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犬猿の仲

――――――1618年10月15日 函館蝦夷地支局 柳生利厳―――――――

「まだまとまらんのかっ」

部下が持ってきた報告書を破りながら叫ぶ。あいつら、どれだけごねるつもりだ。

「師団長」

「あん、なんだ」

「憲兵司令官が来ていますが」

「ちっ。お通ししろ」

おずおずした態度で部下がさがる。その態度にも内容にも腹が立つ。事前に知らせは来ていたがなんであいつがここに来るんだ。

「入るぞ」

そういうとこちらが何か言う前にずかずかと宗矩が入ってきた。相変わらず図々しい態度だな。

「久しいな」

「できれば会いたくなかったですよ、叔父上」

「なんだ。まだ根に持っているのか」

「当たり前です。妹の再婚先を勝手に決められたのですから」

「しつこいやつだ」

「それで今日はどのような御用で」

「お前でも少し考えればわかるだろう」

そういいながら進めてもいないのにその辺にあった椅子に座る。

「上様はアイヌの反乱の鎮圧に時間がかかっていることにいら立っておられる。蒲端に兵を送るにも唐土の情勢上、九州軍が動かせないせいで時間がかかっている。せめてアイヌだけでもさっさと鎮圧しろとのご意向だ」

「それが憲兵司令官が来る理由になるとは思えませんが」

「上層部が上様のお怒りを恐れて鎮圧が遅れているのは現場のお前たちに原因があるとするつもりらしい」

「はあ!?こっちだって苦労しながら鎮圧しているのですよ。むしろ約束した兵站を送ってこない参謀本部に問題があるでしょう」

こっちだってやれることはすべてやっているんだ。実際に占領された土地はすべて取り戻した。

「上は蝦夷地の広さや奥州の現状を分かっていない。奥州で兵糧を調達するだと。奥州は万年不作のような土地ですよ。奥州の大名が謀反を起こした際に備えるとして、第16師団を使わずに第15師団だけで対応すると決めたのは参謀本部だろうが。それをこちらのせいにされるのは」

「実際にそうなのかは問題ではない。上層部がどう考えるかだ。それに上層部でもそれなりの権力争いがある。水軍主導の統合を恐れてもいる」

「それで責任をこっちに押し付けて乗り切ろうってことですか」

「そういうことだ。このままでは師団長のお前の責任にされるぞ」

冗談じゃない。こんなところで潰されてたまるか。いや、待て。

「それと憲兵司令官が来た理由は別でしょう。現場の責任にしたいなら軍務局から監察が来るはず」

「あぁ、今回の件を利用してうちが分捕った。今回の件で人事院に軍の監察まで取られそうだったからな。よそに取られるぐらいなら憲兵がとったほうがいいだろう」

「叔父上も今回の件を利用したってわけで」

「言っておくが、ここに来るつもりはなかったんだ。俺の顔なんて見たくなかっただろう。だがお前が躓けば俺にも被害が出る可能性がある」

「どこまでも自分のためだと」

「甲寅会が幕府の中心になって上様を助ける。それに必要なことだ。そのためにお前を師団長にしたんだぞ」

「それで俺が恩義を感じると?人には好き嫌いがあるということを学んだほうがよろしいのでは」

「甲寅会の影響力を分かりやすく示すためだ。お前の力などあてにはしていない」

いつもそうだ。俺のことなど見えてないのだ。

「それでどうするつもりですか。早急に鎮圧せよと命じに来たのですか」

「そのつもりだったのだがな、こっちの憲兵隊から報告を受けた。和睦をしようとしているらしいな」

ちっ、あいつらめ。余計なことを言いやがって。

「降伏交渉と言ってください。冬になればどちらにとっても良い結果は生みません。無駄な犠牲を部下たちに強いる気はない」

「上様のご意向は幕敵を潰すことだ。降伏など認められるわけがないだろう」

「叔父上や幕府上層部は蝦夷地の冬の恐ろしさを知らないから言えるのです。アイヌなしにこの蝦夷地開拓は不可能。協力しているアイヌたちに対して幕府は信頼できると見せるためにも、慈悲のある選択肢を提示してやるべきだ」

「それでは幕府が舐められる。そしてほかの奉行所や水軍に陸軍が舐められる。お前は陸軍のことも考えて・・・まあいい。お前たちのせいにされたくなかったら俺の指示を聞け。そうすればお前はそれなりの評価を得ることができる」

「はん、冗談でも聞きたくないですね」

「だったらすぐに幕命違反でお前を逮捕して俺が師団長代理として指揮するまでだ。許可は得ている。さあ、どっちがいい」

「できるものならしてみなさい」

「言っておくがお前だけにとどまるとでも思うなよ。少なくとも連隊長以上の者たちにも処分が下るだろう。それもいいんだな」

「・・・私にどうしろと」

俺の言葉に宗矩が満足そうにうなずく。

「和睦交渉はすすめろ。そしてある程度まとまったところで反乱軍の主要な者たちを集めて宴会を行う」

「まさか」

「そこで来た者たちを皆殺しにする。後は指揮する者がいないところを叩き潰す」

「卑怯ですな」

「大局を見ろ。最低限の犠牲で収めるにはこれが一番だ」

「俺のこれからの信用というものにもかかわってきます。そうじゃなくても幕府に対するアイヌの感情を理解するべきだ」

「お前の信用など取るに足らん。幕府は法と武力によって日本を治めているのだぞ。幕府の武力たる我々がそのようなぬるいことを言うな」

「ちっ。わかりましたよ。すぐに手配します」

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