一揆と侵攻
―――――――――1605年9月10日 大坂城 惟宗長康―――――――――
「皆、面をあげよ」
「「「はっ」」」
奉行たちが頭をあげる。その顔にはほとんどの奉行や次官たちに疲れの色が見える。特に陸軍奉行所の三人と情報本部長官の頼政はかなり疲れているな。それに比べて康繁はさすがだな。幼いころから祖父様に従って戦をしてきただけに、全く疲れた感じがしない。歳をとってもまだまだ奉行として働いているだけはあるな。
「では評定を行おう。水軍奉行所、呂宋攻めの経過報告を」
「はっ。現在、水軍は呂宋及びその周辺の島々にあるイスパニアの船を沈めております。現状では海上での組織だった抵抗は無くなったとみて問題ありません」
「イスパニア本国に現状を伝えている船はないのか」
「そう言った船は全て沈めております。また後程詳しい報告が陸軍奉行所からあると思いますが、事前に反乱が起きていたことで現地の統治機関がほぼ機能していないため伝わっていないことを把握していないと思われます」
この分だと呂宋島内部でも大した抵抗はなさそうだな。想定より被害は抑えられそうだ。
「そして呂宋周辺の島々にあるイスパニア以外の勢力ですが、こちらも海上での抵抗は無くなったとみてよいかと考えます。あとは陸軍次第かと」
「そうか。では陸軍奉行所」
「はっ。現在の陸の戦況ですが、そもそもの敵の戦力がどんなに多く見積もっても1万程度という予測でした。そこから各地で情報本部が扇動した一揆鎮圧のために兵を分散したため、主要な地域の守りが薄くなりました。そこに水軍が海上戦力撃破と海上からの砲撃によって現地は極度に混乱。上陸には想定より損害を出さずに済みました。上陸地点は馬尼剌・ダグパンの二か所からでしたが、順調に制圧しております。また周辺の島々に関しましてはこちらも計画通り進んでおります」
「現地人とはうまくやっているか」
「さすがにイスパニアの関係者はイスパニアを支援しているようです。しかしそれ以外のイスパニア支配圏に住む者たちはこちらに友好的です。蘇祿は送り込んでいる兵が少ないこともあって特に強く抵抗しているようです。マギンダナオはまだ攻めていないので何も言えません」
戦自体はそもそも兵站さえ確保できていれば楽な戦だった。問題はそのあとだよな。きちんと統治できるか。制度については日ノ本や高山国と同じにするつもりだが、日ノ本の言葉を話せなければうまくいかんだろうな。とりあえず通訳は複数人いるだろうな。そいつらに日ノ本の言葉を教えさせなければ。
「各奉行所は戦のあとの準備を早急に済ませておけ。ここでしっかり治めれなければこの戦は失敗したも同然だからな」
「「「はっ」」」
「次に一揆のほうだな。総務奉行所」
「はっ。現状としましてはどの大名も長く戦をしていなかったため、準備の段階からうまくいっていなかったようですな。今は一揆勢と戦っていますが互角の戦いといったところですな」
「そこまで弱体化していたのか。負けるか」
「さすがにそこまでは」
別に負ける分に関しては問題ない。確か陸軍の分析では今回の一揆より大きいものを想定していたが、参勤交代や大名に対する税などの乱世の時とは違う出費の増加や戦を経験した将の減少によって負ける可能性が高いだろうとなっていた。負ける可能性は元から想定していた。そもそも今回の一揆は情報本部を通じて幕府が動かしている。負けるも勝つも幕府次第だ。
「一揆が終われば改易だ。直前の戦で抵抗する力はほとんどないだろうが、同時に複数の大名を改易するのは今回が初めてだ。さらに大名は捕らえて刑罰を与えることになる。家臣たちが抵抗する可能性を考えねばならん。陸軍はすでに準備できているな」
「はい。すでに有事の際に対応する師団が戦の準備をすませております。しかしその件で抗議を受けている師団もいるようで」
「総務奉行所、そう言った抗議の対応はできるな」
「はっ。もちろんにございます」
「ならば各師団に抗議に関しては総務奉行所にというように伝えよ。もし直接抗議が来たとしても無視せよともな」
「かしこまりました」
抗議が来たということは少なくとも援軍とは認識していないのだろうな。となると多少は後ろ暗いところは認識しているのだろう。そういえば大名たちの間で奴隷貿易の件が噂になっていると聞いたな。皆の前で例の大名たちを攻めたのは奴隷貿易に関わっていたからだとか、その奴隷貿易に幕府が関わっていて今回の呂宋攻めに利用したとか。一揆が起きてからは奴隷貿易の件の口封じだとか。よく奴隷貿易に関連付けたな。もしや幕府内から情報が洩れているのか。となると抗議してきた大名の中にまだ発覚していない奴隷貿易に関わっていた大名がいると不安に思ったか。情報本部に調べさせよう。杞憂だといいんだが。
「次は地震の被害についてだな。総務奉行所」




