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一国一城令

―――――――――1614年7月10日 一条邸 一条内貞―――――――――

「側室かぁ」

「父上、どうしました」

上様からの手紙を読みながら思わず出てしまった独り言に、兼藤が反応した。

「上様に側室をという話が出ている。しかし相手をどうするか」

「正室が院の妹君ですから選ぶのは大変でしょう。少なくとも公家からは難しいのでは」

「そもそも惟宗当主はあまり側室を取らなかった。そのせいで余計難しいな」

兄上は側室を取らなかったし、父上も一人しかいなかったうえに子がすぐに亡くなったことでその側室は出家した。

「しかしなぜそのようなことをわざわざ知らせてきたのでしょうか」

「幕府はそれだけ朝廷を不安視しているということだ。杉の入内で少し強引なところがあったからな。院の不満もある程度は耳に入れられているのだろう。あるいは公家から出せないかということか」

「それは無理では。院も帝も不快な思いをされるだけかと」

「わかっておる」

まあ、院はともかく女好きの帝が不快な思いをされるとは思わんが。ただあの親子の不仲から考えて余計に問題がこじれそうな気がするな。大名か旗本の娘にしたほうがいいと返事をしておこう。あの親子の不仲の原因は惟宗にある。せめてこれ以上悪化させるようなことは避けたほうがいいだろう。

「そうなると側室の実家がどこになるかで、幕府内の派閥争いの状況がわかるな」

これまでの嫁とりからして大名の可能性が高い。父上の河野しかり、兄上の正室しかり。しかしそれは乱世で必要なものだった。しかしいまは太平の世。譜代からとるか、旗本からとるか。親族衆に適当な娘はいない以上、側室選びは権力争いの縮図となるやもしれん。興味深いな。む、あまり興味なさそうな顔をしているな。

「いいな。一条・松殿・洞院は朝廷における幕府の代理人が主な役目だ」

「わかっております」

「いや、その顔はわかっていない。幕府のだれが主流になるかで、我々の行動が変わるのだ。公家の動きと同じくらい幕府の動きも知っておかねばならん」

「だから新撰組とよく連絡を取り合っているのですか」

「そうだ。長房や公長にもしっかり伝えて子々孫々、幕府のために働くのだぞ」

「はい」

うーん、大丈夫だろうか。

「それと本阿弥光悦を有田に向かわせたいと書いてある」

「光悦を?それはまた急ですな」

「英蘭や阿蘭陀との交易の増加に加えて今回の使節団の成果次第ではイスパニアとの交易も復活する。その時に陶磁器を高く売りたいのだろう。しかし明の品には今のところ負けている。利益を考えると日本のものが売れたほうがいい。そのためのてこ入れといったところか」

「はぁ」

兼藤はあまりピンと来ていないような声を上げる。少し公家としての教育に重点を置きすぎただろうか。惟宗の、父上の血を引いているから商いについてわかると思っていたが、そうでもないのだな。

「しかし光悦と言えば帝がずいぶんと贔屓にしています」

「そうだな。それで」

「それでって、大丈夫なのですか」

「大丈夫にするのが麿たちの仕事だ」

兼藤は帝の御機嫌を損ねることを心配しているのだろう。二条派に付け込まれる可能性も。だが朝廷を動かすのは麿たちであり幕府だ。それくらいできなければ意味がない。

「帝と言えば、近衛の件はどうなっている」

「九条幸家に近衛を継がせようと動いているようです。しかし事前に根回ししておいたことと、二条・鷹司も賛成しているわけではないので主流になるとは思えません」

「では次の朝議で正式に帝の許可をいただこう」

近衛信尹が今年に入って大病を患った。今は左大臣だがもう無理だろう。じき辞任させねばならん。近衛の跡目は二宮殿下だが、左大臣の後任は誰にするか。順当なら右大臣の幸家だが近衛の件で動き回られたのに左大臣にしてやるのは癪だ。仕方ない、麿が兼任するか。しかし主要な地位を惟宗ばかりで占めていては不満が出るな。それに幸家のわがままをほっておくのもまずかろう。内大臣の長房を右大臣にし、内大臣を鷹司信尚に任せるか。それから大納言と中納言の正官を復活させよう。役職が増えれば不満も抑えられるだろう。それを狙ってこちらに近づくものも増えてくるはずだ。猪熊の時に迷惑をかけてくれた徳大寺・烏丸もこのあたりで許してやるか。そのことを兼藤にも言うと同意した。

「それがよろしいかと」

「来年にはお前も権大納言となるだろう。以前に比べると土佐に戻りにくくなる。その前に一度、土佐に戻れ」

「土佐ですか。かなり久しぶりです」

麿も兼藤も久しく土佐に戻っていない。家臣の暴走を防ぐため、貞親に監督を頼んでいるがたまには戻らんとな。それにしないといけないこともある。

「失礼します。局長より書状が届きました」

部屋の外からこの屋敷を警護する新選組のものが声をかけてきた。兼藤がすぐに戸を開けて書状を受け取る。

「父上」

「すまんな。どれ」

兼藤から書状を受け取ってすぐに開く。ほう、これは。

「近衛の件が片付き次第、大坂に行く」

「上様に今回の件のご説明ですね」

「それと土佐藩主の座をお前に譲ることを願い出る」

「えっ」

兼藤が驚いたようにこちらを見る。だから感情を隠せと。

「鹿之助からの報告だ。すべての大名に居城以外の城や砦を破棄するよう命じる法案が提出される。確実に通るだろうとのことだ。関白として長期間、京を離れることはできん。お前が藩主となり、すべてをつつがなく進めよ」

「はっ」

しかし居城以外の破棄、一国一城令か。発案は誰だ。上様は気性から考えて違うだろう。こういっては何だが外に対し手に集中しすぎている気がする。徳川閥・毛利閥の発案でもないな。九州閥もあり得ない。となると譜代閥か旗本閥か例の甲寅会か。時期を考えると甲寅会か。思ったより大きな派閥になりそうだな。

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