呂宋侵攻
―――――――――1605年1月1日 大坂城 惟宗長康――――――――――
「新年の御慶、言上し奉る」
皆を代表して親族衆筆頭の康正大叔父上が正月の挨拶をする。大叔父上も随分と歳をとった。あと数年で70になるのだったな。
「めでとう。皆、面をあげよ」
「「「はっ」」」
俺の言葉に大名たちが頭をあげる。正月は一年で最も大坂城に人が集まる日だな。最前列に親族衆が、その後ろに奉行・情報本部長官が、そのまた後ろに次官・補佐官が、その後ろに各奉行所の局長・新撰組局長・水陸軍要職が並ぶ。基本的にこの並びが幕府内での序列だな。そしてその後ろに大名たちが前年幕府に納めた税金の額に応じて並んでいる。参勤交代の都合で今年は国許で過ごす大名のところは代理で家臣か嫡男が参加している。
「例年であればここから料理を持ってくるところだが今年は皆に伝えることがある」
俺の言葉に大名たちがざわざわし始めた。正月は基本的に事務的な仕事があることはない。大坂城で集まって個別に挨拶するまで料理を食べて待つ。挨拶をしたら周りの大名たちに挨拶をして帰るだけだ。奉行・次官たちは年初めの評定があるがそこも形式的なものでしかない。そのはずなのにいきなり伝えることがあると言われたら驚くだろう。
「イスパニアが日ノ本の民を奴隷として交易をしていることが分かった。このことは祖父、惟宗国康が交易をするうえでイスパニアと取り決めた条件に反する。それはここにいる皆が承知していることだろう」
ここで一回言葉を切って皆の顔を見る。この後になにを言われるか分かってうんざりしている者、単純に怒りで顔を赤くしている者、何が言いたいのか分からずボーっとしている若い大名。奴隷貿易に関わっていた大名は顔を青くしているな。
「事態の説明と謝罪、及び賠償を求めたがイスパニア側は提督の死亡による代表不在を理由に交渉を拒否した」
正確に言えば殺したのは情報本部の手の者だがな。
「これは幕府に対する重大な裏切りであり、放置することはできない。よって呂宋攻めを決断した。皆には昨年の収支に応じて軍役を課すことになる。その額は明日にでも各藩に伝えるよう手配している。期日までに必ず支払いを行うように」
「「「はっ」」」
最近は参勤交代で財政がかなり厳しい大名が増えてきているらしい。本人たちは面子にかかわると思っているのか、できるだけ誤魔化してはいるが貸し手の九十九株式会社の筆頭株主であり情報本部がある幕府はそれをすべて把握している。それをもとにあえて負担する額を増やしたり、逆に負担する額を減らして恩を売ったりしている。
「ま、正月からこんな嫌な話は聞きたくなかっただろう。だがもう一つ嫌な話を聞いてもらおう」
軍役の話をしてようやくうまい飯でも食べながら挨拶の順番を待つだけだと思っていた大名たちは困惑したような雰囲気を出す。俺としてはこれからが本番だ。
「康正」
「はっ。これから読み上げる藩は上様の前に出るように。紀州藩、松本藩、天草藩、伊予藩、石巻藩」
呼ばれた畠山・安芸・天草・河野・葛西が俺の前に出る。畠山と葛西はずいぶんと顔色が悪いな。心当たりがあるのだろう。残りの三藩は代理の家臣のため何を言われるのか察していないらしく不安そうな表情をしている。この者たちは間が悪かったな。
「お前たちの領内で一揆が起ころうとしているという情報が入った。それは間違いないな」
俺の言葉を聞いて大名たちがざわめき始める。呼ばれた五人はもう顔が白くなっている。
「それは」
「当然、把握しているよな。遠くの幕府ですら把握しているようなことだ」
「・・・はい」
畠山貞政が何か言いかけたが、ここで知らないと言えばまずいと思ったのかしぶしぶ認めた。ほかの藩も同様に黙って頭を下げた。
「こちらの調べでは随分と重い年貢を強いているらしいな。これは明らかに自業自得だろう。もしかしたらいまごろ一揆がおきているかもしれないな」
というかそうするように指示を出しておいた。
「それで、どうするつもりだ」
「どうと言いますと」
「自分たちの力でどうにかするのだろうな。これでお前たちでは手に負えず、ほかの藩や天領にも一揆が広がるようなことになれば呂宋攻めどころではなくなる。そうなれば当然改易という選択肢も出てくるが」
「もちろんにございます。必ずや」
慌てたように河野の家臣が発言する。
「必ずや一揆を鎮めて見せまする」
「そうか。もっともまだ一揆がおきるとは確定したわけではない。そう慌てるな」
「は、はっ」
「しかし早急に対処しなければならないのも事実。今年の正月は今すぐにでもかえって対応を協議するべきではないか」
「そうさせていただきまする」
本当は残って心証改善に全力を注ぎたいところだろう。奴隷貿易の件もあるしな。だがそんな真似はさせん。そもそも畠山と河野は邪魔だったんだ。畠山は畿内の大名、河野は瀬戸内に影響力がある。万が一幕府に反抗したら、すぐにここに攻め寄せてくるかもしれない。だから早めにいなくなってくれた方がいい。
「さて、正月から無粋な話が続いた。ここからは皆、楽しんでくれ。智次、料理を」




