから足元から崩れていくでしょう。民に後ろから刺されないか不安になりながら戦う軍と、そうでない軍。どちらが勝つか明白でしょう」
「陸軍奉行所の大半はそう思っていないようだが」
「所詮は戦地に赴かない輩が多いですので。それで上様はどのように」
「金を支援しようと考えている」
「それは派閥争いの結果としてそういう結論に至ったのでしょうか。それとも上様のご決断で」
「もちろん後者だ。金を支援するというのはもとより決めていたこと」
明と交渉するより女真族統一以前から支援していた金と交渉したほうがこちらに有利な条件を引き出せそうだと情報本部などからの情報で判断した。
「ではなぜさっさと決断を下し、それに向けて行動されないのでしょうか」
「最近は派閥でまとまるようになった。別にそれは政策の質向上などの面でよいところもあるので構わないのだが、徳川閥と九州閥が政策立案遂行のためではなく出世や己の利益だけにまとまっているように見える」
「それの排除のために利用されると」
「もとより甲寅会はそういう利己的な輩を排除し、まともな者たちで政を行うために作らせた」
派閥があろうとなかろうと利己的な輩はどこにでもいる。そういう輩はだいたい群れるのだ。排除するにはまともなほうも纏まる必要がある。そして正統性をあたえるのが将軍だ。
「では徳川閥・九州閥を粛清すると」
「粛清とまではいわないが、それなりの地位にいるものは議論を長引かせ、混乱させた責任をとる必要があるだろう」
「それを続ければ将軍の権力というのは落ちて派閥が政を動かすことになりませぬか」
「父上の時までは将軍がどんどん政を行った。しかしこれからはより細かいところまでしていかないといけない。海南諸島のように新たな領地を手に入れることもある。しかしそこまで将軍がかかわるのは現実的ではない。ある程度は奉行や次官が指示を出す。それに正統性を与え、この国の方向性を示すのが将軍の仕事になるだろう」
本当は父上や祖父様のように政の先頭に立っていろんなことをしてみたい。だが状況が違う。それに才能も俺は二人に劣っている。父上たちのようにしては国が混乱するだろう。それでも父上たちのような手柄や功績を上げたい、幕府を俺の代で潰すようなことはしたくない。そのためにはこうするしかないんだ。
「そこまでお考えでしたら私から言うことはありません」
「そうか。これから徳川閥・九州閥は弱体化する。その時に大友は九州閥にかつがれる可能性がある。ほかの派閥も似たようなことをするだろう。その時は協力して派閥の統制に力を尽くしてほしい」
「かしこまりました」
そういって貞親叔父上は一口茶を飲んだ。
「しかし今はそれでよろしいかと思いますが、将軍に嫡子がいないときに派閥による将軍争いが起きる可能性がございます。早めに対策を打つべきかと」
「そうだな。家督継承の順位付けはしないとな。すぐに検討させよう」




