反乱
――――――――1618年2月30日 大坂城 浅井井頼―――――――――
「失礼します」
「おお、来たか。ま、茶でも飲め」
妙なまでに上機嫌な上様に促されて一口、茶を飲む。これはまた、いいものを使っているな。
「今日はいかがされましたか。外務奉行所としてでしたら奉行もいたほうがよろしいと思うのですが」
「いやいや、そんなつまらんことではない。ついにできたぞ」
「できた?」
「初が妊娠したそうだ」
「それは、おめでとうございまする」
「そなたも初孫だ。楽しみだろう」
ついにできたか。そろそろできないと次の側室がという話も出てきかねなかったし、そろそろ孫の顔を見てみたいと思っていたんだ。
「男かな、女かな。どちらでも楽しみだな」
「左様でございますな」
これほど機嫌のいい上様は見たことがないな。今なら普段はあまり興味を持っておられない唐土の話をしても行けるのではないか。
「失礼します。頼政殿より火急の知らせが」
部屋の外から康理殿が声をかけて、手紙を差し出す。上様はその手紙を広げて読み始めると、目に見えて機嫌が悪くなる。
「いかがされましたか」
「国防会議を開かねばならなくなった。すぐに準備をせよ」
「は、はっ。かしこまりました」
いったい何が。
半刻後、評定の間に奉行・次官・陸水軍参謀総長、次長が集められた。上座には上様がいら立ったように座っている。
「アイヌのメナシクルが反乱を起こした。さらに呂宋でマギンダナオの王族の生き残りも反乱を起こした」
上様の言葉に皆がざわめく。ここ最近の戦はこちらから仕掛けたものばかりだ。さらに言えば天領内での反乱など、本願寺がそそのかして一揆をおこさせた時以来ではないだろうか。しかも蝦夷地と呂宋と南北で反乱か。
「頼政、説明を頼む」
「はっ」
頼政殿が上様に一礼して皆のほうを見る。
「まずは呂宋の反乱から説明させていただきます。首謀者はムハンマド・ディパトゥアン・クドラトゥッラー・ナシルッディーン。国王を意味するスルタンを自称し、蒲端島のマギンダナオ族を中心に挙兵しました。数はいまだ不明ですが、数千程度と考えられます。しかし戦に参加しない女子供を含めるともっと多くなるでしょう。現在は山中に紛れながら開墾地を襲っています」
「現地陸軍はどうしている」
「現在は各地に兵を分けて守りに徹しています」
上様の質問に統虎が答える。
「現状では山中に紛れて行動しているため、地の利がある敵方に対抗するには数で押すしかありません。しかし今の海南諸島の兵力ではそれは難しいと思われます」
「それは問題ではない。高山国軍を動かせば問題ないのだ。問題は山中にこもっている敵より開墾地にいる者たちだ」
上様は現地人の中に敵に通じている者がいる可能性があると考えおられるのか。
「それに関してはむしろ問題ないでしょう」
「どういうことだ」
調長殿の言葉に上様が怪訝そうな顔をされる。
「これまでも似たような懸念はあったのです。この機会に反旗を翻す可能性があるものを炙り出すことができます。今回敵対しなければ、よほどの悪政をしない限り敵対することはないでしょう。安心して今後の政を行えます」
「そうか。陸軍奉行所、今後の作戦は」
「数を考えますと、兵糧などを管理する拠点があるはずです。高山国軍の移動がすみ次第、まずはそこを探します。それまでは敵本体をまともに相手するつもりはありません」
「兵糧攻めか」
「はい。拠点を潰し、兵糧を断つ。兵糧なき軍を倒すなど赤子の手をひねるようなものです」
「開墾地を襲って兵糧を獲得するつもりなのではないか」
「蒲端島の開墾地は年貢を減免し、補助金を受け取ってようやく生活できているのです。軍を維持できるほどの兵糧はないでしょう。これは産業奉行所にも確認をとっております」
「後ほど、詳細をまとめて提出せよ」
「お待ちください」
次に行きそうだったため、慌てて声を上げる。
「どうした。井頼」
「高山国軍の移動ですが、四国軍か山陰軍・山陽軍に変われないでしょうか」
「どうしてだ」
「唐土にて金と明が戦になるようです。そのため、金から援軍ないし支援の要請が来ています。ここで高山国軍を動かせば明に味方したとみなされる可能性があります。また、明が戦に負けた場合、奪われた分を高山国を奪うことで補おうと考える可能性もあります」
「唐土か。このような時期に面倒なことを」
その面倒なことというのは唐土のことか、今回の反乱のことか。どちらを指しているのだろうか。
「貿易を行っている以上、ある程度は仕方ないか。陸軍奉行所はそのことも検討して作戦を立てよ。次にメナシクルの反乱について」
メナシクルの反乱。確か上様がメナシクルなどのアイヌを気にかけて農業試験場などの救済措置をとっていたはずだ。それなのに反乱とはどういうつもりなのか。ほかの参加者も疑問に思っているのか、頼政殿のほうを凝視する。
「ことの発端は農業試験場計画が遅れていることで、蝦夷地局の担当者がメナシクルの首長のもとに向かったことからです。その時に酒を飲んだ首長が誤って担当者を殺してしまいました。その後、シュムクルが仲介となって蝦夷地局とメナシクルで交渉が続けられましたが、首長代理のカモクタインが軍を率いて蝦夷地局メナシクル支部・郡代を襲いました。結果として当時支部にいた役人たちは全滅、郡代も壊滅状態です」
「ほかのアイヌ部族は」
「同調するような動きはございません。むしろ近くにある郡代や蝦夷地局支部に首長が赴いています」
「康守ならともかく、ほかの部族は信用できない。戦の際はアイヌを先鋒にせよ。行動をもって身の潔白を示せ」
「しかし、今は雪で行軍が難しいですが」
「アイヌならば問題ないだろう。それから今回の反乱に付け込んで大名たちが動き出さないよう各師団には警戒するよう通達するように」




