リーフデ号事件
―――――――――1600年5月12日 大坂城 惟宗長康―――――――――
「失礼します。貞親殿、および南蛮人の代表たちが参りました」
「入れ」
「はっ」
俺の言葉に返事をして康正大叔父上と貞親叔父上・三人の南蛮人・通訳が入ってきた。奉行や次官たちが一斉にそちらの方を見る。
「話には聞いている。叔父上もそこの南蛮人も災難だったな」
「いえ、内貞から話は聞いていましたので。それを参考にできました」
そういえばサン・フェリペ号の時といい、数少ない親族衆のところにばかり漂着するな。
「それで報告書に書いてあったのは見たが、イスパニア以外の国から来たそうだな」
「Et respondendum est nomen patria.」
「Ego sum primogenitus Batavi Jan van Joosten Lodensteijn van labe Roden.」
「この者はヤン・ヨーステン・ファン・ローデンステイン。阿蘭陀という国から来たようです」
「Melchioris Spiritus mihi van culpa. Principio ab the Netherlands. Non fuit autem scribae et No. Rifude.」
「この者はメルヒオール・ファン・サントフォールト。同じく阿蘭陀という国から来たようで、難破した船の書記をしていたようです」
「Ego William Adams. Anglia patria est.」
「この者はウィリアム・アダムス。英蘭から来たようです」
「英蘭というと使節たちが行っているところだな。入れ違いになったのか」
「Nos autem non est missio in occursum nobis?」
「Non vidistis.」
「使節とは会っていないようです」
となるとまだ交渉をする前の状況で出航したことになるのか。
「それでこちらの方に来た目的は何だ」
「Quod ad nauigandi?」
「Et hoc est, quia in commercia cum extremis Orientis regionibus.」
「日ノ本や南方の国々と交易をするためだそうです」
「なにっ。そうか、そうか。交易か」
使節が帰ってくるまではめどが立たないと思っていたがこれは運がいい。この奇貨を利用しないわけにはいかないな。
「ならばぜひ行いたいものだ。英蘭には使節を派遣したが阿蘭陀にはまだだ。其の方らには交渉の窓口になってほしい。もちろん報酬は渡そう。幕府の役人の一人として英蘭や阿蘭陀と交渉してほしい」
「御屋形様、それは危険では」
俺の言葉に頼房が抗議の声をあげる。
「この者たちが間者となる可能性があります」
「新撰組に監視させる。危険性を考慮してもこの者たちを雇った時の利益が大きい。交易相手が増えるのは歓迎すべきことだろう。通訳、さっさと伝えてくれ」
「はっ。Unde volo te patriae conducit ad tractandum.」
通訳が俺の言葉を伝えると三人で話し始めた。そして代表してウィリアムが発言する。
「Si conductum erit aut patriam regredi?」
「雇われた場合、故郷に帰れないのではないかと心配しています」
「ある程度の成果をあげれば故郷に戻ることも認めよう。また交渉のために必要であれば外務奉行所のものと一緒に帰ることも認める」
「Ea res aliqua nomina reciperentur.Est etiam bene fieri potest ut, si quid opus est.」
「Ceteris nautarum futurum?」
「ほかの船員たちはどうなるかと言っています」
「希望する者がいれば雇おう」
「Ut quis pretium velit.」
通訳の言葉を聞いて再び三人が話し合いを始めた。
「Velim conduci.」
「Ego quoque tibi gratias ago.」
「Volo revertetur ad terram suam.」
「ウィリアムとヤン・ヨーステンは雇われたいと。メルヒオールは故郷に帰りたいと言っています」
「Volo autem et para trade in Netherlands.」
「そして阿蘭陀で交易の準備をしたいと言っています」
「つまり日ノ本の窓口にウィリアムとヤン・ヨーステンが、オランダの窓口にメルヒオールがなるということか。うんうん、いいぞ」
むしろそっちの方が交渉が潤滑に進むだろう。特に阿蘭陀は使節を派遣していない。英蘭の方は使節が何とかしてくれるだろうから阿蘭陀の方をどうにかしないと。
「康繁」
「はっ」
「すぐに外務奉行所内に相応の役職を作ってくれ。良通」
「はっ」
「報酬の準備を頼む。ケチケチするなよ。貞親叔父上」
「はっ」
「すぐにほかの船員にどうするか確認してくれ。それから帰国を望む者たちのための船の建設も頼む。費用は幕府が持つ」
父上が亡くなってすぐに状況が大きく変化した。これからは俺が指揮を執るんだ。




