金
―――――――――1615年5月23日 大坂城 惟宗長康―――――――――
「女真族が国をな」
頼政の報告にため息が出そうになる。せっかく使節団の報告でイスパニアとの和睦が全面的にこちらの要求を飲ませて成立したのだ。ここで唐土が混乱することになるとはな。
「外務奉行所は把握しているのか」
「おそらく」
「そうか。では外務奉行か次官を呼んだほうがいいな。康理、康理はいるか」
大声で呼びかけると、しばらくして康理が入ってきた。
「お呼びでしょうか」
「真田信之、浅井井頼、島津久保の中で手が空いているものを呼んでくれ。忙しそうだったらそっちを優先させてくれ」
「かしこまりした」
一礼して康理が部屋を出る。
「さて、来るまでほかの報告を聞こう」
「はっ。まずはジョホールですが、阿蘭陀と同盟を結びました。これはイスパニアなどの交易上の敵と戦うためのものと思われます。また、ジョホールはアチェとの戦を進めていくつもりのようです」
「アチェと言えば南蛮が欲しがっている香料を多く輸出している国だったな」
「はい。さらにマタラムにて新しい王が即位しました。その王は積極的に外に攻めていこうとしているようです」
「そうなるとアチェもマタラムもいずれはオランダと敵対する可能性があるな。もっと情報が欲しい。人を増やせるか」
「現在、最も力を入れているのは唐土です。もしアチェなどに人を増やせば今後の唐土での変化への対応が遅れる可能性があります」
距離を考えると唐土が最優先になるのは仕方ないな。しかしイスパニアから海南諸島を奪い取ったことで守らないといけない範囲が増えた。人を増やす必要があるな。財務奉行と相談して予算を増やすか。
「そうか。わかった。唐土での活動を最優先にしてくれ」
「かしこまりました。次に暹羅ですが、日本人町が大きな影響力を保っています。さきの緬甸との戦でも勝利に貢献しました。緬甸も内乱等で暹羅を攻める余裕はなくなったため、暹羅は内政に集中できる環境ができました。このまま国内の復興が進めば交易の額ももっと増えるでしょう」
いい報告だな。九十九に船を増やすよう伝えておくか。
「上様。失礼します」
そういって康理と信之・井頼が入ってきた。
「久保はどうした」
「今日は休暇をとっているようです」
「そうか。康理、次の仕事の準備をしておいてくれ」
「はっ」
そういって康理は部屋から出る。
「よく来てくれたな。これから唐土での情報収集の結果を頼政から聞くところでな。外務奉行所の意見を聞いておきたい」
「かしこまりました」
「微力ながら」
二人とも困惑した表情をしたが、受け入れた。
「まず確認だが、女真族が国を作ろうとしているのは聞いているか」
「そのような噂が流れていると商人から報告が来ています」
「頼政の報告では確実にそうするつもりらしい。国号は何だったかな」
「金です」
「そうだったな。頼政、報告の続きを頼む」
「はっ。女真族は各部族が明に従っているという形でしたが、これまでの戦により女真族はヌルハチのもとに統一されました。それによりかなり大きな範囲を女真族が支配することになります。明は女真族の建国を察知していませんし、建国しても朝鮮と同じようなものとみる可能性があります」
「ん?独立するための建国なのに、朝鮮と同じだと?ずいぶんと楽観視しているな」
「万暦帝は基本的に政には参加せず、家臣たちは権力争いをしているのです。まともに状況を判断する能力がないのでしょう」
「戦になるだろうな。どっちが勝つと思う?」
「何とも言えません。金には勢いがありますし、ヌルハチという優秀な棟梁をいただいている。明は交易によって多く儲けていますが、その儲けを万暦帝の無駄遣いに使われています。反乱などもあって民にも重税を課していますので、かなり不満がたまっています。しかし数という点では明のほうが勝っています」
何とも言えんな。数はそのまま軍の力の優劣につながる。ただ不満を持つ民が明を助けるとは思えん。どうなるだろうな。
「信之はどう思う」
「明に勝てるとは思えません。金とは関係を持たず、明を支援することで恩を売るべきではないでしょうか」
信之は明が勝つとみているのか。
「井頼はどう思う」
「私は・・・金が勝つと思います」
井頼は言いにくそうだったが、信之とは反対の意見を言った。
「なぜそう思う」
「明は地方の長官が規定の半分しかいないなど、まともに支配できているとは云い難い状況です。もし金と戦をすることになれば好機到来とばかりに一揆がおきるでしょう。金と一揆で挟み撃ちにあう明が勝てるとは思えません」
「ではどうするのがよいと思う」
「金に対して使者を派遣し、明を滅ぼした際には朝貢なしでの交易を認めさせます。現状では明が朝貢を求めてくる可能性は少なくないので。金も明と戦う上で日本まで敵に回すことはできないはずです」
「金を支援するということか」
「はい」
ふうん、難しいな。
「上様」
「どうした、頼政」
「惟宗は日本を統一するために長い時間を費やしました。そして唐土は日本の何倍も広い場所です。どちらが勝つにしてもかなりの時間がかかると思います。もう少し様子を見てはいかがでしょう」
ここでどちらかの意見を採用すれば関係に亀裂が入ると見て、どちらでもない意見を言ってきたか。それに乗ったほうがいいな。
「そうだな。もう少し様子を見よう。外務奉行署でも今後の対応について協議してくれ。久保の意見も聞いてな」
「「はっ」」




