処分
―――――――――1606年1月15日 鳥屋城 畠山貞政―――――――――
「まずいまずいまずいまずい」
「御屋形様、落ち着いてください」
髪をぐちゃぐちゃにかきむしりながらぶつぶつ呟いていると、それを見かねたのか湯川光春が声をかけてきた。だがそれさえも煩わしい。
「これが落ち着いていられるか、馬鹿もんっ」
「まずいまずいと呟いていたら解決するのですか。大丈夫です。所詮は百姓が集まって騒いでいるだけ。すぐに決着がつきます」
「去年の3月にも同じこと言ってたよな。あれから10か月もたったぞ。いつになったら鎮圧できるんだ」
「もうすぐです」
「それも10か月前に聞いたわ、阿呆」
思わずイラッとして脇息を投げつける。しかし光春はそれを簡単に避ける。それにもイラッとした。
「だいたいなんでただの百姓があんなに火縄銃を持っているのだ」
「元雑賀衆や根来衆が火縄銃を持っていたのでしょうな。そういう輩ですと戦慣れもしているでしょう。少なくとも今回戦に駆り出している兵たちに比べれば」
「何でそんな奴らが一揆に参加しているんだ」
「戦が無くなったので雇われ兵として食べていけなくなったからでしょう。陸軍に参加する手もあったでしょうが、惟宗と敵対していたのでそれもかなわず帰農していました。それと昭高様が紀伊をしっかりと治めるために敵対的な国人を潰した際にも浪人が大量に生まれました」
「おい、本当に鎮圧できるんだよな」
「大丈夫です。ほかの藩でもまだ鎮圧したという報告は来ていません。ただ」
「ただなんだ」
「今回の件で幕府からどのような処分が言い渡されるかと思うと不安で」
光治の言葉に思わず顔をしかめる。なんでこんなときに。
「いやなことを思い出させるな」
「しかしこのままでは減封はまず確実ですぞ。せっかく上様直々に警告をしていただいたのに一揆を起こしてしまい、しかも年を越しても鎮圧できていない。これはまずいですぞ」
「お、お前が言うか。鎮圧できると言った」
「すでに大阪の屋敷の家臣たちが総務奉行所に探りを入れていますが何も教えてもらえないようです。通常であれば今後の大名との関係を重視して多少は教えてくれるのですが」
「じゃあ何か。減封どころか取り潰しすら検討に入っているということか」
「かもしれません」
くそっ、こいつめ。畠山が取り潰しになったとしても自分は幕府に雇われる可能性があるからと余裕ぶりやがって。
「奴隷貿易の件もあります。ここは御屋形様自ら出陣して鎮圧することで幕府に対して誠意を見せるべきではないでしょうか。幕府陸軍も戦の準備をして久しくなります。そろそろ幕府の介入と我々の取り潰しを決める可能性が。どうか出陣を」
「いやだ。戦に出たことのない儂が出たところで意味はない。無駄に危険な目に合うのは御免だ」
「左様ですか」
戦なんて冗談じゃない。俺は戦なんてしたくない。俺は室町から続く名門畠山の当主だぞ。戦なんてしたくない。
「御屋形様」
部屋の外から小姓が声をかけてきた。
「どうした。何かあったか」
「幕府より使者が、それも第6師団を連れて」
「用件は、用件は何だ」
援軍か、改易か。どっちだ。
「それはまだ」
「すぐに準備を整えよ。失礼の無いようにな」
「はっ」
数刻後、二人の男が入ってきた。集められた家臣たちと共に頭を下げる。
「顔をあげられよ」
二人が上座に座ると顔をあげるように促されたので顔をあげる。
「総務奉行所大名局長、犬童頼兄だ」
頼兄だと。確か次の次官候補の一人じゃないか。
「第6師団長、小田勝則」
小田勝則は確か、康正殿の庶子だったはず。これはどういうことだろうか。無駄に豪華な使者たち。どちらだろうか。
「一揆の発生から10か月を過ぎた。どうやら解決のめどはたっていないようだな」
「これから軍議ののち、某自ら出陣して一揆を鎮圧する予定で」
「予定など聞いていない。上様はもはや待てないと御考えだ。ここにいる勝則殿率いる第6師団が一揆鎮圧を引き継ぐ。第六師団が要求する資料は早急に引き渡すように」
「はっ」
「それとこれより紀州藩に対する処分を伝える」
減封か、改易か。どっちだ。
「紀州藩には奴隷貿易を行っていたという証拠が出てきた。それと今回の武家諸法度違反による一揆の発生。以上の理由により紀州藩は改易とする。藩主畠山貞政および三等親内の親族は沼田藩預かりとする。藩士は警察の取り調べの上、奴隷貿易に関わっていたものは適切な刑罰に処す」
「それは」
「期日は2か月後。それまでに引き渡しの準備ができなければ反抗の意志ありと判断し、畿内軍を用いて紀州藩の制圧作戦を行う。その際は藩主一族及び藩士は関与の程度に関わらず重罪を負わされるものと覚悟するように」




