平井氏
―――――――――――1541年4月20日 蟻尾城―――――――――――
「須古城主平井経治にございます。本日より宗家に忠義を誓わせていただきます」
「内海城主内海政通にございます。同じく宗家に忠義を誓わせていただきます」
「風南城主岩永杢右衛門にございます。同じく宗家に忠義を誓わせていただきまする」
「塩吹城主原直勝にございます。非才の身ではございますが存分にお使いください」
目の前で男が四人平伏している。皆今回の戦が始まる前から俺に寝返ると言っていた者たちだ。
「宗熊太郎だ。面を上げよ」
「「「「はっ」」」」
「今回の戦ではよく働いてくれたと聞く。感謝するぞ」
「勿体なきお言葉にございます」
四人を代表して経治が返事をした。
「経治は天下無双の勇将と聞いているぞ。それに今回の戦で後藤純明を討ち取ったと聞く。その功を以て兵法衆に任ずる」
「あ、ありがたき幸せ。この経治、身命を賭して働かせていただきます」
「うむ、ほかのものも功があれば譜代・外様に関係なくそれに見合った恩賞や地位に任ずるつもりだ。皆励んでくれ」
「「「はっ」」」
「ではこのまま軍議に移ろうと思う。我らは山浦城まで落としたのだがこれから田植えの時期だ。宗はともかくまだ銭の兵が整っていない国人もいる。このまま攻め続けるか、来年まで待つか」
今回の戦で有馬はそれなり以上の被害を受けたと思う。対して宗は許容範囲だった。おそらくこのまま攻めれば藤津郡から完全に追い出すことができると思う。だがこの時期に戦を仕掛ければ収穫に差し支える。
「熊太郎様、ここは有馬に息をつかせる前に攻め入るべきです」
初めに意見を言ったのは智正だった。
「有馬はいま、朝長純兵や大村純前といった有力な家臣や同盟者を失いました。時を与えて持ち直される前にできるだけ敵に損害を与えておくべきです」
「いや、待たれよ。某は反対です」
反対の声を上げたのは調親だ。
「今回の戦で我らはそれほど被害は受けませんでした。しかしそれは兵の数の話です。火薬や鉄砲の弾など消耗品がかなり減りました。我らの強みである鉄砲隊が使えない状態で戦を仕掛けると余計な損害を受けることになるかと」
さすが兵站衆、皆とは違う視点で語っている。確かに今回は援軍が到着する前に有馬が総攻撃に出たためかなりの火薬を使ったようだ。戦の中で三段撃ちも使われたためなかなか敵を寄せ付けなかったが大量に火薬・弾丸を使った。ちなみに途中で敵の攻勢が弱まった時に大筒で敵の本陣を攻撃したがなかなか当たらなかったのと敵の攻勢が強まったため本陣近くに落とせたのは2・3発だけらしい。
「鉄砲がなくても問題はないのではないのでは。我らは鉄砲を輸入する前はそうして戦をしてきたのですし」
おい、そんなことを言うんじゃないよ尚久。調親は鉄砲隊を率いているんだぞ。ほら、調親が鬼のような形相じゃないか。
「とりあえず、兵糧・火薬などをそろえて有馬・大村を攻める。それまでは水軍を使い有馬・大村の海上を荒し回復を遅らせる」
「「「はっ」」」
さっそく岸岳城に戻って康範や盛定と相談するとしよう。
――――――――1541年11月1日 日野江城 西郷純久――――――――
兄上の部屋に行くとそこでは落ち着きなく歩き回る兄上がいた。
「おのれ、おのれ、おのれ。いったい宗はどれだけ儂の邪魔をすれば気がすむのだ」
「兄上、失礼いたします」
「む、純久か。よいのか、西郷の家臣どもは独立心が妙に強いから今こそ反旗を翻す時だとか言われていると思っておったが」
「数名ほど上意討ちにしました。どうせ独立しても兄上か宗につぶされてしまうだけですので」
「息子のほうはそのように思っていないようだが」
ふふっ、やはり把握していたか。さすが兄上よ。身内でも油断していない。
「まぁ、あれは私が死んだら反旗を翻すかもしれませんが兄上であれば後れを取らないでしょう」
「阿呆。そのころには儂も死んでおるわ」
「いやいや、兄上はそうそう死なないでしょう。少なくとも私よりは長生きしますよ。現に先の戦では重臣たちが死んだのに兄上は怪我しただけですんだではないですか」
「さっさとあそこで死んでお主に後を押し付けておけばよかったわい。有馬の財源の一つである交易を宗の水軍に妨害されてなかなかうまくいかん。重臣どももなぜあのような場所で死によったのか」
まったく、兄上は素直ではないな。純粋に悲しんでおればよいのにそれを表に出さずに冷酷な当主のふりをして。そのような兄だから支えていきたいと思えるのだが。
「それより大村はどうなった。勝童丸が継ぐことになりそうか」
「それ以外に選択肢があるとでも?純前の子の又八郎は純明の養子になり後藤の当主になったのです。今更担ぎ出すのは筋違いでしょう」
「ま、そうではあるがの。しかし有馬の力が弱まった今、我らを喰らおうとしてもおかしくはなかろう」
喰らうか、まさしくその通りではあるが。
「有馬の力が弱まったように大村も弱まったのです。むしろ当主を失った大村の方が混乱しているはず。どちらかというとこちらに依存してくる可能性の方が高いかと」
「であればいいがの。それより宗の目をこちらから引き剥がしたい。何とかならんか」
「そうですな・・・千葉を使いましょう。千葉も杵島郡を狙っていたはずですので掛け合ってみましょう」
「頼む」
「はっ」
まぁ、あの宗が手を入れていないとは思わんが。何とかするとしよう。
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これも皆さまのおかげです。今後ともよろしくお願いいたします。




