呂宋侵攻計画
―――――――――1604年1月10日 大坂城 村上元吉―――――――――
「呂宋攻めですか」
儂の言葉に氏宗殿が驚いたような声をあげる。そうだよな、誰でもそう思うよな。なのになんで昌幸大将は驚かなかったんだよ。広幸殿は・・・あまり驚いていないようだな。譜代ということもあってそのあたりは何となく聞いていたのだろう。
「先程、水・陸奉行から陸軍参謀総長の昌幸大将とともに呼び出しがあった。呂宋攻めの計画をたてるようにとのことだ」
「しかしそう簡単ではありませんぞ。陸軍は何と」
「すでに計画は立てていたみたいだ。なんでも南方方面軍司令官であられれる貞親大将が事前に計画書を参謀本部に提出していたらしい」
「貞親大将がということは」
「御屋形様もご存じ。いや、むしろ御屋形様が中心となって進められたのでしょうな」
「おそらく広幸殿の言う通りだろう。ゆえに失敗は許されない。しかし陸軍はすでに侵攻計画をほぼ完成させている。問題は我々水軍だ」
だいたい計画をたてる段階でこちらに伺いの一つでもあってしかるべきだろう。計画をたてたところでどうやって兵を輸送すると思っているのか。水軍は兵を運ぶために存在しているのではないんだぞ。
「御屋形様はまだお若い。ここで水軍は頼りないと思われては今後に関わってくる。早急に計画をたてなければならない」
「しかし呂宋のイスパニア相手となると上陸前と上陸した後の兵站の維持が問題ですね」
「そうなるだろうな」
九州からはもちろん、琉球や高山国からでもかなりの距離になるだろう。そもそも兵を安全に運べるかどうかも保証できない。それを維持と考えるとかなり難しいな。船自体は高山国攻めの後も増やし続けたことで200はある。何とかなるだろうか。この機会に造船のための予算を要求しておくか。
「後程、陸軍奉行所から侵攻計画の詳細が届くことになっている。それをもとに計画をたてることになるだろうが・・・水軍情報局が把握している情報を考慮する限り、上陸に関しては問題ないと思う」
「それに関しては同意します。問題は兵站の維持ですね」
「そうだ。上陸してすぐに海賊となる可能性がある船を潰さないといけない。幸いにも」
そう言いながら資料を取り出す。
「使節団に参加している興元大佐が送ってくれた呂宋の船舶情報がある。もちろんこれに加えて交易のための船もあるだろう。最低でもこの情報にある船は沈めなければ兵站面で不安が残る」
「そう簡単に言いますが、呂宋攻めと言っても呂宋だけではなく周りの島々も制圧するのであれば難しいですぞ。ほぼ同時にすべての島の主要な船を沈めるというのは」
先代様は呂宋からの脅威について、兵站維持の困難を理由にそこまで危険視する必要はないと考えられていた。しかしこれは我々が攻める場合にも当てはまるということだろう。
「失礼します。陸軍奉行所より書類が届きました」
「ごくろうさん」
書類を持ってきた部下から書類を受け取ってさっと目を通す。
「陸軍はどう考えているので」
「九十九の傭兵と現地人、それから情報本部を使って呂宋で一揆を起こし、敵の主要な施設を攻撃する。敵戦力が一揆の鎮圧に向かっている隙に上陸し、一揆勢とともに挟撃。その後各島々を順に制圧するみたいだ。ん・・・これは」
「どうされましたか」
「陸軍はこの機会に呂宋周辺の国も制圧するつもりみたいだな」
「まさか」
それに関しては聞いていなかったのか、広幸殿が驚きの声をあげる。
「そういえば、先代様が御存命の時の評定で内務奉行所と産業奉行所が高山国・蝦夷地以外の移民先を確保すべきと主張したと聞いたことがある。たしか三成殿と長安殿だったのではなかったかな」
「その話であれば私も聞いたことが。何でも戦が無くなったことで人口が急増し、今の領地だけでは賄いきれなくなるとか。それを防ぐために移民先の確保が必要だと」
「そこに序列として水軍の下と見られている陸軍が加わったか」
どちらが先に言いだしたか分からないが、陸軍の地位向上のために手柄が必要なのだろう。優先順位としては水軍の方が上とされていることに不満を持つ者は少なくないはずだ。内務奉行所は領地が広がれば権限も増やせると考えているか。産業奉行所は開墾できる土地が減ることで権限が縮小されるのを恐れたか。
「この計画書は御屋形様も」
「おそらく承知されているだろう」
出なければこのような大胆な計画は立てられないはずだ。
「とりあえず一揆を起こすというのであれば、その際に船の破壊も一緒に行ってもらいましょう。そのうえで残った船は陸軍が上陸する前に船からの砲撃で」
「そうなると輸送部隊と攻撃部隊に分かれる必要があるな。船は足りるだろうか」
「陸軍を上陸させたうえで攻撃するというのは」
「陸軍が文句を言うのが目に見えている。先に潰そう。そして陸軍が呂宋を制圧している間にほかの国の水軍を叩く」
陸軍はせいぜいその後始末をすればいい。手柄を全てくれてやるものか。




