日本と日の丸
―――――――――1607年10月25日 大坂城 惟宗長康―――――――――
「浅井井頼及び遣欧使節団、無事に帰国しましたことご報告いたします」
「よく戻ってきてくれた。面をあげよ」
「はっ」
俺の言葉に井頼が顔をあげる。最後に会った時よりたくましい顔つきになっている。
「報告は受けている。英蘭や暹羅などと交易を認めさせたこと、よくやった。これで英蘭との交渉がうまくいっていなければ戦をおこした意味がなくなるところだった」
「いえ、まさか我々が出航した後に英蘭人と阿蘭陀人がこちらに来ているとは思いませんでした。そして」
「戦が起きていようとは思わなかった、か」
「はい。坊津にて康正首席補佐官に聞いた時は驚きました」
康正大叔父上は送り出したのも自分だから迎えるのも自分がいいと言って自ら名乗り出てくれた。もう歳だろうに元気なことだ。
「やはり奴隷貿易の件が」
「そうだ。それにかかわっていた大名も一揆がおきたのと合わせて処分した。商人に関してもだ。しかし買い手がい続ける限り売り手も出てくるだろう。他にもいろいろ理由はあるが、一番の理由はそれだな」
一揆は大名たちを処分してすぐに鎮圧した。これで諸藩に対する威圧にもなっただろう。父上とは違って、俺は父上が亡くなったから家督を継いだ。そのせいで諸藩に軽く見られている可能性があった。それも今回の一揆と呂宋攻めでなくなるだろう。
「しかし取引の空白ができるのはよくないのでは」
「予定では来年には英蘭が、3年以内には阿蘭陀が船を出すことになった。問題ないだろう。それくらいを乗り切れないような商人では新しい取引相手とうまくできるとは思えんしな」
「しかしこのままでは英蘭や阿蘭陀がイスパニア並みの取引量になるとは思えません。英蘭は国王交代、しかもよその国から国王を連れてくることにしました。政治的混乱は避けられないでしょう。阿蘭陀もイスパニアとの戦があります」
「英蘭に関していえば想定外だった。使節団の報告を聞いた時には驚いたものだ。しかし今更どうしようもない。これは必要なことだ」
「かしこまりました。この浅井井頼、今回の経験を生かして必ずや日ノ本に繁栄をもたらして見せまする」
「使節団に参加した者たちには期待している。いずれは次官・奉行となり、政に大きくかかわっていくだろう」
「はっ。では手始めに一つご提案が」
さっそくか。頼もしいな。父上がこいつを代表にすると言った時は大丈夫だろうかと思ったものだが、やはり父上の見る目は間違っていなかった。
「国名を統一し、象徴となる旗を作りましょう」
「どういう意味だ」
「現在この国を表す言葉は数多く存在します。日ノ本、日本、秋津洲、葦原中国、大八洲国・・・そのほかにもいろいろあります。しかしこれから国と国との取引になります。国名を統一しておいた方がよろしいかと」
「なるほど。確かに必要かもしれないな。過去の例で最も正式に使われているのはどれだ」
「日本でしょうか。またほかのものですと冗長です」
「ではそうするか。それで象徴となる旗とはどういうことだ」
「英蘭がよその国から国王を連れてきて一人の国王にふたつの国になるという話をしましたが、国王はそれを一つの国としようとしています。その象徴として旗を作り、船につけさせるようです。そういったものを作り、日本という国を象徴するものとして船に付けさせます」
「うーん、それは必要か」
正直あまり必要なさそうな気がするが。
「これを付けさせることでその船は日本所属であるとすぐに見分けがつきます。それによって海上での余計な争いが避けられるのではないかと考えます。またこの旗を付けていない日本の船は何らかの不正を行おうとしている船である可能性が高くなります。海上での取り締まりはこれまで以上に容易なものとなるでしょう」
「なるほどな。確かに悪くないかもしれん。どういった意匠にするかな」
「一目見て分かる単純なものがよろしいでしょう。狩野長信とともに候補をいくつかご用意させていただきました」
そう言って近くに置いてあった布を広げる。日の丸、旭日旗、隅立て四つ目結、菊花紋。
「菊紋はやめておいたほうががいいのではないか。海上だと何があってもおかしくない。なにかあると朝廷が騒いで面倒だ。あくまで菊花紋は皇室のもの。同じ理由で隅立て四つ目結もやめておこう。惟宗の象徴、あるいは幕府の象徴であっても国の象徴にはふさわしくない」
残るは日の丸と旭日旗。どちらするか。
「誰が書いてもわかるものの方がいいかもしれないな。よし、こっちにしよう」
そう言いながら日の丸が書かれた布を取る。
「次の評定に首席補佐官から提案させよう。お前も手伝ってくれ」
「かしこまりました」




