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ブルネイ

――――――――1616年3月16日 浅井家上屋敷 浅井井頼―――――――

「では、とりあえず側室が無事に初に決まったことに対して、乾杯」

「「乾杯」」

貞勝殿と直文殿と乾杯をする。そして三人とも一気に盃を空にした。

「あー、うまい。やはり酒は九十九がうまいな」

「ありがとうございます。酒は私の担当ですので力を入れさせていただいています。今後ともごひいきに」

「そうかそうか。では、今度の宴にいくつか頼んでみようかな」

そういいながら機嫌よさそうにもう一杯飲んだ。

「貞勝殿、今回は姪を側室にするために働きかけてくださりありがとうございます」

「なに、甲寅会の代表として当然のことをしたまでだ。親族衆は政にあまり口出しできないからな。お前たちの権力強化のためには働くのは当然だ」

「・・・惟宗の親族衆は数少ないので。上様としましても、できるだけ政でいらぬ傷を負って将軍を継ぐ者が少なくなるのを防ぎたいのでしょう」

「そうだろうな。親族たちもそのあたりのことはわきまえている。しかし少しぐらいはな、発言したいのだよ。父上のようにな。それに俺が何か言わなくても初が側室になっていただろう」

「それはどうでしょう」

浅井は惟宗と敵対した家だ。親族衆である貞勝殿が親族衆の意見として述べたり譜代の調長殿が譜代の意見をまとめたりしない限り、認められるとは思えない。

「上様としても織田などの敵対した大名の旧臣たちがしっかりと働くための環境を作るため、敵対した浅井の出世は必要だし、織田の血を引いている初を側室に迎えるのは必然だ。俺はただ背中を押してやっただけだよ。家康も時期よく倒れたしな」

そういって牛肉を口に運ぶ。

「おっ、これはうまいな。最近食べた肉は硬くてまずかったんだよな」

「その辺の肉と九十九が販売している肉を一緒にされては困ります。これでも幕府に食料を納めるのです。まずいものなど出せませんよ」

「この白い飲み物もうまいな。甘くてうまい。甘党の多い親族衆には受けるだろうな」

「そちらは文萊ブルネイから輸入したココナッツという植物からとれる飲み物です。売れるかどうかとりあえず輸入したものなのですが」

「文萊と言えば使者が呂宋に来たと報告があったな」

「ほう。詳しく話せ」

ポロっと出てしまった言葉に貞勝殿が興味を持ったようで、前のめりで聞いてきた。

「イスパニアを追い出すために援軍を頼みたいと言ってきたのです。海南諸島を日本が制圧したことで、イスパニアが新たな交易の拠点として文萊を利用しようと兵を派遣しているらしいです。今はほかの拠点が遠かったり、数が少ないために制圧はできていないようですが、このままでは負ける可能性が高いと考えているようです。そこで金銭的な支援などを求めてきました」

「何とも言えないな。イスパニアがあそこをとるのは国防上まずいのではないか。一度戦をしてしまっているのだ」

「宗矩殿も似たようなことを言っていました。財務奉行所もこれ以上国防のために銭をかけるのはどうなのかと。海南諸島や台湾の開墾もまだ完成していませんので、内務奉行所・産業奉行所も反対のようです」

「外務奉行所内ではどうだ」

「今集中するべきは唐土だという意見が多数です。徳川閥も家康が倒れたせいで混乱しているので大して発言はしません。このままでは介入はないでしょう」

金の成立により唐土での情勢が見通せないことになっている。文萊より唐土を優先するべきと考えるのは当然だろう。基本的に対外強硬派である九州閥も今回はおとなしいままだ。

「直文殿、九十九は文萊との商売はないのですか」

「ないですね。あそこは大した産業はありませんので。あそこに期待するとすれば傭兵を雇ってもらうことぐらいでしょうか」

そんなものだろうな。

「甲寅会としてはどう考えているのだ」

「様子見に徹するといったところでしょうか。傭兵雇用の話が来たら相応の銭を払ってもらえれば出すぐらいのものです」

「そうか。それがいいだろうな」

貞勝殿は甲寅会の代表とはいえ、親族衆という立場もあってほとんど形式的なものになっている。実質的には使節団参加者の合議で決めている。そして今みたいな形で貞勝殿に報告しているのだ。

「これからは外務奉行所が発言力を持つだろうな。外交の井頼と内政の調長。この両輪で幕府を動かしていけるようになればいいな」

「そうなるよう努めてまいります」

もし初に子供ができて、もちろんそれが望まれているのだろう。その子供が将軍になったら、甲寅会が後ろ盾にならないといけない。そのためには今の地位ではだめだろう。ほかの派閥を切り崩しながら甲寅会の関係者が評定で過半数を得るようにしないとな。まずは徳川閥と言ったところか。家康が倒れた今なら一気に進められるだろう。正信殿もそろそろ隠居するという話もある。がんばらないとな。

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