西郷氏
―――――――――1542年2月1日 日野江城 西郷純久―――――――――
「兄上、千葉の件ですが」
兄上の自室に行き千葉氏との連携の件についての報告に行く。正直なところあまり気が進まん。
「おお、あれか。してどうなった」
「無理でした。西千葉氏は少弐氏に属しており少弐氏は宗と同盟を結んでおります。東千葉氏は最近当主の千葉喜胤が病にかかっているようでとてもではありませんが出陣できませんな。念のため多久氏に接触してみましたが随分と宗を恐れているようで協力できるかと追い返されました」
「ちっ、間の悪い奴だな。そんなざまだから家が二つに割れてしまうのだ」
「兄上、千葉が割れているのは80年近く前の事です。」
「分かっとるわい」
そういいながら不機嫌そうに鼻息を立てた。まぁ、兄上が不機嫌になるのも仕方ないが。これで宗の対策を考え直さねばならんからな。
「今、宗はどのような様子で?」
「大した働き者じゃよ。正月を除けば毎日のように海上に来ては船を襲っておるわ。そのくせにどうやら今後儂らのところに船を入れないのであれば色を付けて積荷を返すと言っておるようだ。おかげで今港に入る船が激減しておる」
「それはまた迷惑な話ですな。それに色を付けて返すのであれば商人にはあまり不満が溜まらないでしょう。そして宗に遠慮するようになる。うまいことを考えますな。追い払えないので?」
「気に食わんことにあの妙な武器を船にもつけているようでな。近づく前に沈められてしまう」
妙な武器とはあの鉄の球を放つ武器の事か。確かに攻撃の届かぬところからあれをやられては手も足も出なかろう。
「しかし、あの武器はいったい何なのだ。純久は知っておるか」
「さて、分かりませぬ。すぐに攻めてこなかったところを見るとあまり陸では使いにくいものなのではないでしょうか」
「まぁ、鉄の球なぞすぐには用意できんだろうしの」
「しかし、そろそろ攻めてくるのではないでしょうか。おそらく宗も千葉の件は承知のはずですので」
「嬉野を取られたのは痛いの。あのあたりの忍びはなかなか優秀であったから宗の出陣の前触れはすぐにわかってあったであろうに」
「真ですな」
情報の方でも後れを取っている。ま、私にできることはあの馬鹿息子とそれに同調する者どもを抑えることぐらいだな。
―――――――――1542年11月30日 勢福寺城 馬場頼周―――――――――
冬尚様より自室に来るようにと呼び出しがあった。何かあったらだろうか。
「失礼いたします」
部屋に入ると横岳資誠殿と龍造寺家兼が既にいた。
「遅いぞ、頼周」
「申し訳ございません。それで本日はどのような」
「うむ、手紙が2通来てな。1つは宗熊太郎から、もう1つは有馬晴純から」
「晴純?なぜそのようなところから手紙が」
真っ先に反応したのは家兼であった。以前から龍造寺は有馬の脅威に悩まされていたはず。
「それで手紙にはなんと?」
資誠殿が先を促す。
「宗熊太郎からは我らが千葉氏を抑えていてくれているから安心して有馬攻めに集中できる、おかげで有馬を平松城以南に追い込み大村は西彼杵に攻め入り滅亡寸前まで追い込むことができた、有馬攻略後も仲良くしていきたいと書かれておった。有馬晴純からは宗の背後をついてほしい、松浦郡・杵島郡は好きにして構わないと」
「あり得ませんな」
家兼は冬尚様が結論を出す前に断言した。冬尚様が意見を求めたのであれば別だが冬尚様がまだご自分の意見を言っていないのに自分の意見を言うとは不遜であろう。
「我らは宗と同盟を結んでいるのです。それを破れば足元が不安定な我らはすぐに崩れます。大友殿も黙ってはおられないでしょうし大内もそのような好機を逃すはずがございません。今は戦を控えて千葉のように養子や婚姻などで味方を増やすべきかと」
「しかし、このままでは我らは西に勢力を伸ばすことができません」
いいぞ資誠殿、もっと言ってやれ。先の戦で大内に味方して主人を見捨てた輩なぞ言い負かしてしまえ。
「なぜ、西に領地を求める。我らの目的は太宰府の奪還であろう」
「そ、それはそうですが」
ええい、何を言い負かされようとしておる。そして助け舟を求めるようにこちらを見るでない。
「家兼、そう言うでない。資誠は太宰府の奪還のためにも西をしっかりと押さえておきたいと言いたかったのであろう」
「ははっ」
「それよりこれからだ。俺としてはまずは筑紫を討ち取りたい」
その通りだな。筑紫は少弐の家臣でありながら大内に通じたのだ。さっさとつぶすに限る。
「では、宗とはこれまで通りということでしょうか」
「うーむ、もともと宗は少弐の家臣だったのだ。少弐に従うのは当然であろう。2月に筑紫を攻める時、熊太郎に兵を率いらせよう」
「殿!?何を言われているのですか。そのようなこと宗が認めるわけがないでしょう。この間の同盟で少弐と宗は対等であると認めたようなもの。それをいまさら家臣だから従えなんて言っても関係が悪くなるだけです。それにこの同盟は大友様も参加なさっています。つまり宗の立場は大友様も認めたということ。それを崩すのは大友様の顔に泥を塗るようなものです。どうか御考え直しを」
家兼が畳にこすりつけるように頭を下げる。そこまでするのは立派だが家臣が当主の為すことに口を出すのはようないな。
「うるさい、俺が少弐の当主なのだ。下がれ」
「・・・はっ」
不満そうに返事をして下がる。
「頼周はこのことを宗に伝えてまいれ」
「はっ」
さて、冬尚様のご期待に沿うよう頑張るとするか。




