二代目鎮守府大将軍
――――――――1599年10月20日 大坂城 惟宗長康―――――――――
「こんな形で鎮守府大将軍になるとは思わなかったな」
「急なことでしたな」
俺の言葉に貞親叔父上が答える。
「これから忙しくなります。早めにお休みになられた方がよろしいかと」
「そういう訳にはいかないよ、内貞叔父上。父上が祖父様から受け継いだものを俺が発展させて次につなげなければならないんだ」
日ノ本の民が連れ去られて、明が交易の障害となる増税を行おうとしている。ここで立ち止まることはできない。
「明日の将軍宣下の勅使は西園寺公益です。先代様の時はこちらが上洛して将軍宣下を行いましたが、今回は逆です」
「幕府と朝廷との力関係を明確に示すためだな」
「はい。そのあたりのことは公益も把握しています。そしてそれをもっと明確に示すために御屋形様には上座に座っていただきます」
「それは・・・いいのか。先例がないだろう」
そんなことは父上も祖父様もしなかった。
「構いません。あなたが先例となるのです。惟宗家当主であるあなたが頭を下げていいのは帝ただ一人だけ。帝の代理である勅使にすら惟宗家当主に頭を下げなければならないと知らしめるのです」
「先例になる、か」
「はい。そしてもう一つの先例となっていただきます」
もう一つの先例?なにかあっただろうか。
「先代様は公武の棟梁を目指されました。その完成形です。正月の除目にて御屋形様には太政大臣に任ぜられます」
「太政大臣・・・それは父上が」
「はい。先代様が御存命の頃より計画されていたことです。御屋形様が鎮守府大将軍になられるときには太政大臣になり公武の棟梁となる。そうすることで幕府の指導力を不動のものにするのです」
「そうか・・・」
俺が父上にいくら奴隷の件で報復をすることを求めたり、外に出ることを意見しても認めなかった。それは足元を固めることを優先するべきだと考えられたのだろうな。それが初代鎮守府大将軍としての務めだと考えられたのだろう。
「父上は俺がどうすることを望まれているだろうな」
「さて、どうでしょうなぁ。貞親、どう思う」
「どうって言われてもなぁ・・・しかし先代様も、兄上も父上が亡くなった時に似たようなことを考えられたでしょう。そしてご自分なりの考えを持たれたはずです。ならば御屋形様がどのような治世を目指されても問題ないでしょう。もちろん悪しきほうに導かなければですが」
「そうか」
父上も悩まれていたのだな。やはりあの祖父様の跡を継ぐというのは相当な重圧があったのだろうな。
「そうだな。よし、俺は俺なりにだな。では内貞叔父上」
「はい」
「太政大臣の件が今回の将軍宣下で潰えないよう調整を怠るな。それから各大名が朝廷に献金できないようにしたい。その代わりに2万石の禁裏御料を用意する」
「かしこまりました」
ここまでは父上と同じ。ここからは俺の色を出していく。
「それから内貞叔父上」
「はっ」
「南方方面軍司令官として呂宋攻めと緊急時の唐土にいる日ノ本の民を救う計画をたてて参謀本部に提出してほしい」
「それは呂宋や唐土を攻める可能性があるということでしょうか」
「唐土に関していえば向こうが仕掛けてこない限り戦になることはないだろう。しかし唐土では一揆から国が倒されて新しい国ができることがよくある。その際に日ノ本が不利益を被るようなことがあってはならない。交渉に関しては外務奉行所が最善を尽くしてくれるだろう。陸軍は万が一に備えてほしい」
「かしこまりました。呂宋は」
「イスパニアが奴隷貿易に関係している可能性が高い。また使節団からの報告で呂宋の南の島の国には国を挙げて奴隷貿易を行っている。それから日ノ本を守るためには呂宋を押さえておいた方がいいだろう。しかし交易がある。実際に行うかどうかは使節団の成果次第だ」
「かしこまりました」
交易相手が見つかり次第、日ノ本が舐められないように見せしめとしてイスパニアを呂宋からたたき出す。日ノ本をなめている南蛮人どもに力を見せつけるのだ。
「祖父様は国家安康を目指され、父上は公武の棟梁を目指された。俺は惟宗の名をあらゆる国に知らしめる。そして領地を増やす」
「領地を増やす必要はありますか」
「国力を増やすためには土地が必要だろう。それに戦がなくなったことで人が死ぬ原因の一つがなくなった。その分人を生むだろう。戦で使っていた資源もほかのことに使えるようになり、開墾もはかどるだろう。そうなればすぐに開墾できる土地がなくなる。それでも人は増え続けるから飢餓が慢性化する。いつだったか、祖父様が言っていたことだ」
あの時はよくわからなかった。でも父上に言われていろんな仕事をしているうちにその可能性はあるのではないかと思うようになってきた。
「俺に武功がないことで焦ったというものが現れるかもしれない。それもある。俺は戦がしたい。祖父様や父上のように戦場に立ってみた。でもそれはもう無理だ。ならばせめて戦をおこしてみたい。なあ、これは我儘か」
「我儘かもしれません。しかしよいではありませんか。わが父、惟宗国康は対馬は小さいと我儘を言って外に出ました。わが兄、惟宗貞康はあなたの未来を守りたいという我儘をかなえるために行動しました。御屋形様が我儘を言ってはいけないという道理もないでしょう」
「それにその我儘も道理は通っております。問題ないでしょう」
「そうか。ありがとう、叔父上達」




