有馬滅亡
―――――――――1543年1月30日 高城城 西郷純久―――――――――
「ええい、この愚か者が」
「愚か者はどちらですか!大村は宗に降ったのですよ。もはや有馬は滅んだも同然。であれば西郷の名を残すためにも宗に降るべきです」
「たとえ滅びるとわかっていてもついていくのが忠臣というものであろう。それに有馬の当主は我が兄、純堯にとっては叔父であろう。見捨てていくことなぞ出来るか!」
「だったら父上だけでしていてください。西郷家を道連れにしないでいただきたい」
まったく、これだから最近の若い武士は。生き残ればいい、武功を立てればいいばかり言っている。もちろんそれが悪いとは言わん。それも大事だろうがそれだけで武家が成り立っている訳ではなかろうに。兵糧の管理・兵の動員数の算出など裏方の仕事や主家の命令を忠実に全うし、死しても主家に忠義を尽くすものがものがいなければ家をまとめることもままならぬ。それを分かっているのか。
第一、宗が受け入れなかった時はどうするつもりなのだ。向こうから調略が来ていないということは我らを滅ぼすつもりなのだろう。西郷はそれなりに大きい。それを嫌った可能性もある。
「父上は有馬に勝算があると思っているのですか?この状況をひっくり返すのは不可能です」
「少弐が筑紫氏と戦を始めた。宗はその戦に付き合わねばならん。そこをつけば以前ほどではないが盛り返すことができる」
これは確かな情報だ。しかも少弐は熊太郎の出陣を求めたらしい。同盟がある以上宗の動きが鈍るのは間違いない。
「宗は有馬と大村を同時に相手していたのにも関わらず我らは負けているではないですか。大村が降り近くの脅威が有馬だけとなった今、全力で有馬を滅ぼそうとしない訳がありません」
「それならば我らが有馬の盾となれば良い」
「父上は家臣たちに有馬を守るために死ねというつもりですか。あの者たちが従うはずがありません」
それがどうした。たとえ従わなかったとしてもひとりでするつもりだ。
「そもそも宗が降伏を認めるはずがない。我らは有馬の血を引く者。有馬再興の神輿にするにはちょうどいいものたちをそのままにするはずがない」
「宗は降伏したものを不当に扱うことはないと聞きました。父上が心配するようなことはありません」
「あまいわ。その辺の倭寇崩れと有馬を一緒にするでない」
松浦党と有馬では規模が違う。その事を危惧しないとでも思っているのか。
「とにかく、私は父上には従えません」
「だったらどうする。ひとりで宗に降るか。そのようなことをしても大した待遇は受けることはできんぞ」
「ええ、私だけでは無理でしょうな」
「ならば諦めるか。今ならこれまでのことは聞かなかったことにしておくぞ」
こんな奴だが謀には向いている。育てれば有馬のために欠かせぬ存在となれるだろう。
「しかし、父上の頸があれば話は別。西郷の名を残すため、有馬の血を残すためにも父上には死んでもらいたい」
「なにっ」
いつの間にか合図をしたようで若い武者たちが5人ほど入ってきた。すでに刀は抜かれている。
「やれっ」
おのれ、親を討ち取って信用されると思っているのか。これで西郷は終わりよ。
―――――――――――1543年2月2日 日野江城城周辺―――――――――――
「お初にお目にかかります。西郷純堯にございます」
「宗熊太郎である。面を上げよ」
「はっ」
純堯が顔を上げる。若いな、20歳前後といったところだろうか。これがのちに梟雄と言われるようになる人物だとはね。正直言ってあまり近くには置いておきたくないな。
先月の終わりに有馬が島原氏など島原半島の有力国人を粛正した。おそらく宗が当分動けないとみて行動に出たのだろう。そのことに危機感を持った純堯がこちらに使者を送り父で有馬晴純の弟である純久の頸を条件に降伏したいと言っていた。こちらとしては楽に有馬を攻略できるので願ったりかなったりだ。早速兵を整え出陣した。有馬は今頃大慌てだろう。
「はっ、我ら西郷が熊太郎様の下知に従うことをお許しいただき恐悦至極にございます。これは我らが忠義の証にございます」
そう言ってそばに置いてあった首桶と首札を差し出す。首札には西郷純堯討取、西郷純久の頸と書かれてある。つまり純堯は実の父親を殺したということか。さすが未来の梟雄、父親殺しをしてまで家を守ろうとするか。まぁ、俺も人の事を言えた義理ではないけど。
「お確かめ下され」
「分かった、今回の首実検は戦の最中なので略式で行う」
立ち上がり首桶を開け確認する。かなりひどい顔をしているな。たぶん息子と家の将来を憂いながら死んでいったのだろう。ところで俺は純久を直接見たことがないからわからないんだよな。まだ銭で雇った兵がそろっていない関係で有馬から寝返った将が今回は経治しかいない。知り合いだろうか。
「経治、間違いないか」
「はっ、以前何度かあったことがありますので間違いないかと」
「そうか。純堯の忠義、確かに確認させてもらった。西郷の本領安堵及び三年間の軍役免除を許す。本日より宗家のため尽くしてくれ」
「ありがたき幸せ。熊太郎様のため働きまする」
「楽しみにしているぞ。だが今は家中が混乱しているであろう。まずは高城城に戻り家中を安定させよ」
「はっ、ご配慮くださりありがとうございます。では某はこれで失礼させていただきます」
一礼して純隆が下がる。
「では、これより総攻撃を行う。東の大手口は津奈調親・平井経治・東尚久・井手智正が西の搦手口は小田盛長・倉野茂通・柚谷康広が攻めるよう」
「「「はっ」」」




